第190話 情報収集のお仕事
開拓村を出発し、ヴァルバリアへと向かう道中で、カデュウ達は情報を集めていた。
第三皇子ユルギヌスの依頼をこなす為に、冒険者ギルドに立ち寄って国の内情の噂を聞いて回ったのだが、意外な程に様々な情報を拾う事が出来た。
ここ最近イルミディム地方の魔物の動きが活発で、その影響で富裕層からの護衛依頼が沢山入ってきているらしい。
第二皇子パラトス、第三皇子ユルギヌス、第四皇子テオドゥスのそれぞれの派閥が裏で激しく争っている話。
第二皇子パラトスは魔力が乏しく、魔力量の多い第三皇子ユルギヌスが最も皇帝の座に近いという話。
ゴール・ドーンの敵国、マルク帝国の圧力に屈し、すでに寝返っている貴族もいるという話。
そして、パラトス、テオドゥスの両派閥とも皇子自身の意向とは無関係にユルギヌスとその派閥を除こうと暗躍している話。
第四皇子テオドゥスの派閥に属するのは若き皇子を傀儡にして成り上がろうとする陰謀家が多いという話。
ゴール・ドーン以外の情勢で大きな動きと言えるのは2つ。
マズル王国の軍備増強が続いており、不穏な気配が見られるという話。
グローディア王国で国王ボスティノス6世に対する不満が高まっているという話。
貴族とは関係のない、冒険者らしい噂の中には、巨人が現れてそれを剣聖が倒したという話もあったが。
ともあれ、冒険者ギルドで仕入れた情報、これまでクロスが有力者から聞いていた情報などを併せた結果がこのような所だ。
「驚いたのは、ディアメリスマ侯がユルギヌス皇子の派閥だった事かな。茶器好きのおじさん、結構大物なんだね」
「あ、学院に戻ったら皇子達は殿下を付けないとダメよ」
「そうだった、気を付けるね」
クロスに注意されたのは王侯貴族様の面倒臭い呼び方のマナーである。
全部様付けしておけばセーフだと思っていた時期が僕にもありました。
「ディアメリスマ侯は国内最高の権勢を誇る辣腕家であり、黒い噂が付きまとう野心家とも言われているのよ。お父様のような国外有力者と広く付き合っているのも、その噂を補強する形になっているのだけど」
「なるほど、だからユルギヌス皇子……殿下も信頼を置けていないんだね」
仲間だけの会話なので殿下でもキモ皇子でも何でもいいのだが、練習の為に頑張ってみた。
こうした言葉の修正を聞き、クロスがウンウンと頷いている。
自分の派閥がそんな野心家で、しかも自身は跡継ぎの最有力候補。
無関係の者の方が信用できるというユルギヌスの慎重さも頷けるというものだ。
「ちなみに侯爵閣下はグローディア生まれで商人出身の成り上がり。魔術の才能で抜擢されたって話ね」
「ほー、才能があれば侯爵にもなれるのか。……あの国は保守的なんだか革新的なんだかわからんな」
「魔王さんが言うには、ミルディアス帝国の伝統が歪んだ形となって継承されたのだろう、みたいな話でしたよ」
本家本元の古代ミルディアス帝国では、さすがにそこまで極端ではなかったらしい。
皇帝が魔力継承制ではあったが、魔力だけで評価されるわけではなく、血統に関しても別に初代皇帝の血族でなくても良かったのだとか。
法制度も伝統も民を重視するものであったらしく、少なくとも今のゴール・ドーンとかけ離れているのは理解出来た。
長い歴史の中で色々と変化したり失われたりしたのだろう、と歴史の流れを感じざるを得ない話だ。
冒険者ギルドで情報を集める傍ら、商人の護衛や配達などもこなして、地道に小銭を稼ぎつつ、帝都ヴァルバリアへと戻ってきた。
もちろん当然のように魔物達が複数回襲ってきたが、運が良いのか今回は今までで一番数が少なかった。
すっかり忘れていたが、相変わらず門の前は行列である。
魔物が活発な影響もあって、前回よりは少ないし、冒険者の姿も多いという変化はあったが。
「ああ。まーたクソ門番の洗礼が待っているのか……」
「今度は当たり門番を引きたいですねえ」
ソト師匠と苦笑しながら様子を眺めて待つと、やがて順番がやってきたが……。
引いたのは、以前見たような顔立ちの、口元を変な風に歪めた門番であった。
「ふん、さっさと賄賂よこせばスムーズに通してやるってのによぉ。おら、次だ、早くしろ」
「これはハズレ感。ユディちゃんアイスを取り押さえなくてはならないのかな?」
「早くしなきゃならんのは門番のお前だろうが……」
呆れ顔で門番を見つめるユディやソト師匠の態度が伝わらないようにカデュウが馬車を降りて近づくと……。
「あ、そのマントは……。し、し、失礼しましたぁ! どうぞお通り下さい、ずずいと!」
一転して態度を急変させ、ぶるぶると震えながら媚びを売る表情を見せてきた。
変わり身はやっ!
「態度全然違うな!」
「魔導学院の威光、凄いのね……」
「このマント、この国の中で万能アイテム過ぎるでしょ」
……ヴァルバリアで快適に過ごしたければ魔導学院のマントを身に纏おう!
妙な知識を学習してしまった。




