第215話 これなるは、守るがための物語 15
けだるくも心地よいまどろみの中、カデュウは意識を取り戻した。
起き上がらずに、目を開き見慣れぬ光景に少しだけ驚いたが、すぐにそこが魔王の部屋であることに気付いた。
床に寝かされているのも、寝台もない部屋なので無理のない話だ。
魔王の部屋へと逃げ込んだカデュウは、魔王自体をトラップとして用いてあとを託したことを思い出す。
目だけで視線を動かすと、じっとカデュウを見降ろしている魔王の姿が視界に入る。
「成功か」
起きて早々に、何か不安になる言葉を言われた気がする。
「僕は、どのぐらい寝てましたか? 戦いはどうなりましたか? あと、成功って何のことですか?」
「1日とたっておらん。戦いは終結したぞ、怪我人は出たが死者はいなかったそうだ。軍師とやらは中々の人材のようだ。一番重症なのはお前だ、カデュウ」
魔王の答えにカデュウは安堵した。
兵数は圧倒的劣勢だったにもかかわらず、被害が実質皆無というのは奇跡といっていい。
「よかった……、本当によかった。……それであの、成功とは」
「相も変わらず細かい奴よな。死にかけていたお前の治療に決まっておろう。そんなことより、捕虜が大量に出たがどうするのかと、質問があったぞ」
カデュウはそこで痛みがないことに気付く。
重症だと聞いていたが、そこは魔王による治療のおかげなのだろう。
自身のことは置いておき、カデュウは開拓村の現実的な問題を考え出した。
「僕は、すぐに動けますか?」
「致命傷であったからな、大人しく寝ておけ。他に移そうにも重症の者を休ませるに相応しい場所がないようだ。治るまでは置物として面倒をみてやるさ」
「それでは、ソト師匠、クロス、メルガルトさん、ヴァレンチーノさんなどにお伝えください」
言うべきことを考え、少し時間をおいてからカデュウは言った。
「捕虜がいても、食料がないので……。重要人物は別として、基本的には解放でお願いします。何かあれば皆さんで相談して決めていただければ」
「伝えておこう。どうせ数日で動けるようになるのだ、急を要する案件以外は後回しで良かろう」
「数日、ですか、……思ったより、早いです……ね」
「余が治すのだから当然であろう。さっさとやらんと他の者どもがうるさくてかなわん」
意識が無かった間も、みんなが様子を見に来ていたようだ。
心配をかけてしまったことを悔やむ。
「眠く、なって、きまし、た……」
「であろうな。無理をせず早く寝ろ」
「…………」
「さて、ではいじるか」
「……今いじるっていいませんでした!?」
気になることをいわれ、カデュウが慌てて目を開ける。
「治すためにいじる必要があるだろう? 細かいことを気にするな」
治療のために何かをしているのか、魔王は背を向けたままそう言った。
「細かく、ないです……不穏当、な発言は……やめ……」
カデュウの意識が途切れた。
ふと良い匂いがして、眠りの暗闇から段々と頭が目覚めだす。
天井が魔王の部屋とは異なっており、いつのまにやらベッドで寝かされていた。
治療が終わってどこかの部屋に移されたのだろうか。
「……んまい」
「そろそろ紅茶も残り少ないなー」
近くで話し声が聞こえるので、顔をあげてそちらを見ると、いつもの仲間たちが談話しながら茶会を開いていた。
クロス、アイス、イスマ、ユディ、ソト師匠。
皆で楽しそうに紅茶飲みお菓子をつまんでいるではないか。
カデュウは身体が動くことを確認し、ゆっくりと上半身を起こした。
「おはよー、僕の分は?」
「カデュウさんや、さっき食べたでしょ」
「……食べてないよ!? 起きたばかりだよ!」
目覚めて早々に、ユディがギャグをとばしてきた。
おかげですっかり眠気が吹き飛んだ。
「ほらほら、安静に安静に。カデュウには私が食べさせてあげるから」
「身体は動くみたいだから、自分で食べられるよ?」
「食べさせてあげるから、ね?」
クロスが言葉を強めてすすめてくる。強制ということらしい。
怪我人だし、と大人しくされるがままにしておいた。
ニコニコと笑顔を向けてきた。
甘味は薄目だが、上品な味わいの焼き菓子だ。
……さすがに紅茶は自分で持たせてくれた。こぼすと熱いからね。
いつもより赤みのある色合いの紅茶だった。茶葉の量が多めだったのかもしれない。
「みんなでカデュウを見守っていたのですよー」
「アイスが敵討ちとか言って捕虜の首をはねようとしてたしなー」
危険人物すぎた。
花咲く満面の笑顔でこちらを見ているが騙されてはいけない。
「……心配してたのよ、みんな。ごめんなさい、私の力が足りなかった」
クロスが悲しげにカデュウの頭をなでる。
「僕が弱っちいから、仕方ないよ。みんなは凄くがんばってくれた。……被害がほとんどなかったんだってね」
「あれだけの備えをしてそれでも突破されたんだから、相手が凄かったんだろうなー。……そもそもなんでカデュウを狙ってたんだかよくわからんし」
「魔王さんトラップがなければ危ない所でした」
「こやつ、魔王をトラップ扱いしよった。まあ、確かに有効ではある。どうやってそこまで引き込むかが問題だが」
「てか、魔王トラップあっても危ない状態になってたよね、とユディちゃんは思うのです」
ちょっと眉をひそめてユディが冗談気味に注意する。
実際の所、あの状況まで持ち込まれたらカデュウにあれ以上出来ることはなかった気もするが、肝心なのはそういう危ない状況にならないことなのだろう。
外に出れば危険はもっとあるわけなのだし、とカデュウは反省した。
うなだれていると、イスマが焼き菓子をもって近づいてきた。
「……ん」
「え、イスマがお菓子くれるの? うん、ありがとう」
お菓子大好きのイスマが人にあげるとは。
きっと慰めてくれているのだろう。多分。
心づかいが嬉しいなぁ、などと感動していたらイスマがベッドに転がり込んできた。
「……もぞもぞ」
「え? なんでベッドに入ってくるの?」
「……ぬくぬく」
「カデュウが動けないから一応の護衛。ほとんどは解放したけど、何人か捕虜は残してあるの。脱走して襲いにこないとも限らないし、念のためにね。扉の前にはルゼもいるのよ」
「……ひまだし」
まぁ確かにイスマやルゼの仕事は特にないので丁度いいのかもしれない。
しかし、見た覚えのない内装の部屋だ。
多分、急遽用意したものなのだろう。
イスマの頭をなでながら、ゆっくりとベッドで眠りについた。




