第204話 これなるは、守るがための物語 4
その汚いやり口から、暗殺教団の手の者かという想像もよぎった。
しかしマルク帝国、ひいては暗殺教団との長年の戦いからくるアダルテの経験によって、それはやや疑惑へと転じる。
だがそんな考えにふけるよりも、一方的に矢を降らされるだけのこの場所を早々に突破しなくてはならない状況だ。
「――【風の飛翔】!」
アダルテが指示を下し、直属の者達を連れ飛行魔術を行使する。
急な山道を魔術によって低飛行する事で、手早く飛び越えて山道の中央にそびえたつ巨木のうろへと入っていった。
巨木のうろの奥からはうっすらと光がみえており、道は続いていることが判明している。
だが、その奥は門によってふさがれていた。
「最初の門を開け放していたのはあの谷間に誘い込むため、そしてこの門で食い止められるという自信があったからか」
門から少し離れて着地したアダルテと19名の魔道騎士達は、アダルテの手の合図にあわせて陣形を整える。
「ダークエルフ共に舐められたものだ。魔道騎士各員、一斉射撃! あの門を吹き飛ばしてやれ!」
「シーク! ――【熱風爆破】!」
ゴール・ドーン軍伝統の返事と共に、一糸乱れぬ動きで魔道騎士達が魔術を行使する。
熱と風の二つの系統を合わせた破壊の術が石造りの門に炸裂し、全術者の息の合った連続射出によって頑丈そうであった門は粉々に打ち砕かれた。
門が崩れた事で大きく穴があけられ光が差す。
崩れ落ち塵が舞うその中で、ひとりの男が悠々とアダルテ達に向かって歩き寄る。
「おいおいオイ。扉は壊すモノじゃねェって教わらなかったかァ? それともコレがノックか? おぉ? 礼儀正しいナァ。はじめまして、はじめましてだァ、クソお客サマ。はじめてのお客サマだァ、歓迎いたしてやるぜ?」
狂暴な笑みを浮かべた、狂暴な体格の男。
“怪物”と呼ばれる男が、両の手に斧と剣を携え立ち塞がった。
クリーチャー傭兵団団長ゾンダ・ゼッテ。
傭兵業界では知らぬ者のないその名は、大陸の国家とあまり戦わず傭兵にも頼らぬゴール・ドーンという大国においては無名の存在に等しかった。
「……ダークエルフ共のボスか?」
先程のダークエルフの襲撃、そしてゾンダの少し長い耳と浅黒い肌の色をみてアダルテがわずかなりともそう予想したのは無理からぬ話であった。
「俺はボスじゃねえわなァ。それとも、俺がダークエルフに見えるってのか?」
「残念ながら色と耳だけはな。そうでなくて安心したよ。……それで、お前達は何者だ。マルク帝国の手先か?」
「あ? なんだそりゃ? 何者かって、ここの守備をしてるに決まってるだろ」
「こことはなんだ。何を守っているというのだ」
「魔王城と俺たちの住処だっつうの。人の家に許可もなく入ったらよォ、……殺されても文句は言えねェよナァ? お前らだってそぉする、俺もそぉする。こんなわかりやすい話じゃねえか」
「……魔王城。……その守備隊だと言ったか?」
「おうよ。耳まで遠いのかテメエは。俺は団長のゾンダ・ゼッテって者だ。歓迎するぜェ……、クソお客サマ。――ゆっくり遊んでクソしておっ死ね」
「やはり、魔王が復活していたか? ならば陛下を治す手段にも希望が持てるわ!」
人間、エルフといった人と総称される者達よりも魔族といった方が似合うゾンダの風貌から放たれた魔王城という言葉は、あまりにも説得力に溢れていた。
一目見ればわかる、その狂猛なる威容。
叩きつけられるような闘気。
アダルテ達もまた強者であればこそ、その強さは見てとれる。
ごくり、と。
魔道騎士の誰かが、わずかな音をならす。
マルク帝国の尖兵がゴール・ドーン攻略の為にこの地を占拠したという可能性も考えてはいたが、どうもそうではないとアダルテは感じていた。
ダークエルフばかりだったことも、悪魔のような老人が現れたことも、怪物のような男が立ち塞がったことも。
すべて魔王の復活を信じさせる材料となったからだ。
「そォらよっ!」
掛け声と共に、ゾンダが手に持っていた斧が投げられた。
その動きを見る前に、攻撃の予測をしていたアダルテが号令を下す。
「盾陣!」
「シークッ! ――【多重複合魔層壁】!」
魔道騎士の扱う、連携魔術の防壁が展開される。
古代ミルディアス帝国軍の魔術陣形であるこの連携技は、複数種の魔術壁を何層にも重ね、あらゆる攻撃を防ぎきる極めて強固な守りの陣形であった。
しかし、アダルテ達が驚いたのは、その威力。
ゾンダの投げ放った斧は、その防壁を勢いよく貫通し、中層に達したところでその動きを止めた。
「おお? 正面から防ぎきるたァ、やるじゃねえか。ここ最近で一番楽しめそうな相手と出会えたぜェ」
嬉しそうな声をこぼすゾンダとは対照的にアダルテの表情は苦々しい。
「ただ武器を投げた一撃でこの威力だと……」
正面からの攻撃ならば、ほとんどのものが防げると確信した魔術陣形であったのだが、まさかこの鉄壁の陣形を貫くかもしれない敵と遭遇するとはアダルテの予想外であった。
それも魔術も使わずにだ。
アダルテは即座に方針を変えた。
ここで時間を食っていては、これからやってくる自軍が入り切れず、射撃の的になり続けてしまう。
「プランBだ! 準備!」
「シーク! プランB移行!」




