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第199話 開拓村緊急会議

 皆と共に緊急に宿に戻り、カデュウはペタル達から入手した話を打ち明けた。


「大国ゴール・ドーンの精鋭軍が来るだと?」

「そりゃ、やばいね。いくらうちの傭兵団でも単独じゃきっついかな」


 ソト師匠は焦った表情で考えだし、ユディも難しい表情をカデュウに向ける。


「……逃げる? 私はそれでもいいのよ。カデュウの生存が最優先ですもの」


 いつになく優し気な顔でクロスが接するが、カデュウはゆっくりと首を横に振った。


「……ううん、逃げないよ。勝ち目なんて考えられないけど、……開拓村に集まってくれた人達の意思を聞いてみないとね。僕は逃げたくないけれど、みんなは違うかもしれないし」


「全てお任せしますよ。私は、お役目を果たすだけです!」


「……なでなで」

「はは。イスマになでられるのは、はじめてだね」


「ひとまず、みんなと相談してくるよ。幸い便利な道具があるからね」




 遠聴の間に連絡を送り、状況を伝えてもらったところ、遠聴の間において臨時に会議を行い運びとなった。

 集まったのは、クリーチャー傭兵団からゾンダ、メルガルト、ノヴァド、他にルクセンシュタッツの元将軍アレクといった開拓村の荒事担当達。

 カデュウはヴァルバリアの宿からレティシノを使って意思の疎通を行う。

 といっても、おおよそまとまった意見を聞いてから、決断をする代表者としての役目だ。


 そして――。


「なんで僕が呼ばれなきゃならないんだ。僕はもう農家になったと言っただろう」


 フェイタル帝国の軍師であったヴァレンチーノもこの場に連れてこられていた。


「農家っつってもナァ。お前パラドの爺さんに、使いものにならんって言われてただろ」

「ぐっ……」


「ただ飯食わせてもらっとっるんじゃ。出来る仕事ぐらいはせえ」

「……わかったわかった。参加すればいいんだろ」


 ヴァレンチーノは苦々しく顔を歪めて用意された椅子に着席する。

 会議で使われている机は開拓の初期の頃から調理台として用いられていたボロボロの代物だ。

 実用的な箇所が優先されるために、こうした普段使わない部分は余りものでまかなうのが開拓村の方針であった。


「さて、まず基礎となる方針だが。相手は規模から考えて大体2000人近くってとこだろう。カデュウ達が仕入れた情報によればゴール・ドーンの精鋭部隊も入ってる。こっちは戦える奴が150人前後ってとこか? それを踏まえて、逃げるか、戦うか、どちらを選ぶね?」


 メルガルトが進行役となって、緊急会議が始まった。

 さっそく、ゾンダが全員に向かって声を上げた。


「んなモン、決まってらァな。ええ、オイ?」

「当然ですね、考えるまでもない」


 アレクが涼しい笑みを浮かべる。


「ああ、殺戮に決まっている。この僕が平和に暮らそうというのに邪魔をするなど、言語道断だ」

「なんだ、やる気満々じゃねェか。もったいつけやがって!」

「また住処を探すのも面倒なんだ。敵を始末した方が早いだろう」


 ヴァレンチーノも妙な言い草で戦いを肯定した。

 その答えにゾンダも笑みをみせてヴァレンチーノの背中を叩いた。


「やめろバカ、痛い!」

「遠慮すんなって」


「で、勝ち目はあるのか?」


 メルガルトが冷静な表情でヴァレンチーノに問いかけた。


「普通に考えればあるわけがない。仮に勝ったとしても作りかけの村などボロボロになり死傷者も相当な数になるだろう。それでは負けと同じだ。そこに防衛戦の不利がある」


「それでも徹底抗戦だと言うんじゃから、面白い。誰も異論は無いんじゃろ?」


「村の住民達も、判断は専門家の俺達に委ねるがなるべくなら出ていきたくはない、と言っていた」


 事前に聞いていた村の総意を、メルガルトが代弁した。

 全員が口を閉ざし、頷いた。


「どうやら皆同じ意見じゃな。どうするね、カデュウの嬢ちゃん?」


「……『皆さんの意思は受け取りました。村を守りましょう』と言っています」


 やや間を置いて、レティシノの口からカデュウの答えが返される。


「ほいよ。そいじゃあ、防衛戦の話といこうかいの」


「作戦指揮はどうする? 傭兵団なら俺かノヴァドさん、開拓村直属の軍ならばアレクとなるが」

「私は内側の部隊指揮に回りましょう。民間人の誘導などは私達が適任と思いますが」


「わかった。それでは……」


 メルガルトが何か言おうとしたときに、ノヴァドが口を開いた。


「ヴァレンチーノ、お主に任せる。儂らは所詮傭兵、大きな視野はもっとらん。総指揮は一番ふさわしい者がやるべきじゃろう」


 ノヴァドの推薦にメルガルトは同じ意見だとばかりに静かに頷いた。

 意外な人選に、ヴァレンチーノが驚いた顔を見せる。


「新参者の僕に任せるというのか……?」

「負け犬の敗北軍師なんて無様な姿のまま終われねェだろ? フェイタルのおっさんに見込まれた天才様としちゃあよ?」


「誰が敗北軍師だ、舐めるな。いいだろう、俺が総指揮を取ってやる。こき使ってやるから覚悟しろ。ジジイ、前線の細部はアンタがやれ。メルガルト、傭兵団の詳細な情報をよこせ。脳筋共を最適な位置に送り込んでやる。……ここの代表者は確かカデュウと言ったな。敵軍の話を細部まで徹底的に教えろ、と言っておけ。それと、防衛となれば矢が足りんだろう、その他の物資と合わせて帰る道中に買ってこい、と言うのも忘れるな」


「は、はい! お待ちください!」


 ヴァレンチーノが勢いよく次々と指示をする中で、突然話を振られたレティシノが慌ててカデュウに連絡を取った。


「それじゃ儂は建築屋共と相談じゃな」


「あの、カデュウお姉様から『敵に潜入しましょうか?』、という提案が……」

「馬鹿か! 組織の代表者にそこまで危険な真似をさせられるか! いいからさっさと戻ってこいと伝えろ。意思決定者がいないとあちこちで不便だしな」


 何を考えているんだ、と言わんばかりの表情で頭を支えるヴァレンチーノの姿をみて、レティシノも完全に同意せざるを得なかった。

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