第31話 金食いソトは師匠の夢を見るか
転移陣で村に戻り、早々にゼップガルドへと戻ったカデュウ達には、最初にやらなくてはならない事があるのだった。
「報酬の金貨5000枚を預かっておりますが、全て受け取りますか? ギルドで預かっておく事も可能です」
ギルドで剣を売った代金を受け取り、トーラに金貨を渡さなくてはならないのであった。
今回受付にいた職員は女性である。はじめて見る顔だ。
「預けておくと他のギルドで出せないですし。全額持っていきます」
「お待たせしました、行きましょうか」
「くくく。これで魔霊石が正式に私の物に……」
「ソト師匠の分、結構な料金が魔霊石代金なんですけど」
「細かい事は気にするな」
魔霊石の価格は、大きさや込められている魔力量によって変わる。
ソトが購入したのは、大きめの物が2つで金貨40枚程、中くらいの物が5つで金貨25枚程、しめて金貨65枚。
消耗品としてはちょっと信じられない価格だ。
ゴブリン如きに使っていたら、赤字なのは間違いない。
安い方でも1回魔術を使ってもらうだけで金貨5枚吹っ飛ぶ計算になる。
今回はトーラが、抱き合わせで値引きしてくれたので多少マシだが、それでも気軽には使えない。
これでは他のパーティに逃げられるわけだ。
「そういえばソト師匠って何を教えてくれるんですか?」
「……え?」
静かな時間が訪れる。ソトとカデュウが見つめ合ったまま。
「えー、そこはあれだ。私は天才魔術師だぞ? 魔術の事なら何でも聞くが良い。……あと、あと冒険の事とか……。えーと、そうだ、戦いの立ち回りなんかもな」
しどろもどろに弁解を始めるソトの姿は小動物のようであった。
何か危機感を募らせたのかもしれない。
「まだ一度も師匠の魔術見た事ないんですが……」
「……まだししょーに教わった事が無い」
弟子であるイスマが告発を行った。
うん。初対面で師匠面しといて、なんにも教えた事なかったよね。
関係ない豆知識ぐらいだよね。
「などと弟子が訴え出ていますが?」
「いや、ずっとシュバイニーを出してるだけの召喚士に何を教えりゃいいんだ、逆に」
「まあ、それは確かに……」
「うむそうだ。イスマにも立ち回りを教えておいてやろう」
戦いの場での立ち回りは重要だ。
パーティでの戦いで、居て欲しい時に居て欲しい場所に居る、という事はある意味で剣技などより大切な事だ。
連携して攻撃をしないタイプであっても、どこにいれば仲間の手をわずらわせず安全でいられるか、という点は求められる。
「というわけで君達。ちゃんと師匠を崇めて、この石を買ってあげるんだぞ」
魔霊石を見せびらかして、露骨に要求するソト。
正直でよろしい。と言いたくなる程にストレートな清々しさのある物欲であった。
「まあ、いいですけどね。愛称みたいなものですし」
「うむうむ。ちゃんと敬愛をもって呼ぶんだぞ」
「ささ、そろそろ行きましょうか。代金の支払いをして、交易ギルドへ」
適当にソトをあしらって、トーラの店へと赴いた。
約束の代金を支払い、他の物を売りつけられないようにそそくさと店を出る。
「さて、次は交易ギルドか? 我々冒険者にはあまり縁のない場所だが」
やはり普通の冒険者は、ソトが言うように用事が無いのだろう。
雑貨類が必要な時に安く仕入れる事も出来るのだが、商品の範囲が広く雑多に色々置いてある場所なので探すのも大変だ。
それに一般層が買いに来る場所という事もあり、あまり肉体派の強面がうろちょろしているのは歓迎されない。
「僕は元々交易商人の子だったので何度か行きましたね」
「……意外。アサシンかと思ってた」
「まともな戦士の動きじゃないぞ。マルクの奴らと戦った時にそういう連中がいたが」
「暗殺者をしてた事なんてないですから!」
イスマやシュバイニーにまで
暗殺者扱いが根付いている……。
もっと違う部分をアピールしていかなくては。
ちなみに、マルクとかカヌスア大陸にあるマルク帝国の事だ。
「それで、交易ギルドはどこだ? 暗殺者のカデュウ、誰を殺る?」
「……人聞きの悪い言い方はやめてください、ソト師匠。交易ギルドは南門の付近ですね、南側のルクセンシュタッツとの国交の方が重視されている影響でしょうか」
「……ああ、そういえば。カデュウと似た動きをする奴らがいたな。フド傭兵団っていう陰気な連中なんだが」
「フド傭兵団?」
「うん。傭兵団を名乗ってはいるが、主な仕事は潜入や破壊工作の類だな。隠密のスペシャリスト集団で、傭兵団の中でも特殊な立ち位置になってる」
「傭兵団って戦う以外にも色々あるんですね」
「大抵のとこは戦うだけの連中だけどなー。……もしかしたらカデュウの先生とやらが、フド傭兵団の出身という可能性はあるのかもな」
先生の背景については意外にもカデュウは考えた事がなかった。そのうち旅をしていればポロっと判明する事もあるのかもしれない。
その意味でソトの話は興味深いものであった。
それはそれとして暗殺者扱いには抗議したい。




