第208話 これなるは、守るがための物語 8
「現在、何名が残っている」
リーフドラゴンの襲来からとっさに逃げだしたアダルテ達は一息ついて状況の確認を行っていた。
魔道騎士の探知魔術師がアダルテに答える。
「はっ。ついてきている者は8名です。他は行方知れず、あの竜にやられた可能性もあるかと……」
「あれが竜ならば、勝つことは難しい……。襲われた者の無事を祈るほかないな」
アダルテは険しい表情で絞り出すようにそう言ったあと、配下達に頭を下げた。
「皆、すまなかったな。私についてきたばかりに、このような無残な結果となってしまった」
皇帝のためとはいえ、強引な作戦であったことはアダルテ自身も薄々自覚していたことであった。
ここ最近の皇帝の様子や、国内外の情勢など、様々な要因から焦らざるをえなかった面もあるのだが、こうして多くの犠牲が出てしまう結果となったのだ。
「我々も、陛下をお救いするという将軍閣下のお気持ちに賛同しております。そのようなに頭を下げないでください」
「弱気になってしまったか、すまん。生きて帰れるかどうかもわからないが、かといって後退しても危険なだけだ。このまま直進する、探知を!」
アダルテの決断に、その場の全員が力強くうなづいた。
「――【生体感視】」
探知魔術師が周囲の生体反応をチェックする。
「把握しました。こちらに近づく者が3名、前方は……複雑に配置されております。私が先導致しましょう」
「よし。お前が頼りだ、可能な限り接敵を避けろ」
失った左手の指に応急処置をほどこしながら、アダルテは言った。
ゾンダ相手では魔術が通じないという致命的な相性の悪さもあったが、その他の敵もかなりの手練れと評価していた。
それに比べてアダルテ達の戦力は分散してしまい、残すはアダルテを含め9名。
これ以上戦力を減らす事は避けなくてはならなかった。
視線をうつしたアダルテの目に木々の隙間から、わずかに人工物らしきものがうつる。
「あれは、建築中の住居……? さっきの奴らが拠点としている場所か。反応は?」
「人の反応は……、付近にはありません。それよりも前方にとても大きな反応が見られます。……おおよそしか判別出来ませんが、形からして、……竜ではないかと」
「……あれか。……ん? あの竜の後ろにある城はまさか……魔王城……」
遠目ではあったが、アダルテも竜の存在を確認できた。
そして、背後にあった、廃墟のような城の存在も。
「あれが……、伝説の魔王城……」
「するとあの竜は、魔王城を守っていたという毒竜ベルベ・ボルゼか……。確か英雄に倒されたという話であったが……。とすると、あの城こそ求めていた場所だな。探知で守りが手薄な位置を探れ」
大昔に倒された幻獣が再び蘇ったという記録も伝承の中には残されている。
なにより、つい最近、ヴァルバリア付近に存在しないはずの巨人を目撃していたことも、アダルテが魔王や竜の復活を信じる理由となっていた。
「はっ。人型の反応は、ごく少数です。離れた位置にひとりずつ点在しているようですが……、城中央あたりに3名が固まっている場所があります」
「……まだ手薄、という事か。やはり今が好機なのだろうな。点在している奴らは守備兵であろう。となると怪しいのはその3名の場所か。重要人物だと予測出来る、……いや案外、料理でも作っているだけかもしれんがな」
住居のようなものを建築中ということは、この地での活動からさほど期間が立っていないという証拠だ。
その建築様式もマルク帝国のものとは全く異なっているので、こちらの線も消えた。
何よりも竜を操っているという事実を見た以上、魔王の存在は確定しているようなものだ。
「他方に散らばった我が軍の者は確認できるか」
「……敵味方の区別がつきません。それらしき動きの者ならばわかりますが」
「危険な賭けになるか。……万が一、敵にみつかってあの竜でも使われたら勝ち目はないな。やむを得ん、彼らには自己判断で動いてもらうこととしよう」
「参謀に預けておいた軍を無駄死にさせるわけにはいかん。お前が私の命を伝えて撤退させてくれ。頼めるか」
「……閣下、私だけ生き残ってしまい申し訳なく思います」
冗談めかした言い方であったが、魔道騎士のひとりである女性の目は涙にぬれていた。
「このようなときに気の利いたことを言える女だったとはな、今まで知らなかったぞ」
「私も変わって欲しいですよ、探知魔術が使えるばかりに決死隊確定ですからね」
探知魔術役の者が冗談を挟み、魔道騎士達から笑い声がこぼれた。
「なんならお前も帰るか? 他の者も遠慮なく申し出てくれ」
「いえいえ。死なないように頑張りますとも。私が行かなくては希望すらなさそうですしね」
「閣下、私も恥を忍んで参謀殿にお伝えする役目をいただきたく思います。ふたり向かった方が到着できる可能性は高いかと」
魔道騎士の最年少の男がそう言った。
「ああ、何も恥ずかしくなどない。良く申し出てくれた。撤退も出来ぬようなら投降するようにな。魔王といえどどうやら人手不足のようだから歓迎してくれるやもしれんぞ」
「そうはならぬように努力いたします」
わずかな静寂のあと、連れてきた兵達の方へとふたりが向かう。
「では、もっとも安全なルートで目標まで導け」
「シークッ……」
見つからぬよう小さな声でやり取りを行って、アダルテ達は魔王城の上階のがれきとなって崩れている部分から内部へと侵入した。
生きて帰れぬことも直感しながら、それでもわずかな希望を見出すために。




