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第212話 これなるは、守るがための物語 12

 散り散りになった魔道騎士マギア・クリバノフォロスのうち、半数はリーフドラゴンによって死亡しており、ひとりがクリーチャー傭兵団に殺されていた。

 後続で指揮をとる参謀や、後続に戻った者2名、魔王城に突入した者たちを除けば、残りは3名。

 この3名はリーフドラゴンや傭兵団から逃げながら魔王城眼前の開拓村まで来ていた。


「建築途中の建物、畑……何故こんなところに」

「さっきの奴らが住んでるんじゃないか?」

「エルフの集落、には見えませんね」


 リーダー格の熟年の髭男、野性的な眼つきの青年、気弱そうな女性の3名が、口々に感想を述べる。

 

 敵を警戒しながら少しずつ前進し、畑に入ったとき、大きな怒鳴り声が響いた。


「これぇ! 畑に入るでねぇ!」


 クワをかかえた老人がそう叫び、魔道騎士マギア・クリバノフォロス達に近づいてくる。

 怪訝そうな表情で顔を見合わせた魔道騎士マギア・クリバノフォロスの3名だが、髭面の男が老人に剣を突き付け脅した。


「老人、我らの質問に答えてもらおう」


「畑に……」

「ん?」

「入るんじゃねぇ、っつってんべが!」


 髭面の男の剣がキャベツを避けて畑に落ちる。

 驚いた髭面の男が視線を落とすと、自分の手首から先が無くなっていた。


 ぼとり、と剣についていた手首が畑に落ちる。

 ほんの少し老人のクワの角度が変わっていること、そのクワが目にも止まらぬ速さで男の手首を切断したことに気付いたのはその手首をみたあとであった。


「おめ、畑に入るってこた。肥料になりてぇんか、おお?」


 血がどくどくと流れ出る。

 髭面の男は恐怖にかられ、魔術を行使しようと構えるが――。


 残る者たちにも今度ははっきりとみえた。

 いともたやすく髭面の男の首を切断する老人の姿を。

 老人がもう一人の、若い男の方を睨みつける。


「おめーも、肥料か。家畜の餌か。……わかってんべがッ!」

「な、なんだ、……なんなんだよこのジジイ。やめ、……やめて、うわあああ!」


 震えながらも魔術で攻撃しようとした野性的な若い男は勇敢であった。

 もっともその勇敢さによって無為に死んだのであるから、蛮勇と呼ぶべきなのかもしれないが。

 どさり、とクワが刺さった若い男が畑に倒れる。


「……こんな奴らじゃ鹿の餌がいいとこかのう。ここらは元々肥えとるし」

「ひっ!」


 元々臆病で気弱だった若い女性は、恐怖のあまり気絶した。


「あ~あ~。畑でオナゴが寝とるわ。しゃあねえのう、儂も紳士(ゲントルメン)で通っとるからのう。しゃあね、ほんに」


 老人はなまった物言いをしながら、荷物のように女性を担いで消えていった。


 老人の名前はパラド・パクス・ルナモクラッチェ。

 若き頃よりはじまり百を超える年齢となってからも、戦場という戦場において陣営問わず一兵卒として参加した、歴戦の農民であった。




 谷間ではゴール・ドーン兵の苦境が続いていた。

 矢の雨を浴びせられ、それを防ぎながら出口に来たら、今度は怪物のような男がたったひとりで軍をせき止めている。

 かといって後方はカヴァッラ伯の軍が混乱したまま入口を塞ぎ死んでいく。

 ダークエルフに反撃しようにも谷の上に陣取っているので中々矢が届かないし、致命傷も与えにくいし、頼みの魔術兵もダークエルフ相手には術の効きが悪くまともな戦果を発揮していない。

