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りそまお~理想の開拓スローライフは魔王城から~  作者: 絵羽おもち
第1章 まったり冒険な開拓準備
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第27話 イカレ野郎の依頼をこなそう

「さて、休みもとった事だし、そろそろ最後の依頼に取り掛かりますか」

「ああ、あの変な依頼か。この街に住んでるんだっけか」


 何もかも丸投げしているとはいえ、ソトは冒険者の先輩であり指導者である。

 一応、相談役にはなってくれるので、新人のカデュウも助けられてはいた。

 ……普通は指導者が率先して仕切る立場のはずなんだけど。


「ええ。ですから、出発の希望日を聞く為に依頼者に会いに行こうと思うんです」

「うむ、了解だ。指導者として後ろで見守ってやるとも」

「心強くて涙が出ますね」

「うむ、そうだろう」


 適当にソトと掛け合いをしつつ、依頼人が暮らす場所へと向かう。

 石畳の道路は所々劣化している。あまり手入れがされていないのだろう。

 道の整備がされていないという事は、支配層に街を発展させる意識が薄いのだ。

 人は荒れ果てたガタガタの道よりも整備された快適な道を好む。


 特に馬車を使う階層の人種にはガタガタの道は致命的だ。

 馬車はそういう道を通るように出来てはいない。

 乗り心地は最悪になるし、無理に走ってお高い馬車が壊れたら大変だ。

 そして馬車を使う層とは商人も含まれる。

 商人が避けるという事は物流が細り、そして景気も悪くなっていく。


「護衛を依頼してきたターレス・アルベルティさんは、東門付近に住んでいるようですね」

「そいつが、創造性が溢れてくる景色がどうとかいう、頭のおかしい依頼を出してきたイカレ野郎か」

「そのイカレ野郎ですね」


 ソトの言い方もなかなか酷いが、依頼人の正気を疑う内容なので同意せざるを得ない。

 冒険者ギルド側に、依頼失敗しても気にするなみたいな扱いになってるあたりで、お察しであった。




「……ここかな?」


 依頼書に書かれた依頼人指定の住所を確認する。

 そこには、煙突から煙を上げる小規模な工房が建っていた。


 その煉瓦で出来た工房は、周囲の家やこの街の店などと比較しても見事な、とても洗練された建物だった。


「意外とまともというか、立派な建物に住んでるようだな」

「創造性がなんたらと気にする人ですからね、納得ではあります」


 芸術家気質のようなこだわりは、当然自分の工房にも及ぶのだろう。

 ソトとカデュウが鑑賞しながらも、工房の扉を叩く。

 少したってから、その扉が開いた。


「誰かね。私は忙しいのだが」


 神経質そうな表情で現れたのは、ロマンスグレーのアゴ髭の男性であった。


「冒険者ギルドから紹介されてきました、冒険者のカデュウと申します」

「同じく、ソトだ」

「冒険者……。ああ、あの依頼かね。前に来た連中以来、なかなか次が来ないから忘れていたよ。私が依頼を出したターレス・アルベルティだ」


 今まさに作業中、という汚れだらけのエプロンをつけたターレスは、あまり期待していなそうな表情でカデュウ達に向き合った。


「遅くなり申し訳ございません。ご依頼内容は、創造性が溢れてくる景色に連れて行って欲しいとの事でしたが……」

「何度も冒険者から紹介されあちこちに行ったが、どこもろくでもなかった。君達はきちんと依頼内容を理解しているのだろうね。かなり若いお嬢さん方だが」


「言葉以上には理解はできません。ですが、心当たりはありますので、ご紹介させて頂きます」

「……まあいい。私が見てみない事には始まらんのだしな、それでいつ出発だ?」


「準備もあるでしょうから、明日の早朝こちらの工房にお伺いいたしましょうか」

「ああ、それでいい。……ではな」


 用件は済んだとばかりに、ターレスはすぐ扉を閉めて戻っていった。

 カデュウ達もそれ以上の用はないので、そのまま元来た道を引き返していく。



 翌日。宿の朝食をとり、ターレス・アルベルティ氏の工房に向かった。

 朝食は小麦のパンに自家製バターを塗ったものと、ソーセージやレタスが用意されていた。

 高級品ではないが自家製の新鮮さなどもあって、カデュウも満足の美味しさだ。


「来たか。では案内を頼むぞ。無駄足にならないといいが」


 やはりあまり期待はしていないのだろう、ターレスの口調からも伝わってくる。

 他の冒険者のやった事とは言え、何度も足を運んで何度も残念な結果に終わっているのだから、仕方のない面はあるが。






 そして、特に何の苦労も異変もなく、3日間の道程を終えて目的地へとたどり着いた。

 アインガング村だ。


「……ただの村にしか見えんのだが? ……まさかここが創造性溢れる場所だとは言わないだろうね?」


 依頼人のご機嫌が斜めになっていらっしゃった。

 どうみてもただの村で、実際もただの村なのだから仕方のない事ではあるが。


「いえ、お見せしたいのはこちらです」


 カデュウが案内した先は、古い石造りの倉庫であった。

 村長が出迎えてくれている。


「冒険者様、また立ち寄っていただけて嬉しいですぞ。皆さん以前よりご立派になられて」

「村長さん、あの時はとても助かりました。申し訳ありませんが、少々倉庫の中を貸していただければ」

「はて、倉庫ですか? 構いませんぞ」


 村長と共に、石造の倉庫の前までやってきた。


「おいおい、農家の倉庫なんか見てどうするんだ。芋でも探すのか」


 そして当然ながら苦情が入る。

 その苦情をなだめつつ、倉庫の奥に歩みを進めた。

 一定のところまで来た時に。


 光る。

 古の石畳から、魔力の光が出でて、見事な魔術陣を描き上げる。


「な……、これは……!?」

「さ、一緒にどうぞ」

「ほほう。これが話に聞いていたかの転移陣か……」


 最初の時には居なかったソトが、驚きと共に喜びを含んだ声で魔術陣を鑑賞していた。


「はわ、はわわ。なんじゃこりゃ、うちの倉庫がこんな事になっとるとは……」


 ドサ。と物音がした後ろを見れば村長が腰を抜かしていた。

 ちょっと驚かしてしまったかもしれない。


「村長さんは離れていてくださいね」


 そう伝えると、カデュウはターレスの背中を押し共に転移陣の上に立つ。

 見る見るうちに光に包まれる。他の仲間も一緒に。光の中へ。

 今回はしっかりと見続けた。転移する瞬間を。


 煌々とした光が徐々に収まり周囲の景色が見えるようになった時、すでに転移先へと到着していたのだが。




「……驚いた。農家の倉庫にいたはずなのに、廃墟に来てしまった。いや、驚いた」


 そうこぼしながら、ターレスのその視線は周囲を見つめ続けている。

 カデュウ達にとっても、明るい時間にこの場所を見るのははじめてだ。

 ドラゴンや危険な生物がいるかもしれないし、まずは何があるのか確認を――。


「なんだ、あれは……」


 依頼主である芸術家ターレスが、驚きの声をあげた。

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