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第26話 遺跡周辺の森

 多くの魔獣が確認され被害も出ているというファナキア北部の森付近にある村。

 カデュウたちが到着したころにはもう夜になっていたが、魔獣への備えなのだろう、村のあちこちに明かりが灯されていて、さほど不自由はなかった。

 森が近い影響もあって木造の家々だらけのこの村だが、幸いなことにさほど損害は見当たらない。

 しかしそれでも破損した物や一部穴の開いた家などが目視でき、戦いの場として荒れている様子はうかがえる。


 村の周辺や中では緊急依頼で集められた冒険者たちが野営を行い、見張りを配置していた。

 ハクアがそのうちのひとりに声をかけ、冒険者許可証をみせることで村の中へ入ることができた。


「アーク、この村で休もうか」

「そうだな、村で寝泊まりさせてもらうとしよう。交渉はハクア任せる。……これだけ冒険者がいればタダで護衛として使えるし、寝る時に見張りの交代もいらないぞ。楽で助かるな」


 野営をする時は交代で見張りを立てるのがセオリーだが、睡眠の途中で起きることになるし、いつ戦いになっても良いように気を張る影響か疲れが少し残る。

 しかしこれだけ冒険者が居る場所ならそちらが見張りをやってくれるので、その心配がいらないというわけだ。


「あらやだ、美しいアタシが冒険者に襲われるかもしれないわ」

「そんな目と頭がおかしい奴なんぞいてたまるか」


 マリアルイゼの戯言を、アークリーズが振り向かずあしらう。


「あ、そこの人。すみません、依頼で来た冒険者なんですが、こちらで一晩過ごしてもいいでしょうか?」


 ハクアが近くの女性冒険者に声をかけた。


「援軍の方でしょうか? ……良いとは思いますが、私の一存では答えられません。ここへ来ている冒険者の把握をしなくてはなりませんので、指揮をとるヌルディさんのところへ案内します。そちらで聞いていただけますか。他の方々はこちらでお待ちください」


 女性冒険者の言葉を承諾し、ハクアは指揮している者のところへと向かった。

 カデュウらが少し待っていると、すぐにハクアが交渉から戻ってくる。

 親指を立てて喜んでいるのでうまくいったのだろう。

 これで安全なこの地で夜を過ごすことができる。


「おっけーおっけー。話の分かる人で良かった。村の建物は村人が寝泊まりしてるらしいから、冒険者は野営だってさ。テントは貸してくれるのが、ありがたいね」


 タックが良さそうな場所を占有して皆でテントを張り、カデュウが夕食を作り始めた。

 何人かの冒険者が話しかけてきたりもしたが、皆が好意的であった。

 このような緊急時につまらないいざこざを起こすような厄介者の足手まといは、冒険者であっても傭兵であっても長生きはできない。

 そういう困った人材がいなかった幸運もあって快適な夜となった。




 翌日、朝早く準備を整えて、起きていた冒険者にお礼を伝えたあと一行は村を発った。

 村から歩いて少しの距離に森があるが、この位置から侵入すると問題の魔獣の群れと遭遇する可能性が非常に高い。

 アークリーズの提案で、少し直線距離では遠くなるがさらに北上し、側面から侵入することになった。

 どこに魔獣が多いのかは森の外からではわからないが、少なくとも明らかに多いとわかっている場所よりは無難であろう。


「さて、こっからが本番か。マリア、後衛は任せた。ホビック君は私の横で警戒してくれ。カデュウは……ハクアと中段にいて、無理せず怪我をしないように支援をな」


 森に到着するとともに、アークリーズの指示で隊列を戦闘態勢に切り替える。

 ここから先はいつ敵と遭遇してもおかしくない領域だ。


「任されたわ団長。アタシがいる限りバックアタックの心配はないわよ」

「ホビック君も了解ですよ、(あね)さん! 僕のなんかスゲー凄い感覚にお任せだじぇ!」


 発声と共に軽快に槍を操るマルアルイゼはさすがに頼りがいがありそうだ。

 タックの調子も相変わらずであった。

 ふてぶてしくも面白いムードで緊張をやわらげてくれる。


「わかりました! アークリーズさん!」


 カデュウも元気よく返事をした。

 安全に気を使ってくれているのが、アークリーズから伝わってくる。


「……ボクは?」


 ハクアが自身を指さしてつぶやいた。


「……わきまえてくれれば」

「なにその雑さ! しかもわきまえろって、何かやらかしたみたいじゃないか!」


「わかったわかった。……興味本位で勝手な行動をしなければそれでいい。古代の遺物なんかを見つけるとすぐ飛びつくからな、ハクアは。あと思い付きで変な術を使おうとするなよ。前はいきなり暴風が巻き起こって敵味方に混乱が……」

