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第207話 これなるは、守るがための物語 7

 リーブルからの無数の矢が側面から放たれ、同時に豪速で投げ放たれた槍も避けなくてはならない状況に魔道騎士マギア・クリバノフォロス達は追い込まれていた。

 一瞬でも間違えれば死に繋がる状況の中、そこに割り込んだ人影が防御術を展開する。


「――【長き大盾(スクトゥム)】!」


 後方から追いついたアダルテがリーブルの矢を防ぎ切った。


「アダルテ将軍!」

「ここでは狙い撃ちにされる。降りるぞ!」


 側面からの射撃だけならばまだしも、斜め下からの強烈な投擲まであっては挟み撃ちにされているのと同じこと。

 また、飛行魔術を維持したままでは使える術も限られてくるので、不利と言わざるを得ない。

 敵がわずかふたりとも考えにくく、アダルテは身を隠す事を選択した。


「――【火炎球(ファイアーボール)】!」


 魔道騎士マギア・クリバノフォロスのひとりがリーブルに炎の魔術を放ち、わざと途中で爆発させて目隠しに使い、全員が一斉に地上へと降下する。

 とっさだったが森の道からも少し外れ、シードワーフの姿も見えない位置。

 遠くで声がするが、アダルテ達の付近からは何者かがいるという様子はなかった。


「――【生体感視(アニマ・ヴィジョン)】」


 探知魔術を使い、奇襲に備えた魔道騎士マギア・クリバノフォロスのひとりが、付近に敵はいないと、手で合図した。

 アダルテ達は静かに身を潜め、魔力の回復にと携帯していたポーションを口にする。


 現時点で3名の魔道騎士マギア・クリバノフォロスが失われたが、よほどの敵が出てこない限りは対処は出来る自信があった。

 だが、後続の軍がここへ来れるかどうかとなると、計算に入れられないと考えていた。

 アダルテの想定よりも敵が遥かに強力だった上に、周到な準備がされているのだ。

 最初から潜伏していた敵がいたというのも異常な話だ。

 遠征作戦が漏れていたとしか考えられない。


 アダルテの中で不審な者として真っ先に思いついたのはエネディ伯であった。

 もっともダークエルフの住処に近い領地。真っ先に帰還した怪しい行動。

 それでなくともエネディ伯には色々な黒い疑惑が付きまっているのだ。

 帰還したら問い詰める事を決めて、アダルテは前進を指示した。



 しかし、その時森の空気が変わった。あちこちからマナが漏れ出るように光を放つ。


「なんだ……? 何がおきる……?」


 異変。

 その場の誰もが異変を感じた。


 森がうごめき、その声をあげるように、しゅるりしゅるりと植物の音が。

 つるが巻き付き、木が伸びて、枝が生え、葉が鱗の様に体を覆った。

 それはまるで竜の姿のように。

 しゅるりしゅるりと音をたて、辺り一帯を覆いつくすように。

 周囲のマナを吸い、精霊を集め、その場に幻想を撒き散らす。

 とあるエルフと人間の、永劫の契りのかたち。


 それは、遥かなる古の帝国が生み出せし、約定式の幻獣。

 それは、長きに渡り大森林を守り続けた、ラティーナの守護竜。


 ――その名は、樹葉竜リーフドラゴン。


 数多の外敵を駆除してきた、魔王城防衛網のひとつであった。


「……竜、ですか? ……将軍?」


 驚きと恐怖と誰かが声をこぼした。


 緑を全身に纏う竜が、アダルテ達に目のようなもの光らせる。

 無機質に、無感情に。

 ただ森の敵のみに狙いを定め、つるを勢いよく伸ばし出した。


「――ッ散開!! すぐに逃げろ!」


 長いつるが何本も高くかかげられ、鞭のようにうなり敵をうちすえる。

 魔道騎士マギア・クリバノフォロス達はアダルテの命に従い、散らばる事でその範囲の広い攻撃を回避する。

 ひとり遅れた者が魔力の盾でその一撃を防ぐが、勢いを失わず背後からそのまま巻き上げて捕獲された。

 

「うわぁぁぁ!?」



「――【火炎球(ファイアーボール)】!」


 魔道騎士マギア・クリバノフォロスのひとりが、仲間を助けようと、つるの根本を狙って火の魔術を射出した。

 爆発によってつるが弾け飛び、仲間の救出には成功したが、それはリーフドラゴンを怒らせる結果となった。

 腕のような大木を振り下ろし、それを避けた魔道騎士マギア・クリバノフォロスのふたりに木の杭でもって衝車のように打ち据える。


「っ! ――【長き大盾(スクトゥム)】!」


 かろうじて魔力の盾で防いだものの、その衝撃によって魔道騎士マギア・クリバノフォロスふたりは吹き飛ばされ木に叩きつけられた。


「がはっ……。く、くそ。木なんぞ燃やしてやれば……!」


「――【放たれる炎(フランマ・ブレス)】!」


 その手から炎のブレスが放射される。

 植物で構成されているのならば火に弱いはず、と考えての行動であったが、これは失敗であった。


 そもそも木は鉄よりも耐火性が高く、焦げ付きはしても中は無事な事が多い。

 特に生木となれば水分を多量に含んでおり、燃えにくい。

 時間をかけて乾燥した薪とは別物なのだ。


 そして何よりも、リーフドラゴンは火に対する力を備えていた。

 森の守護竜リーフドラゴンは体内で特殊な樹液を分泌しており、潤沢な水源ともつながっているため、極めて延焼に強い。


「……燃え……ない?」


 リーフドラゴンの目のようなものが緑色に光る。


「ひっ……」


 火炎魔術を放ち続ける男の隣で、女の魔道騎士マギア・クリバノフォロスが絶望に染まった。


 リーフドラゴンの口のようなものが光り輝き、体のあちこちから緑のブレスが放たれる。

 森にある様々な毒素を凝縮した、濃厚なる毒液。

 突然の全身からの放出に、とても避けきれず魔道騎士マギア・クリバノフォロスのふたりは意識を失った。

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