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第1話 新人冒険者カデュウ

 現実とは平凡なものである。


 例えば、物語のような壮大なる始まりであるとか。

 例えば、運命的な場面での出会いであるとか。


 そういうたぐいのものとは無縁なのが現実というものだ。

 夢のような出来事はおきないからこそ夢なのであり、奇跡はありえないことだからこそ奇跡なのだ。


 カデュウの冒険者としての始まりも、普通で、一般的で、ありふれた日常のようなものから始まった。



「カデュウ、ギルドへの登録は済んだ。これでめでたく、お前も冒険者の一員ってわけだ」


 カデュウ・ヴァレディはこの日から冒険者となった。

 ここ冒険者ギルドのル・マリア支部にて、いくつかの適性試験を終えての結果発表をギルド支部長から告げられている。


「ありがとうございます。支部長」


 さわやかな笑顔でカデュウは冒険者ギルドの支部長に一礼した。

 

 その極めて整った顔立ちは、性別に反して美少女と呼ばれても違和感がないだろう。

 身長は同年代と比べて小さめで、その細い身体はとても冒険者には見えない。

 さらさらとした紫色の髪が少し長めなこともあって、外見で見分けがつけづらいのだが耳が少しだけ伸びているのはエルフの血の影響だ。

 

 地域ではそれなりの店舗を持つ商人の父とエルフの母を持つ、ちょっとだけ変わったハーフエルフの少年、それがカデュウであった。


「こんなのどかな街で冒険者になりてえとは、お前さんも変わり者だな」


 苦笑した表情でギルド支部長はそう言った。


「そうかもしれませんね」


 苦笑するようにカデュウが小さく頷く。


 この街、ル・マリアは比較的平和で冒険者の需要が少ないらしく、ギルド支部も小さい。

 本来あるべき冒険者用の酒場もなければ武具や薬品類の商品もない。

 当然、ギルドの建物自体にも予算がかけられていない、シンプルな木造だ。

 田舎の地方とはいえ、その中では主要の街なので土地の確保も難しかったのか建物も広いとはいいがたい。

 職員の数自体も少なく、ギルド支部長とその奥さんのみという、ほとんど家族経営のような状態である。


「それでは、残るは……」

「ああ、中級冒険者(メディオ)の指導者が必要だな。知っての通り、先達の冒険者と同行しながら仕事を学ぶわけなのだが……」


 カデュウがわくわくしながら支部長の言葉を待つ。


 そこでふと、ギルド内にひと気が少ないことに気付いた。

 小さなギルドだが、それでも所属している冒険者が数名はいたはずだ。

 しかし、不思議と今日の所はまだ誰とも会っていない。


 ……なにやら、奥の方で謎の奇声が発せられているので誰かはいるようだ。

 だが、ギルド支部長から目を離すのも失礼というものだろう。

 その奇声が少し気にはなったがそのまま会話に集中することにした。


「……なのだが。……どうしたもんかな」

「どうしました?」


 ギルド支部長が難しい顔をしながらチラチラと横目で見る視線の先には、――なんというか、物凄い格好の人がいた。


 顔は包帯ぐるぐる巻き、その上からとても高価な黒ガラスの丸眼鏡をかけていて、時折「クカカ…」などと一人で笑っている強烈なインパクトのお方だ。


 さっきの奇妙な声はコレか、とカデュウは少し引いた顔で納得した。

 明らかに関わってはいけない人の雰囲気が漂っている。

 ドカっとソファに座ってテーブルの上で足を組み、触るな危険と自ら表現しているかの如し。


「まさかあの方しか指導者となれる方がいない、のでしょうか……?」


 改めて見渡しても、冒険者らしき人が他にいない。

 ここまで人がいないのは、田舎の小さな冒険者ギルドといえど珍しいことだ。


「……今日はずいぶん冒険者の方々が少ないんですね?」

「久々に大規模な依頼が回ってきて、ここら辺拠点にしてる奴らが出払ってるんだよな。レディスタ支部の召集で領主様直々の依頼らしい。帰ってくるまでに結構かかると思うぞ?」

「……えーと、あちらの方は?」


 あちらの包帯ぐるぐるのお方を少しだけチラリと見て指し示す。

 困ったように肩をすくめ、ギルド支部長はその薄い髪をぽりぽりとかき出した。


「たまたま旅の途中に寄った冒険者だ、俺も見るのは初めての顔だな。……あんな奴、一度見たら忘れられんし」

「旅の……、という事は」

「そう。逍遥者(しょうようしゃ)とも言われる冒険者本来のタイプ。つまり、お前の希望通りの指導者候補ではある」


 旅を望むカデュウの指導者として適格なのは、やはり同じように旅をするタイプということになる。

 それが逍遥者(しょうようしゃ)だ。

 冒険者同士や冒険者ギルド内での呼び分けなので、一般的には旅の冒険者と呼ばれることが多い。


「俺も、お前の親御さんから色々と頼まれてる立場だからな。……今日である必要もないし、誰か来るかもしれん。紅茶でも飲んでゆっくりするか?」

「いえ、選べるような身分ではありませんし。中級冒険者(メディオ)ともなれば腕利きの先輩ですから。……あまり逍遥者(しょうようしゃ)の方はここに来ませんしね」


 ギルド支部長は判断に迷っていた。

 ギルド支部長はカデュウの父ルイ・ヴァレディの友人であり、カデュウもここ最近だが冒険者になる過程で面倒を見てきた子だ。

 はじめて見る上に、見た目が露骨に危ないあの人物に預けたいかというとNOだが、旅の冒険者がそもそも来ないのでこういう機会は貴重ではある。


 カデュウからすると、新人が腕利きの冒険者を値踏みするなど失礼な話だと思っていたし、それに見かけによらず良い人だったりするかもしれないとも考えていた。

 ……見かけは誰が見ても本当に危険人物でしかないのだが。


「クカカカカッ……! カカカッ……!」


 それなりに離れた位置にいたのだが、包帯ぐるぐる男の耳に届いたのであろうか。

 こちらをみながら妙な奇声をあげている。

 まるで、俺に任せておけと言わんばかりの笑みだ。

 睨まれるよりも不気味だが、アレでも意外に喜んでいたり歓迎の意を示しているのかもしれない。

 ……かなり好意的に解釈すれば、であるが。


「うーん……そうは言うがなぁ……」


 ギルド支部長は汗を流し戸惑いを見せた。


「クカカ……、シャッ!」


 包帯ぐるぐる男は突然立ち上がり、何を思ったのかクネクネとした奇妙な踊りまで見せだした。

 わけがわからない。

 もしやアピールか何かだろうか。物凄く脱力した動きだ。


 やっぱりダメかも……、などとカデュウが悲観しだした、その時。



 高く鳴る金属の奏でる音――ギルドの扉が開く鐘の音が建物内に響き渡った。

 扉を開き、見知らぬ誰かが、冒険者ギルドへと入ってくる。


 ――それは、白く透き通るような少女だった。

おまたせいたしました、連載を再開いたします。


この章は魔王城に来る前のお話です。


続きじゃないのか、と残念に思う方もいらっしゃるかと思いますが、

続きのプロットを考えると、どうしても必要な内容だったので書くことになりました。


日常が失われつつある世界となってしまいましたが、出来る限り頑張って続けていきますね。

せめて皆様の娯楽にでもなれば嬉しいです。

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