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第200話 防衛準備

 レティシノから、もっと自分を大事にしてくださいと怒られた事を皆に話したら、皆からも同じことを指摘されてしまった。

 しょんぼりしていたら皆が頭をなでてきてサラサラと髪の毛をいじっていたが、段々面白がっておもちゃにされそうになったので慌てて元気を取り戻したりと、いつも通りゆるい空気の帰り道である。

 戦いの事を意識しすぎないように気を配ってくれたのかもしれない。


 帰還する間に矢をはじめとした必要となる物資を買い付け、5日程で開拓村へと帰還したカデュウは、様々な業務に追われていた。


「うう。潜入してた方が楽だったよ……。レティシノちゃんとリーブルさんはエルフ達に協力要請をお願い。パトスさん、全員分の武具の手入れを……」

「こいつをユディって娘に渡してくれ」


「あ、はい。渡しておきます」


 パトスから小さめの斧を手渡され、それを預かったまま次の場所に移動する。


「えーと。海賊さん達は……パンでも作ってて下さい。え、塩の試作が出来た? ……うん、美味しいです。しょっぱ過ぎず味わい深い良い塩ですね。へぇー、塩との対話ですか……ってこんなことやっている場合では!」


 次は戦えない村人達への連絡だ。

 なるべくは守り切るつもりだが、万が一に備えた指示を出しておかなくてはならない。


「戦いが始まる前にはアレクさんの誘導に従って皆さん城の地下へと避難してください。環境を整えて食料も運んで置いてくださいね。仮に僕達が全滅しても、さすがに住民まで皆殺しにはしないはずですから」

「皆さんお任せください。私達がきっちりとお守りします。その日になって慌てないよう、心構えを……」


 その場はアレクに任せて、歩き出す。

 そんな最中に、横から声が飛んできた。


「余はどうする?」


 暇そうにしている魔王が、自身を指さして立っていた。


「お部屋で読書でもしててください。ルゼの面倒もお願いします」

「魔王様ー、久しぶりにおそばに置いて下されー」

「……うるさくて読書も出来んではないか」


 今のところは静かにしていただけるのが最善なふたりだ。

 魔王は嫌そうに、そのまま城の中に帰ろうとする後ろをルゼがとことこついていった。




「ソト師匠、あそこの建材も運んでおいてくださいー」

「ほいほいよーっと。さあ、ゴーレムくん、楽しい運送だぞー」


 帰る前にトーラの店で魔霊石も多めに仕入れているので、工事用に用いる事に踏み切ることができた。

 というのも状況と相手を考えれば防衛工事を優先した方が効果的なのである。


 ソト師匠が言うには、優秀な魔術師を抱えているゴール・ドーン相手にゴーレムはさほど有効ではないらしい。

 他所の軍隊と異なりゴーレムへの対処法も心得ているし、今回は大自然の中の防衛戦となるのであまり大規模な破壊行為は後で自分たちの首を絞める事になるのだ。

 戦争とは終わった後まで含めて考えなくてはならない、とはヴァレンチーノの言である。


 商人として考えても一時的な効果でなくなるゴーレムよりも、壊れるまで使える防衛拠点の方が利に適っている。

 ……おかげで予算が大分飛んだけど。




 ソト師匠が行った後、正面からユディが手をあげて近づいてきた。


「あ、ユディ。新しい武器だって。……イスマはまだあそこ?」

「さんきゅー。うん、食べる時以外はあそこで謎のお祈り中」


 あそこ、とはイスマの要望で作った祭壇だ。

 イスマの国で用いられている神事のものらしいのだが……。

 なんだかんだで食事はきっちり食べてお菓子も要求してくるのだから大丈夫だろう。


「ほうほう、こいつは見事な斧だね。もらっちゃっていいのかな?」

「もちろん。それじゃ僕はヴァレンチーノさんの所に行ってくるね」

「ほーい。ユディちゃんは今日のお食事のお肉をレッツハンティングだねー」


 ユディと別れ、魔王城内部に急遽用意された臨時の防衛司令室のドアを開いた。


「来ましたよ、ヴァレンチーノさん」

「よし。では、そこに書いてあるものを読んで決定してくれ。全部今すぐにだ」


「僕がですか?」

「お前が代表者だろ、王みたいなものだ。王はすべての最終決定者、すべての責任を負うのも仕事なんだぞ。参謀だの軍師だのってのはアドバイスをするのが仕事、僕の主になるのならば王たる者として育ててやるのが道理だろう」


 ヴァレンチーノがまくし立てるが、何が道理なのかさっぱりわからない。


「僕、魔村長であって王ではないんですけど……」

「細かい役職名なんかどうでもいい、お前はそういう存在だと自覚しろ。単独潜入などもってのほかだ馬鹿者」


 クドクドガミガミとお説教をされまくりながら、出された提案に意思決定を行っていく。

 協力してもらう事は聞いていたが、いつのまにか軍師になっているのはどういう事なのだろう。助かるけども。


「――優秀だな、僕の目に狂いはなかったか。お前は出来る奴だと思っていたぞ」

「褒められました、嬉しいな~。って後出しですよね、それ!」


 そもそも見極められた覚えすらないのですけど。


「ちっ。褒めているのだから黙って王の自覚と覚悟を持て!」

「雑! 雑ですよ! 王じゃないですし!」

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