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第189話 ほのぼの開拓村

 ラサの街を出て、ニキの街付近の転移陣から開拓村に戻ったカデュウ達は新たなる住人をターレスに紹介して後を任せ、それぞれのやるべき事へと向かった。

 カデュウの場合は積まれているであろう報告や相談の処理だ。


「院長せんせー、美味しい人が返ってきたよ」

「カデュウさんとかいう感じの名前だよ、アルデ」

「おや、本当ですね。おかえりなさいませ、カデュウ様」


 カデュウが書類を持って部屋から出ると、アルデとゼミカと共に孤児院長のライヌムントに出会った。

 村の手伝いをしているところだったらしくそれぞれが重そうな荷物を抱えている。

 孤児の幼女二人は魔族の血が入っているからだろうか、中々の力持ちのようだ。


「ただいま。アルデ、ゼミカ、良い子にしてた? ライヌムントさんもお疲れ様です」

「悪い子にしてたよ、魔族だもの!」

「美味しいお食事の為に、アルデと一緒にお手伝いしてました。魔族として!」

「あはは。魔族でも良い事をしてたら良い子でいいんだよ」


 孤児の二人は以前よりも明るい表情を見せるようになっていた。

 開拓村の生活を楽しんでくれているのが良くわかる。


「ここの皆様にはとても良くして頂けて……。この子達がこんなに楽しそうにしているのははじめてですよ」

「ここは色々あって色々みれて楽しいよね、ゼミカ」

「みんな笑顔を見せてくれるしね、アルデ」


 村の皆が笑顔ということは、村の運営が上手くいっているということでもある。

 皆が幸福であれば他者を気遣う余裕も生まれ、心地よい村となるだろう。

 カデュウとしても、本心からの感想をこうして聞けて嬉しいものだ。


「良かった。後で美味しいお菓子をあげるね」

「お菓子ー! 嬉しいね、ゼミカ」

「悪い子……、いえ、良い子にしてると美味しい物が貰えるね、アルデ」


「それではカデュウ様、私達はこれにて。さ、行きますよ二人とも」

「じゃあ、後でね。お手伝い頑張って」


 二人の頭を撫でると、満面の笑みをカデュウに向け喜びを見せてから、ひそひそと二人が呟き合う。


「たらし、……たらしだよ、ゼミカ」

「くっ、美味しい食べ物には勝てなかったよ……」


 何故か変な反応が返ってきた。

 この子達に変な事教えたのは誰なんですか……。




 相談事の書類を抱えて現場に向かっていたカデュウの前方からレティシノが歩いてくる。

 レティシノもカデュウの姿に気付いたのか小走りで近づいてきた。


「お姉様、お帰りでしたか!」

「レティシノちゃん、連絡ありがとうね。おかげで欲しい物をちゃんと買ってこれたよ」

「えへへ、私が遠聴の間の担当になったのですよ。お姉様担当です!」


 そういえば遠聴の間の担当者を決めていなかった事を思い出した。

 レティシノは他にも妖精絹という生地を編んだり、将来の長老としての勉学などもこなしているのだが大丈夫なのだろうか?

 そして何故いつまでもお姉様呼びなのだろうか……。

 もちろん男だと伝えてあるのだが、他の人同様にいまだ女の子扱いである。


「職人さん達はうまくやれてるかな?」

「皆さん気さくで良い人達ですよ。お仕事に没頭しているのか、食事の時以外はあまり見かけませんけど。出来上がった品物で、すぐに使わないものはお城の倉庫にしまってあります」

「もういくつか出来てるんだ、早いね。問題は何かある?」


「そうですねえ、揉め事の類はないと思います。でも、お姉様がいらっしゃらない時は料理する人が不足しちゃってますね」


「あー、なるほど。それは気付かなかった。……作れる人いないの?」

「エウロお婆さんとエルフの子達の中で料理が出来る二人と漁師さん達ぐらいですね。おかげで野菜か魚かというように偏る傾向が強いです。あと海賊さん達がパンを焼いてくれるので助かっています。兵士さん達が作る時もあるのですが、ちょっと残念な感じですね」


「うーん、料理が出来る人も探さないとだね。とりあえずしばらくはエリスさん達がいるから、もうちょっと良くなるかな」


 美味しい食事の提供は必須事項なのだ。料理人の補充は最優先にしなければ。

 人が増えた事で農業の方も増員した方が良いだろうし。

 職人問題を解決すれば、再び食料問題の出番が来るのはわかっていた事だが、村の運営というのも難しいものである。

 あちらを立てればこちらが立たず、さりとてやらないわけにもいかない。


 冬の備えとして、多めに食料を買い付けておいた方が良さそうだ。

 とはいえ、困ったら転移して買いに行ける便利な拠点なので、その点は金で解決出来る事でもある。

 どの道、作物はすぐに育つものではないのだから、農業の増員は冬が明けてからの方が無難であろう。

 幸い、開拓村の周囲の大森林には食べられる物も広く自生しているのだから。


「お姉様はまた旅立たれるのですか?」

「うん、少しゆっくりしてからだけど。またヴァルバリアに行かないとね」

「それではいらっしゃる間はお食事を豪華にしませんと!」

「うわー嬉しいなぁ。……って作るの僕なんだけど!」

「えへへ」


 レティシノがかわいらしく舌を出す。


「でも、新しい住民が増えたから、歓迎会を豪華にしようか。食材は買ってきてあるから」

「いいですね、皆さんも喜びますよ」


「わーい、豪華なお食事ですよ、アルデ」

「カデュウさんは良い人だね、さすがまそんちょーだね」

「わ」


 通りすがりの魔族っ子二人が突然カデュウに抱き着いて、そのまま走り去っていく。


「楽しんでいるようだねー、あの子達……」

「元気ですねー……」

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