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第14話 冒険者の報酬システム

 古めかしい内装ながらも小綺麗な酒場は、とても賑やかな繁盛をみせていた。

 冒険者たちは陽気に気ままに飲み食いする中で、酒場の店員たちは忙しそうにあちこちを動き回っている。


「マイナさん、これをあちらのお客様へお願いです~」

「了解ですよ、クーフィーさん。……はい、エール3杯おまちです!」


「はい、鶏の香草焼きあがり! マイナ、これを!」

「はいはい! 今行きます!」


「あれ、次の注文なんでしたっけ……?」

「おら、クーフィー。ぼさっとすんな! レディスタワインだよ。2杯だぞ!」


 女性店員たちと、酒場の料理人が修羅場の様相をみせていた。

 人手が足りないのか、客が多すぎたのか、とても大変そうだ。


「うーみゅ、ギルドはなかなか盛況だじぇ。さっさと報告終わらせちゃお。……えーと」


 タックが受付口を探して、きょろきょろとあたりを見回す。


「受付はこっちだよ。前にこの街は来たことがあるんだ」


 ハクアはそう言って、酒場を通り過ぎ奥へと歩き出した。


 所々が欠けた古く武骨な石材の廊下。


 その先では、数々の冒険者が依頼を求め、真剣な表情で待機していた。

 手元の書類を見つめる者、仲間と相談する者、受付口で職員に聞き込む者――。


 その光景の中を、ハクアが横切り空いている受付口に向かった。

 受付口のカウンターテーブルは天板にチーク材を使った質の良いもので、かなり使い込まれてはいるが手入れはきちんとされている事がうかがえる。


 三名の受付職員が座る中で、空いている場所の担当者は若い女性だった。

 若いといってもハクアより年を取ってそうだが。


「冒険者よ、自由なれ。依頼のご報告でしょうか?」

「冒険者よ、自由なれ。配達に来ました。ル・マリアギルドからの預かりものです」


 ハクアが懐から依頼されていた書類を取り出し、女性職員に手渡した。


「確認致します。……確かにル・マリア冒険者ギルドの印ですね。これにて依頼達成となります。報酬をお持ちいたしますので、そのまま少々お待ちください」


 受付の女性職員はそういって受け取った配達物を持って奥の扉に入っていく。

 少しして、中くらいの布袋を持ち、戻ってきた。


「お待たせ致しました。こちらが報酬の銀貨93枚になります」

「ありがとうございます。……聞いていた額より多いですね」


 普段は銀貨と呼んでいるが、正式にはソリード銀貨という、ミルディアス帝国時代から流通している貨幣だ。

 ソリード銀貨100枚でミルド金貨1枚というレートが古代帝国時代よりの決まりで、これは今も変わっていない。

 銅貨でいえば、アルセス銅貨100枚でソリード銀貨1枚の換算となっている。


 いまだミルディアス帝国時代の貨幣が用いられるのは、貨幣鋳造機が魔王との戦いを経て長き年月がたった今も現存し、稼働し続けているからだ。


 大昔より使われ続け広く流通し大陸の常識となっている貨幣を、特に商人や庶民が変えたがらなかったという面も大きい。

 独自貨幣の鋳造を試みた国家も歴史上存在するが、ことごとくが失敗に終わっている。


 貨幣管理は、帝国時代からその業務に携わる一族の組織が行っており、交易ギルドをはじめ大陸全土に広がっている各組織と連携し、また監視もされている。


 こと金に関することで、国家という自国利益を最優先するであろうもの達は信用ならないというのが、各組織や国家同士の共通認識のようだ。

 おかげで、貨幣に関しては公平性も含めミルディアス帝国時代の水準を維持できていると言えよう。


 交易ギルドは意外にも公共性を重視する互助組織として活動しており、利益よりも必需品の暴騰などが起きないように配慮している組織だ。

 利に走って暴挙を行いがちな商人たちを律することを役割としており、商人たちにとっての法の番人と言えるかもしれない。


 交易ギルドもまた、魔王降臨時代に設立した民間互助組織であり、当時暴利を目論んでいた悪徳商人を排除し、人々への安定供給を目的として作られた経緯をもつ。


 同じような経緯で生まれた冒険者ギルドと深い繋がりがあり、武力行為が必要な場合は冒険者ギルドに相談することが多い。


「海路で来られたのですね。手早いお仕事に報いるため、多少色を付けておきました」


 予定期日より大分早かったり、依頼素材などの納品が予定の量より多かったりすると、その分が評価され報酬も増やされるのだ。

 なお、負担はギルドが手間賃として受け取るはずだった預かり金の一部が使われる。

 護衛などの依頼者から直接受け取るタイプの依頼の場合は、その依頼者の気分次第と言ったところだが。


 こうした特別な報酬は、基本的には依頼人のためになるようなことをすると貰いやすい。

 善良で真面目な仕事には、より多くの報酬が与えられるシステムなのである。

 良き行いをしたものには良き報酬を、というわけだ。


 ある意味では餌付けによる冒険者の教育とも言えるだろう。


「また、定期船から海賊を撃退し捕縛したという知らせを受けています。依頼として手配されていた海賊ではなかったため多くは出せませんが、ギルドからの感謝として金貨6枚をお渡しいたします。定期船の乗員共々、冒険者ギルドも感謝していますよ」


 依頼の対象でない案件は、本来報酬を出すべき依頼人が存在しない。

 つまり報酬を出すものがいないので、本来は報酬もないのだが……。

 報酬がないからといって冒険者が働かないのも困るので、即時依頼という形で受け付け、冒険者ギルドが報酬金を負担する形を取っている。


 無論、ギルド側も予期せず助けてもらうことになった者たちに金銭を要求できそうな場合は要求するのが通例だ。

 ここで理由もなくごねる輩はブラックリストに入れられ、以後冒険者ギルドに出入り禁止処分となる。

 悪質な場合はギルドの判断によって強引な徴収を行うケースもあるという。


 世間では優しい顔をしているが、冒険者ギルドとは荒くれものを束ねている親玉だ。

 敵対者や舐めた態度を取るものには容赦はしない。

 国家権力でも縛れない、ある種の武力集団でもあるのだ。


「さすがギルド本部、もうその情報が入っているとは」

「ええ、はい。船長さんよほど感謝なさっていたんでしょうね。こちらで状況を把握するより早く冒険者ギルドへいらっしゃいまして」


 女性職員が微笑んだ。

 ハクアは鼻高々になりながら報酬を懐にしまい、立ち上がる。


「ハクア、ハクア。依頼受けること忘れてない?」

「あっ」


 タックの制止の言葉に、ハクアは浮かした腰を再び椅子に戻した。

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