第191話 帰ってきた学院生活
「カデュウさんお帰りなさい~。しっかりこの場所で利益をがっぽり、……いえ守っておきましたよ」
「変わらないようで安心しました、トーラさん」
「頼まれていた情報ですが、詳細はこちらにまとめておきました。カフェの噂話はもちろん、吟遊詩人のお客さんからの情報もたっぷりです」
「ありがとうございます、とても助かりました」
吟遊詩人の客というのはトーラが隣で開いているイストリア吟遊店側の客だろう。
冒険者、富裕層や貴族筋、吟遊詩人、とこれだけ多彩な方面からの情報が集まれば裏付けも取りやすく真偽の区別がつきやすい。
「そういえばトーラさんの店は魔導学院で売買許可を貰ったんですか?」
「ああ、あの頭おかし……面白い制度の事ですね。そこはそれ、コネクションの方でちょちょいっと解決ですよ。くっくっく」
「世の中、コネと金でございます、カデュウ様」
トーラのみならずツゼルグも真っ黒であった。
流れの露店だというのに大国有力者とのコネがあるのだから侮れない店である。
「カフェのスタッフに回ってもらった女の子達は、必要があればそのまま派遣しておきますよ」
「是非お願いします」
前回と同じ宿の同じ部屋へと戻ったカデュウ達は、ひとまず旅の疲れを癒すべく部屋でくつろぎながら今後の方針を話し合っていた。
カデュウは厨房で沸かしてもらった湯で紅茶の時間を計りながら、菓子を切り分けている。
「さて、職人探しはひと段落ついたけど、次はなにしよ?」
「まー、カフェの運営かねぇ」
「私は今まで通り情報収集ね」
「ふ。私もカフェの看板娘として頑張りますよ!」
「待て。どう考えても看板娘は私だぞ」
「チミ達には荷が重かろう、ユディちゃんに及ぶべくもないのだから」
なんか妙な座をかけてばちばち争い出したが、放っておこう。
「醜い争いという奴ですなー、我が主よ」
「……お菓子を食べればいいじゃない」
「はい、お菓子と紅茶ですよーっと」
お菓子と紅茶を淹れたら落ち着いたので本当にイスマの言う通りであった。
甘い物と紅茶は心を落ち着けるのかもしれない。
「それじゃあ、今度は料理人を探しておいてくれる?」
「あー。そういや開拓村の方で要望があったな」
「ふーむ、それではユディちゃん食べ歩きツアーかな?」
「おいおい、グルメといえば私だろー。私に任せろ!」
「いや、ソト師匠がいないとカフェの管理者がいなくなるので……」
「ぐぬぬ……」
「ふっふっふー。いなくなっても問題ないユディちゃんの勝利であった」
そこは誇るとこなの?
看板娘じゃなかったの?
「俺はいつも通り下働きでございますわな。なんか重い物でも運ぶ仕事があったら呼んでくれや。イスマの面倒は頼んだぞ、丸い鳥」
「鳥ではない、ルゼと呼ぶのだ。魔王様からも短い名前になったな、とお褒めいただいたのだぞ!」
「それ褒めてるのか?」
「御機嫌よう、お姉様」
「ごっきー、カーデさん!」
翌日、再び学園へと通い出したカデュウとイスマは、謎の挨拶の洗礼を受けながらどこへ行っていただの、何をしていただのと色々聞かれていた所に、セフィルが現れ余計な話題を提供してしまった。
「カデュ……カーデさんのおかげではじめて冒険者としてお仕事が出来ました。ありがとうございます!」
「まあ、セフィルさんとご一緒に冒険をされていたの?」
「ええ、そうなんです。カーデさん凄かったんですよ、他にいたベテラン冒険者さん達の指揮もしてましたし」
そりゃあ雇い主だからね、当然だよね。ていうか学院でそんな話題出さないで欲しい。
セフィルが次々と無駄にカデュウの活躍ばかりを語るので、そのたびに黄色い声が飛んでくる。
「そこでカーデさんが華麗な剣技と魔術で……」
「きゃあ! お姉様かっこいい!」
「お強いと思ってましたが、魔剣士なのですね!」
だがかっこいいと言われるのは悪くない。かわいいとか言われるよりは遥かに。
……でもお姉様ではない、決して。
授業が始まるまで何とも複雑な感情を味わった。
「着席。授業を開始する」
内容は生体系統について。
独特の喋り方をするタルシアが次々とテンポ良く進めていく。
「生体系統とは、生物の体に干渉する術。治癒、強化が中心」
「強化について。これは自身の身体能力の強化、しかし頭での認識と齟齬が生じバランスが難しい。感覚を掴めなければ危険にもなりうる」
「人体は複雑怪奇。故に慎重をもって強化すべし。無理は禁物」
「肝心なのはバランス。過ぎた強化は自傷と知るべし」
カデュウはあまり学んでいない術だが、自身の身体を強化するという事は実は難しい事なのだ。
一部を強化すると感覚が大幅に変わり、それに対して頭も他の身体の部分もついていけなくなる。
軽い失敗例をあげると、力を入れ過ぎて筋肉痛を引き起こしたり、凝り固まって辛い事になったりするのだとか。
脚力の強化で両足のバランスが取れず転ぶ、という話もある。
武術を修めた者はその修行の過程で身体強化を自然にこなす、と先生から教わったのだが、それにはやはり辛く長い修行が必要になるらしい。
初心者は結局、ほんのちょびっと強化する、ぐらいに留めておいた方がいいのだ。
そんな多くの魔術師にとって、自分には向いていないという事を認識するための授業が終わり、カデュウは依頼人であるユルギヌス皇子の下へと向かうのであった。




