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第23話 お茶会

「や、やあ、マリアルイゼ。相変わらず、強烈だね」

「強烈とはごあいさつねぇ。……あら、こちらの美少女は新しいお友達?」

「え、え。いえ、美少女ではなくて」


「こらこらこら。……若い子をいじめるんじゃない。お前みたいなのに迫られたら怖いだろ」


 いきなり振られてどうしたらいいかと慌てていたところ、アークリーズから助けが入った。


「いやねぇ。ちょっとごあいさつしただけじゃないの」

「……それよりもだ。暇つぶしにハクアたちの護衛に雇われることになった。ついてくるか、マリア?」

「ふぅん、良いわよ。相変わらずかわいい子には過保護ねぇ団長」

「モテる男は辛いじぇ……」

「あら、アタシの相手ならいつでもよくてよホビックのぼうや?」

「の、のーせんきゅーで……、がくがくぶるぶる」


 キリッ、っと格好つけたかと思ったら小動物のように怯えだすタック。

 その反応を見たマリアルイゼは呆れ顔で呟いた。


「冗談よ。アタシの好みはたくましい男性なんだから。そんなに怯えないで頂戴? アタシの鋼のメンタルが傷つくわぁ」

「ふふふ。やれやれ、頼もしいことで」


 その冗談のやり取りにハクアは呆れながらも少し笑顔を見せる。

 アークリーズも楽しそうにしていたが、表情を切り替えて話をまとめにかかった。


「これで手続きと面通しは終わったな。集合場所は北門の防壁のあたりでいいだろう。……話は終わったが、そろそろミレーヌが茶を淹れて戻ってくる。せっかくだからもう少しゆっくりしていけ」

「アタシはキャニーに部隊訓練の引継ぎ頼んでくるわ。残念ながら途中から来たアタシの分のお茶はないでしょうしね? じゃ、ハクアとかわいい子たち、また明日会いましょう」


 そう伝えると、マリアルイゼは後ろの扉を開き外に歩き出した。

 部屋からマリアルイゼが居なくなって少しという、タイミングでちょうどミレーヌがお茶を淹れ戻ってきた。


「お待たせしましたー。紅茶とスコーンもってきましたよー」

「ありがと、ミレーヌ。……へえ、このスコーン自作かい?」

「そうなんですよ、ハクアさん。ちょうど焼いてたとこでして。運が良かったですね!」


 喋りながらミレーヌがてきぱきと席に座る者たちに茶とスコーンを配っていった。

 カデュウはその紅茶の香りを楽しみ、少量を口にした。


「……ん。渋みがなく澄んだ香りと透き通った味がします。良い茶葉を使ってますね。ミレーヌさん、これはどちらのものなんです?」

「あ、わかっていただけるとは嬉しいですね。飛竜諸島の上物なんですよ、ポラリス庭園商会ってとこが製作販売しているんですが」

「カデュウくん、紅茶も詳しいんだね。ああ、でも。ボクでも美味しいってのはよくわかるよ」


 深く味わっているのだろう。

 ゆっくりと落ち着いた、それでいて満足げな表情でハクアは微笑んだ。

 タックも少しずつ、惜しむように飲んでいる。


「僕らが普段飲む安物とは全然違うね。お高いものは格が違いますなあ。でりーしゃすでございますぞ」

「……タック先輩はデリシャスとぉぅぃぇしか言えないんですか?」

「カデュウ後輩。男には、やらなければならない時があるんだじぇ……」


 ごまかすように、タックが天井を向いて謎の格言をつぶやきだした。


 紅茶も庶民向けのものは、低品質の茶葉が用いられており、濃度を上げることで誤魔化している場合が多い。

 そうした紅茶は雑味渋みが多く、紅茶本来の味が生かされないのだ。


 さらに庶民層のお安い店ともなると貴族が用いた使用済みの茶葉を引き取って、再度使うというケースもある。

 とはいえ庶民層でも気軽に飲めるようになった背景には、そうしたある種の努力もあったのだろう。

 リーズナブルに提供するためにはやむを得ないのかもしれない。


「高いものだったのか、ミレーヌ……? いつも無意識に飲んでいたが……」

「これはお客様用の特別な銘柄ですが、……普段のもお手頃ながら味が良いものを選んでるんですよ? もう、団長ってば」


 溜息と共にミレーヌはがっくりした表情を見せた。

 アークリーズも気まずそうにしながら紅茶を口に注ぐ。

 そして話題を変えるように、アークリーズは傭兵分野の話を切り出した。


「しかしポラリス庭園商会だと? 戦場でも会うが、あいつら傭兵じゃなかったのか?」


「色々な分野の人材が所属しているなんでも屋ですね。あちらの会計役ジョーバンさんと会った時、おすすめのお茶ですって紹介されまして。結構お高いな~と思ってましたが、飲んでみたらこれが良心価格の高品質でした」


 仲が悪くない傭兵団同士では交流が生まれることもある。

 戦場で敵同士にでもならなければ傭兵団同士で敵対する理由もない。

 こうした交流は特に珍しいものではなく、簡単なものなら酒場で出会って意気投合するような例もある。

 もちろん、何らかの因縁があれば別なのだが。

 アークリーズも当然とがめることはなく、紅茶を口にした。


「ほう。確かに飲みやすいな」

「いやー、ミレーヌの紅茶も懐かしいな。アークのとこで世話になったあのころを思い出すよ」

「ハクアがまだ10歳ぐらいのチビだったころか。あの時のお前は、ほっといたら野垂れ死んでそうな子供だったからな」


 感慨深い表情で優し気な目をみせるアークリーズ。

 ハクアもお茶菓子を食べながら笑顔で答えた。


「ああ、感謝してる。ふふふ、おかげでこんなバランスの悪いパーティにも出会えた」

「ぶーぶー。僕はできるホビックだよ!」

「僕がなんとか頑張らないといけませんね」


 ちょっと真面目な顔でガッツボーズのように両手を握るカデュウ。


「こらこら、さりげなく先輩を信じてないな? 偉大なるタック先輩を信じなさい。信じるものは救われないぞ? まったくもー、ぷんぷん」

「そこは救ってくださいよ、偉大なるタック先輩」


 小さく笑い声が響く、アークリーズがご機嫌な顔でカデュウたちに語り掛けた。


「面白い奴らだ。面白いってのは大事だぞ? つまらない人間にはつまらない生き方しかないからな」

「はは。傭兵らしい意見だね。冒険者らしくもあるけど」

「どちらにせよアウトローだな、ハクア。つまらない奴が聞いたら、さぞつまらない顔をするだろう」


 笑い声がこだまして、やがて歓談は終わった。

 かくして強力な護衛を雇うことに成功したハクアたちはキティーアーク傭兵団の拠点を出て宿へと戻った。

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