 絶望的な状況であったが、彼らが本当に絶望したのはそのあとであった。


 矢の雨が止んだと認識した彼らの頭上に影が差す。

 樹木がねじるように集まる奇妙な音。

 ほのかな光の粒を降らし、樹葉竜リーフドラゴンが谷間の上部を覆うように現れた。


 敵味方問わず、その場の動きが止まる。


「なんだよ……あれ……」

「あんなもんと戦うなんて、聞いてねえぞ!」

「もう嫌だ! 助けて、助けてぇ!」


 ゴール・ドーンの兵士達は完全に戦意を喪失し、命乞いをするものまで出始めた。


「落ち着け! あんなもの俺達が燃やしてやる!」


「――【火の弓矢(ファイア・ボウ)】!」


 魔術兵たちが初歩的な火炎魔術をリーフドラゴンに撃ち込んだ。

 それらの攻撃は何も効果を発揮することもなく、より絶望が深まったところにリーフドラゴンの反撃が始まった。


 腹部のような箇所から、つるが伸びて、槍の様に魔術兵たちを突き刺した。

 的確に、戦意のある者だけを。

 

 恐怖に耐えきれず逃げ出す兵達が続出したが、それらには何の反応も示さない。

 ただ、敵のみを見定めていた。


 部隊を指揮する参謀が独断での停戦を考えだしたとき、後方からふたりの魔道騎士マギア・クリバノフォロスが帰ってきた。

 彼らはゾンダの後方に立ち、恐怖と決意が入り混じる表情で口を開く。


「戦う意思はありません。停戦の使者であります。連絡をさせてもらえますか」

「ん? お話があるならどうぞ。俺なんぞにおかまいなく」


 ゾンダは手で通っていいと合図を送り、道を譲る。

 元々、リーフドラゴンの出現によってゾンダに向かってくる兵もいなくなり、その鋭敏な感覚と歴戦の経験から、戦いの終わりを察していたのだ。


「参謀殿! アダルテ将軍からのお言葉です! 撤退するか、それがかなわぬなら降伏するようにと!」


「よく帰ってくれた! 将軍のご意思は確かに受け取った!」


 もはや戦いにならない、と考えていた参謀はその指令に助けられた。

 将軍が戦っているというのに勝手に戦いをやめるのも心苦しいという気持ちと、兵達を無駄に死なせることの無念さの板挟みになっていたからだ。


「撤退、……させてもらえるだろうか?」


 参謀は恐る恐る、ゾンダの方を向いてそう言った。


「お前らが攻め込んできて勝手な話だぁなぁ。お前らの将軍は今も敵対してるんだろうしなァ。そっちを止めてからってのが筋だろうが」


 ゾンダの言い分はもっともだ、と参謀も思った。

 そして、断られるのだろうか、と悲観的な表情をみせる。


「……とはいえ、まぁ理解は出来る。戦いもしない奴らをいたぶる趣味もねえ。だが逃げるのはダメだな。あんたらをどうするのかは俺が決めることじゃあねぇ。とりあえずそこでゆっくりくつろいでくれや。ちと死体だらけで気になるかもしれねえけどよ」

「そうだろうな……。ご厚情、感謝する」


 凶悪な風貌のわりに話の通じる相手でよかった、と参謀は息を吐いた。

 撤退が望ましいのだが、それも都合のよすぎる話というものだ。

 カヴァッラ伯の軍が混乱して出口を塞いでいる以上、自力での撤退もかなわない。


「全軍、戦いを止めろ! 我々は投降する!」


 参謀の宣言と共に伝令が飛ばされ、少しの時間をおいてようやくカヴァッラ伯の軍も落ち着きを取り戻した。


「ところで、だな」

「なんだ」

「あのドラゴンのようなものは、襲ってはこないか?」

「俺達が呼んだわけじゃねえから、しらん」


 兵士たちは怯えすくみながらも、死体の山の中で食事をとることとなった。

 幸いにしてリーフドラゴンは森に消えるようにして、すぐに去っていったのではあるが。




「おい」

「なんだ」


 谷の上から事態を眺めていたソトが、隣のヴァレンチーノに呟いた。


「私がゴーレムを出すまでもなく、終わっちまったぞ。どうするんだ、今から出していいのか」

「ダメに決まってるだろ。もう戦いは終わったんだ」


「いや、出させろ! 片っ端から潰してやるから!」

「やめろバカ。無駄に使うな! 次にとっておけ!」


「くそぅ。なんなんだよ緑の竜め。私の見せ場を邪魔しやがって!」

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