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第22話 キティーアーク

 都市の外れ、雰囲気や人々の風貌から見て治安があまりよろしくなさそうな一角にハクアたちは来ていた。

 視界の先にあるのは、猫の像が飾られ紅を基調にした色合いの旗が掲げられていた建物。

 軍隊の施設にも見えるが、その割には女性の姿が多く、武装している人も軍人というよりは……。


「……もしかして傭兵、ですか?」

「うん。キティアーク傭兵団という、大陸屈指の傭兵団だ。その特徴は幹部全員が女性という……、いや全員ではなかったか。まあとにかく女性が多いので有名な団だね」


 ――傭兵。

 国同士の戦争などで雇われ、戦場を駆け巡る武力集団。


 端的にいえば戦闘が専門の冒険者のようなものだが、冒険者と傭兵は所属する組織が異なっている。

 傭兵は所属する傭兵団のルールに従い、傭兵団は仕事を斡旋してくれる傭兵ギルドの掟に従うのが習わしだ。


「戦いが目に見えているなら、戦いの専門家をってね」

「なるほどね。臨時の戦力なら、冒険者である必要はないわけだにゅ」


 自慢気にハクアが人指し指を立てる。

 タックも納得がいった表情と腕組みで頷いた。


 傭兵団の拠点となっている入口の門に近づくと、門番と思われる女性が少し離れた位置から話しかけてきた。

 おそらく警告も兼ねているのだろう。


「ここはキティーアーク傭兵団の拠点です。冒険者とお見受けいたしますが、何か用でしょうか?」


 カデュウの想像とは異なり、意外にもぶっきらぼうではない正常な対応が返ってきた。

 イメージではもっとこう乱暴な感じなのかなと思っていたのだが。

 ほとんどが女性という話だったので、一般人が想像する歴戦のおじさんだらけの傭兵団とはまた毛色が違うのかもしれない。


「ええ、お願いがありまして。アークリーズ団長にお伝えして頂けますか」

「団長に、ですか。……ついてきてください。客人としてご案内致します」


 門番の女性はハクアたちを一瞥し、問題はないと判断したのか、あっさりと団長の居場所への案内を引き受けた。


 門番だった女性が指を立て合図を出した。

 するとすぐに他の者が門番を代行する配置についた。


 道すがら、あちこちから視線を感じるが、特に干渉はしてこない。

 なかなか規律が取れているようだ。


 門をくぐった中は、訓練場や鍛冶場など、それらしき設備も確認できた。

 とはいえ、ここもファナキアの街の中ではあるので同じような建物が多いようだ。

 元々あった区画をそのまま使用しているのかもしれない。


 鍛冶場で武具の手入れをしている団員の姿が目に映る。

 訓練場では山のように大きい人が団員複数を相手に稽古をつけていた。

 恐らく、一応、女性?

 多分、きっと、人間? 

