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第11話 商人とは殺すこととみつけたり?

「凄いですハクアさん、あんな術が見れるなんて!」


 カデュウは無邪気な顔で少し興奮したようにハクアの元に走り寄る。

 素直な賞賛を向けられて、ハクアは少し照れたようなしぐさで謙遜するように手を振った。


「カデュウくんこそ、新人とは思えない動きじゃないか、ベテラン冒険者にも匹敵するよ! ……あ、怪我はしてないかい? 無茶させちゃったね」


 近くに来たカデュウの手を、ハクアは両手で優しく握る。

 その柔らかい感触に、――少しだけドキッっとした。


「君たち、僕の偉大なる活躍も褒め称えたまへ! 褒めちぎりたまへ! 一番役立ったのは僕ですぞ!」


 自慢げに胸を逸らした小さき生物がそこにいた。

 鼻高々すぎて尖ってすら見える。


「さすがですたっくせんぱい?」

「さすがですたこ」


「心がこもってなさすぎぃ! なんでそんな片言なの、ねえねえ。しかもタコってなんだよハクア! タコじゃないよタッコだよ! ……あ」

「そうだったのか。間違えていたよタッコ。すまなかったねタッコ」


 ハクアがとてもニヤニヤした顔を披露した。

 実に素敵な煽り顔であった。


「ムキー! いじめ? いじめなの?」


 じたばたするタックに、二人は微笑みをみせる。

 

 その時、船員がこちらに近づいてきた。

 最初に反撃の指示を出した、恐らくは船員の中でもリーダー格の人物だ。


「君達のおかげで助かった。その恰好からして冒険者なんだろ? ……本当にありがとう」

「いえ、あのままでは私達も危なかったですから、当然の事です」


 船員からの御礼にハクアが応対する。


「謙虚だな。ぜひお礼をさせてくれ、船を救ってくれたんだ。……報酬を払わないとな」

「それはもちろん、大歓迎です!」


 船員の言葉に、ハクアは満面の笑みで答えた。


「……俺に権限はないから、船長が意識を取り戻してからだけど。なに、船長も海の男だ。期待してくれ」


 そういうと、後ろを振り向きあいさつ代わりに手を掲げた船員は事後処理へと戻っていった。


 その場に残っても仕方がないので、カデュウ達は再び自分達の船室へと帰還する。




 外は天気が変わったのだろうか、雨音が聞こえ、波の音が強まっていた。

 先程のハクアの術が呼び水になったのか、元々雨雲が近づいていたのかはわからない。

 ひとまずはずぶ濡れになる前のいいタイミングで引き上げられた幸運に感謝である。


「いやはや。こんなところで仕事をすることになるとはね。人生なにがあるかわからないものだよ、まったく」


 苦笑しながら、ハクアは水を口にした。


 ポリポリ、とタックはナッツをかじっている。自前の保存食だ。

 ナッツ、ドライフルーツ、チーズなどは保存性が高く冒険者の必需品とも言える定番の食べ物だ。

 これに主食となるパン、そして干したり燻製したり塩漬けにしたりといった肉や魚の類などが、いわゆる保存食として旅人に重宝されている。


 水分は水よりも日持ちの良い酒類が好まれるようだが、カデュウらは水筒に水を入れていた。

 この辺りは人によって好みが出るだろう。


「しかし、カデュウくん。よくスパスパと人を斬れたね、何人か殺したんじゃない? 普通、人を殺すのってできないものなんだけど」


 新人ながら人を殺して特に動揺している気配もないカデュウが、ハクアには意外だった。

 優しげな可愛い美少年と呼べるカデュウの姿からはとても想像できなかったからだ。


「僕も最初はそうでした、でも先生から、交易商人の修行で人を殺す訓練をやらされまして」

「……どこが交易商人なんだい、それ?」


 ハクアの疑問はもっともであるとカデュウも思った。

 今考えても、殺したら褒められるという不思議な環境であった。

 適正がなかったら心が死んでいたんじゃないだろうか。


「アサシンの間違いじゃないの? あるいは行殺商人だね! 殺しはいらんかね~今なら暗殺安くしとくよ~って行商する、愛と勇気と希望の使者だ! いぇーぃ!」


 その商人は結局アサシンではないだろうか……。愛と勇気と希望がどこにあるのかは知らないが。

 そんなタックのノリに、ハクアも調子をあわせる。


「斬殺、撲殺、毒殺の三点セットであらお買い得。なんとサービスでお客様もついでに殺しちゃいまーす、ってね」


 とんでもないサービスだった。


「ちゃんと交易の事も教わりましたから、そんな変なのではないですって。心を鍛えるために殺せ、って言ってましたけど」

「割とその先生おかしいよ? 大丈夫? 僕たちの暗殺任務とか請け負ってない? 怖いわー、あてくし貞操の危機だわー」


 もう完全にからかう気満々でタックが冗談を飛ばしてくる。

 もっともカデュウ自身も、先生は変わり者だった、とも思っていたのだが。


「もー、お二人とも酷いですよ。僕もかよわい新人なんですからね」


「かよわい詐欺かな? ……ああ、かよわいといえば。あの少年の方は船にいる間は僕らで面倒みるとして、問題はその後だじぇ」


「救っておしまい、とならないのが現実の辛いところだね。んー、まずは本人の意思も聞いてみようよ。やりたいことがあるのかもしれないし。何をしていいかわからないのなら、こっちで預け先を探そうか」


 その意見に異論はなかった。

 こうして、再び賑やかな明るい雰囲気を取り戻した一行は、街への到着を楽しみに眠りについたのであった。

 ――船体のきしみと波の音に悩まされつつ、だが。

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