「あ、はい。すみませんすみません。もういいです、勘弁してください、ごめんなさい」


 どうやら過去に大分やらかしていたらしい。

 なぜあんなに自信たっぷりに苦情をあげたのか……。


 魔獣が出るからといって暗き深き闇の森というようなことはなく、ごく普通のクルミの木々が生えるごく普通の森だった。

 まだ朝方ということもあるかもしれないが、しばらく奥へと進んでも魔獣や魔物といった危険生物に今のところ出会っていない。

 変わった点といえるかわからないが、山菜のたぐいも見かけなかった。


「側面コース、上手く行ったかな。敵を見かけないね、アーク」

「そうだな、ハクア。このあたりの魔獣が村に押し寄せたんだろう」


「この辺食べられそうな植物が見当たらないね。住処を追われた魔獣たちが密集して、それで食べるものがなくなって人里に向かった、と見るべきかな」


 先頭のタックがあたりを観察しながらそう言った。

 ここに来るまでの間も、タックは森の生物にとっての食料である草や木の実をチェックしていた。


 活動範囲がとても広い冒険者という職業は強さ以外にも求められる能力が多い。

 例えば、野外活動は冒険者の基本であり、旅のノウハウや野営知識などは街を拠点にして活動する冒険者であっても必要なものだ。

 依頼によっては野外においての草木の知識や、足跡の追跡技術などの求められるケースもある。


 その手の野外活動の本職はレンジャー、狩人、薬師、山菜採りなど山や森で働く者たちなのだが、タックはそういった本職と同じか、それ以上の観察眼をもっていた。

 ホビックという種族自体が感覚に優れ、そういった分野を得意としているからだ。


「理屈の上じゃそうなるわねぇ。魔獣使い、という可能性もなくはないけれど」

「魔獣使い?……誰かが襲わせてるかもしれないって事でしょうか」


 マリアルイゼの発言を、カデュウは聞き返した。


 人類の脅威となる魔獣だが、その魔獣を調教し操る者たちが魔獣使いだ。

 魔獣を自在に操るとなれば戦力として強力なのだが、魔獣を従わせる天性の才が必要なので、あまり見かけることはない。

 カデュウの知る範囲の国では法で禁じられていないはずだが、一般人から毛嫌いされるという面はあるだろうと考える。

 ……それにエサ代も高くつきそうだ。


「ええ、そうよ。考えてもみて。今まで何事もなかった遺跡に突然アンデッドが発生し、付近の魔獣が逃げ出すほどの事態になっている。何らかの人為的な意図があると見るべきじゃない?」

「……パネ・ラミデはとうの昔に発掘済みの遺跡だ。すでに人の手が及んだ遺跡であっても、魔獣が住み着いたり、自然発生のアンデッドがうろついていることはありうる」


 マリアルイゼの推察に、ハクアは自身の見識を述べた。

 そしてさらに付け加える。


「……が規模が大きすぎる。邪教徒なり魔族なり、なんらかの黒幕がいて遺跡で何かをやっている、というパターンの方が。……うん、しっくりくるね。さすがマリアルイゼ」

「うふふ。元冒険者は伊達じゃないでしょ、だからって惚れちゃだめよ?」

「マリアに惚れる奴の顔を見てみたいね、むしろ」


「邪教徒……」


 カデュウがひっかかるものを感じてぼそりとつぶやいた。


――その時。


 タックが手を横に出し、一行に止まれという合図を行う。

 何かが来るのだ。

 パーティは即座に臨戦態勢を整えた。


「――魔獣だ。左前方、数8! 足音からして、これは大物が来るよ!」

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