 などなど疑問は浮かぶが、案内している女性が通り過ぎて先に向かったので、どうやら団長ではないらしい。


 しかし、街外れとはいえ傭兵団が街の中に拠点を構えているとは驚きであった。

 聞いた話では、拠点を持たない流浪の傭兵や、郊外に野営を発展させたようなテント生活を行う傭兵が多いらしい。

 中には盗賊団を兼業するような傭兵もいて、こちらは先生の下で修行していたときに“練習相手”になってもらったことがある。

 ……無茶な修行内容だったけど、よく死ななかったものだ。


 団の旗が掲げられた大きめの建物の中に入り、案内役の女性は奥の扉の前で立ち止まる。


「失礼いたします団長、客人がいらっしゃいました」

「――そうか、通せ」


 案内をしてくれた女性団員からの報告に、奥から声が返ってきた。

 静かであったが、よく通る声だ。


 案内の女性は無言ながら、丁寧な手ぶりで入室をうながす。

 それに従って、ハクアが先頭になり扉を開けて中へと入った。


 会議で使いそうな長机のある部屋だが、中にいたのはひとりだけ。


 部屋の奥に座る、紅色のマントをまとい風格ある金属鎧を身に着けた長身の女性。

 力強くも端麗なその姿は、女性剣士のイメージそのものといった存在であった。

 この人が団長なのだろう、と確信するほどに。


 最初こそ厳しげな表情をしていたが、ハクアの挨拶によってその顔つきが崩れた。


「やあ、久しぶりだね、アークリーズ。ちょっとお願いがあってさ」

「ハクアじゃないか、元気にしてたか? 大きく……なってないな。前にあった時とあまり変わらないなお前は」

「大きなお世話だよ!」


 アークリーズが手ぶりで着席の合図を行った。

 それに従いハクアたちは椅子に座る。

 チーク材の椅子で丸みのあるデザインに、座面に布がつけられ綿の入った座り心地の良いものだった。

 部屋にも中々のものを揃えているようで、中央の長机もチーク材の丁寧に掘り込まれた紋章が映えている。


 ……なんだか猫の置物があちこちにあるのが気になるが。

 アークリーズはハクアの元からタックやカデュウへと視線が移り……、いや、その視線はカデュウの位置で止まった。

 何故か驚くように見つめられている。

 カデュウが不思議に思い、口元に拳をあてて首を傾げたとき、慌てたようにその視線が外れた。


「……ん、それで。頼みがあると言ったな? ……といっても戦争ではないのだろうが」

「戦争を依頼する冒険者なんて、お目にかかったことがないね。……いや実は戦力に困っていてね。ボクらの護衛として2~3人ぐらい雇いたいんだけど、手は空いてるかな?」


「ああ、残念ながら今は戦場のお仕事に呼ばれてなくてな。こうして暇を持て余してる。……少しは面白そうな話なのか?」


 アークリーズはそうハクアに聞き返した。


「ファナキア北部の遺跡調査の護衛ってとこかな。どうも道中に魔獣がいたり、遺跡付近にはアンデッドがその魔獣を追い出すぐらいに暴れまわってるらしくてね。かよわいボクらじゃ手に負えそうもないんだが、冒険者を雇おうにもその魔獣退治に人手が取られててさ」


 考える姿勢で腕組みをしたアークリーズが目をつむる。


「それで傭兵のところにきた、か……。ミレーヌ! 入ってこい!」


 合図によって、眼鏡をかけた女性が脇のドアから現れ、一礼をして入室した。

 ミレーヌと呼ばれたその女性は、ほどほどに長めの栗色の髪で、大人しそうな容貌をしている。

 女性らしい身体つきをしているが、その落ち着きのある服装は、傭兵というより神官や学者のような印象を受ける人だった。


「ミレーヌ、何か仕事が入りそうな様子はあるか?」

「近隣国ではそのような様子はございません。……少し離れた北方のマーニャ地方中部フェイタル帝国に軍事行動の前兆がありますが……、我々の傭兵団に仕事が来るとすればもう少しあとの話になるでしょう」


 一端、そこで区切ってからミレーヌはまた淡々と語りだす。


「また南ミルディアス地方クレメンス連合も動く様子はございません。西方のロメディア半島方面では戦乱が続いていますが、隣国ガルフリート王国は平和でありますし、我々に声をかけてくる可能性は低いと思われます。……いずれにせよ、ハクアさんの案件は、多く見積もっても10日前後で終わると思われますので支障はなさそうです」


 すらすらと淀みなく情報を羅列していく。

 よく通る声も相まってクールで知性的な女性、という印象を受ける。


「や、ミレーヌ。お久しぶり」

「ハクアさん、お久しぶりです。あ、お茶持ってきますね~。ごゆっくりしていってください」


 ハクアが挨拶した途端、素に戻ったのかミレーヌは打って変わって柔らかい雰囲気と表情に変貌する。

 そのままミレーヌはお茶を淹れるため、元来たドアを開き奥に戻っていった。


「……とまあ、うちの秘書官が言うには、特に仕事がないから暇つぶしの出稼ぎに行ってこいってことらしい。では仕方ない、手の空いている私が行くとしよう」

「来てくれるのかい! ありがとうアーク! キミがいれば万全だよ!」


 なんでも屋の冒険者と違い、傭兵は戦いが仕事だ。

 その訓練も実戦経験も、冒険者の比ではない。

 個人差は当然あるしその経験は対人が主体ではあるのだが、こと戦いに関しては冒険者よりもずっと強いと考えていいだろう。


 まして大陸屈指の傭兵団の団長ともなればどれだけの強さなのか。

 ハクアが手放しで喜ぶのも当然だ。


「あの意地っ張りで可愛いハクアのお頼みだ。たまにゃ冒険者の真似事もいいだろう。……これがそこらのオッサンだったら暇つぶしでもやらないぞ」

「意地っ張りは余計だよ!」


 ふたりはとても仲が良いのだろう。

 先程のミレーヌという女性もそうだったが、ハクアと昔からの親友のような間柄なのだろうか。

「人数は2~3人って話だったな。戦力的には強い奴が後ひとりもいれば十分だろ。……おい! マリアを呼んで来い!」


 入口の扉の外側から走っていく足音が響いた。

 アークリーズの命令を聞き団員が動いたのだろう。

 それから、さほど待たずして後方のドアが開く。


「何かしら団長? ……あら、ハクアじゃない?」


 そう話しかけてきた人物は、――強烈な外見をしていた。

 女性的な鎧とスカート、鍛え抜かれた肉体美、そしてアゴ鬚を剃った後。

 その口調、その恰好、その異様。


 ――つまり、女装をしたオッサンだった。

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