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りそまお~理想の開拓スローライフは魔王城から~  作者: 絵羽おもち
第1章 まったり冒険な開拓準備
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第25話 イストリア吟遊店 装備品

「みんな決まりましたよ、カデュウ。ささ、お披露目です」


 アイスに呼ばれ試着場に戻ると、新鮮な格好の仲間達の姿が立ち並んでいた。


 アイスは動きやすそうな剣士らしい服装に。

 イスマは神秘的な先程のローブだろうか。ちっさい子の背伸びした感が良い味だ。

 ソトは……金髪ロリの悪の魔術師みたいな感じになっている。


「うん、みんなとっても似合ってるね!」


 にっこりした笑顔を見せて、心から褒めた。

 悪の魔術師とか余計な事は言うべきではないのだ。


「サイズ的にそこまで選べるものはなかったですからね。その中で決めたので皆さん早かったですよ」

「服屋じゃないですしね。それでもこれだけあるのですから、凄いものです」

「……カデュウが変わってない」

「いや、僕も買うと予算がね……」


「えー、ここまでで。カデュウさんが金貨6枚、アイスさんが金貨150枚、イスマさんが金貨30枚、ソトさんが金貨280枚。しめて金貨466枚ですね」

「たっか!!」


 想像を絶する価格にカデュウは物凄くうろたえた表情で、仲間達とトーラの交互に視線を投げた。

 一番お高そうなローブより、アイスやソトの服が高いってどうなってるのだろう。


「アイスさんとソトさんの服は特殊素材を使い付与魔術で作られたものだからですね。イスマさんの服も同じなんですが、こちらはサイズ的に需要が少ない余りものなのでお安くしてあります」


 全部マジックアイテムというまさかの事態に、カデュウはなんてものすすめてるんだ、と思わざるを得なかった。

 高い、高すぎる。

 新人冒険者が買うようなものではない……。


「いやー、凄く良い服があって嬉しいです! これで私もカデュウ達とおそろいな雰囲気ですね」

「……いぇーい。新しい服気に入った」

「素晴らしいなこれは。まさに私の為にある私の服だ!」


 ……めちゃくちゃ乗り気になっている中で、やっぱり買えないなどと言い出せる雰囲気ではない。

 本当に予算がないのならともかく、大金がもうすぐ入る事は皆知っているのだ。

 アイスらは金銭感覚がわかってなさそうだし、ソトは率先して使いたがるタイプ。

 今の手持ちの金貨程度の予算で考えていたのだが、大幅に狂ってしまった。


「あ……あの。予算的に厳しいのですが……」

「はい! これだけ買っていただけるのですから、値引き致しますよ。全部まとめて金貨400枚でいかがですか!」


 トーラのその言葉にカデュウは退路を断たれた。

 ここまで一気に値引きされて断るなど商人の道徳が許さなかったのだ。

 勝った、という笑みを浮かべているトーラの表情。

 そこでカデュウは悟った。全てが手のひらの上で良いようにされていたのだと。


 このホビック、出来る……!

 ロリロリしい外見に騙されていた、なんてやり手の商人なんだ。


「トーラお嬢様。カデュウ様にも何か贈られてはいかがでしょう? これからご愛顧頂ける常連様になられるのですから」


 え? 常連確定なの? さらに執事さんが追い打ちをかけてきた。

 トーラもその案に乗り気で、ごそごそと何かを取り出す。


「そうですね! こちらのアサシンフードと暗器仕込みの籠手など……」

「なんでアサシン全開の装備なんですか!」

「え? だってカデュウさんってどんな人ですか? と皆さんに聞いたら、口を揃えて暗殺者だって」

「ちょっと君達! なんてこと言いふらしてるの!?」


 カデュウの追求に答えた3人の顔は、とても純粋な瞳で見つめ返してきた。


「正直に答えたのにー」

「……何故か怒られた。げせぬ」

「どう考えてもアサシンだぞ。素直に認めちゃえよ」


「この子達ってば……。涙が出てくる」


 正直に思ってる印象がちょっとどうかと思わざるを得ない。

 イメージ改善の必要性を痛感した。


「あははははは!」


 そのやり取りを見ていたトーラが笑い転げている。


「笑った笑った。いやー、面白かったですよ。その芸に相応しいものを進呈しなくてはいけませんね!」

「芸じゃないんです……」

「さ。これをどうぞ。さっきの暗殺教団ニザリーヤの装備品じゃないですから」


 そのさっきの装備の出元の方が気になるのだが。

 裏の世界でそんな組織があるの?

 その装備つけてたら、多分その怪しい人たちに狙われるよね?

 などと色々思う事はあるが、黙って差し出された服を受け取った。


「これは……。凄く軽くて柔らかい、この手触りも。それでいて落ち着いた雰囲気のマントですね」

妖精銀(フェアリウム)が糸として編みこまれた特殊繊維を使っています」


 羽織ってみると、まるで重さを感じない事に驚いた。

 しかも、カデュウに丁度良いサイズだ。


「凄く良いですね。とても気に入りました! サイズもぴったりです!」

「それはよかった。そちらは差し上げますよ」

「でも、こんな良いものをタダで頂くわけには……」


「いえいえ。常連さんになって頂ければそれでいいのです。うちの品物は割とお高い物も多いですからね! 先行投資ですよ!」


「ありがとうございます! とても嬉しいですよ!」

「それに、在庫処分みたいなものですからねえ……。素材から注文してくれた冒険者さんが、帰らぬ人になっちゃって……」


 とても不吉な代物だった。

 ……まぁ品物の質はとても高いのだ。

 文句を言う筋ではない。感謝すべきものなのは間違いなかった。

 そこでカデュウはふと違和感に気付いた。


「……ん? これだけ高価な素材の品を発注しているのに、僕とサイズが同じ?」

「ええ。小さな女性の方でした。胸のない」

「マントに胸とか関係ないでしょ! ……今のこの服には合うだろうけど」


 マントである程度隠せると考えるべきなのだろうか。

 女装化が進行している、とも思えてしまうのだけど。


「大丈夫、良くお似合いです! とても可愛らしいですよ!」


 可愛らしくなったら困るんです。

 だがしかし、確かに高品質な品だ。

 これを無償で頂けるのだから多少は目をつむるべきではなかろうか。

 カデュウはそう自分に言い聞かせた。


「ところでその、支払いなんですが。お金が入ってくるまでに数日かかるので今すぐには払えないのです……」

「あー。そのぐらいでしたら、この街のこの場所に滞在してますから、構いませんよ」


「ありがとうございます。必ずお支払いしますから」

「いえいえ、お買い上げありがとうございます」




「それでは。最後に物語をお聞かせしましょう」

「え? 物語、ですか?」

「よく吟遊詩人さんが来るので、面白い話も教えてくれるんですよね」


 各地に旅する吟遊詩人愛用の店ともなれば、聞ける話もさぞ豊富であろう。

 知らない話を聞けるのは楽しいものだ。


「いいですね、面白い話は歓迎ですよ」

「……謎さーびす」


 それまで明るい表情だったトーラが、雰囲気と共に真剣な顔つきへと変貌した。

 こだわりがあるというか、……なかなか演技派である。


「では。はじめてのお客様。――これよりは伝説の英雄のお話を、吟じましょう」


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