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第184話 思わぬ拾いもの

 ラケティの街を出て、カデュウ達はアルゴリアへと続く街道を歩いていた。

 鍛冶師達6人を連れているのだが、全員を馬車に乗せる事は難しい。

 よって馬車は交代制の休憩場として用い、徒歩の速度に合わせて移動する事になった。

 

 男爵一行と鉢合わせしないように最初だけ少し迂回してから街道に戻ったのだが、男爵が乗っていた馬車が残されたまま放置されていた。

 夜闇の中の襲撃という事もあって、さほど印象に残らなかった場所であったが、野営の道具がそのまま残されていたので同じ場所という事になる。


「はて。馬車が残されているけど人はいない」

「お馬さんも残されたままです。お腹空かせてそうです」

「いや、離れているから気付きにくいけど、血の匂いがするね」


 そのまま近づいたカデュウ達は死体がいくつか転がっている事に気付いた。

 その顔や服装からみて、ミジスラ男爵の部下達のようだ。

 彼らの死体は周囲に3つ転がっており、血と足を引きずったような跡がどこかへと続いている。


「あの数時間の間に誰かに襲われたのかな?」

「ううん。形跡を見ると、仲間同士で殺し合いかな。この人に刺さってる剣なんか、そこの人の鞘に収まるでしょ。外部から襲われたにしては不利になったのに逃げている様子もないっぽい」


 ユディが細かな形跡を見て、何が起きたのかを分析する。


「つまり、最後に勝ち残るまで決して逃げられない事情があった、ってわけね。恐らく、罰や罪を恐れての逃亡、仲間の口封じを目論んだ。そんなところじゃないかしら?」


「へっ、どいつも覚えのある面だ。俺には慇懃無礼で、他の奴らには上から目線の連中だったな。まさかこんなところで死体として会えるとは思わなかったが」


 馬車から降りたパトスが、さほど関心もなく死体に感想を漏らした。


「……ん、あそこ。生きてる人がいる」


 イスマの感知によって、やや馬車と茂みに隠れた形で見た覚えのある貴族の男性が倒れていた。


「あ、ミジスラ卿だ。意識は失っているけど、まだ助かりそうだね」

「助けるのか?」


 ソト師匠の質問に、カデュウは答えを保留した。

 それを決めるべき人は別にいるからだ。


「どうしましょう、パトスさん? 僕達はどちらでも構いません。助けたいのならば助けます」

「助けられるのなら頼む。長年の腐れ縁で、腐っても幼馴染だ。むかつく事は多々あったが、俺には恨みも憎しみもない」

「わかりました。では手当をしましょう」


 サラリと答えて、カデュウが治療薬を用いて傷口に包帯を巻いていく。


「ふぅ、応急処置はしました。早々に気絶したのか、ほとんど外傷がないのが幸いでしたね。唯一の切り傷はお腹の脂肪で止まっていました」

「内輪の争いが起きたのが深夜っぽいし、暗くてよく見えなかったのかも。戦い慣れてなければ殺した、と錯覚するのもありえる話、かな」

「すぐ仲間同士の争いに発展したなら、それどころじゃないしね」

「へっ。まったくよ、悪運の強い奴だ。太ってたおかげで助かるとはな」

「なにが幸いするかわからんなー」


「さて、どうしようか。今更、危険を冒して街に戻れるわけもないし」

「このおじさん助けたんだから大丈夫になったりしないんです?」


 首をかしげるアイスに、カデュウは首を振り答えた。


「ミジスラ卿は見逃してくれるかもしれないけど、その周囲の取り巻きに見つかったりすると面倒だし、王命の方が厄介なんだよね。パトスさんが逃亡したっていうのは、まだ王側は知らない事だから、今のうちならアルゴリアをあっさり通れるはずなんだ」

「ばれちゃうと、道中も危険になるって事だね」


 ラケティの位置はグローディア王国の最南端であり、ここで国家に手配されると逃げられる自信はない。

 パトスには申し訳ないが、ここに置いていくか、アルゴリアまで連れて行ってから置いていくか、というのが現実的な対応となるだろう。


 あるいは――、と。

 考えに集中していたカデュウは、その存在に気付けなかった。


「お困りかい? 迷える旅人ちゃん達よ」

「わ」


 驚いて振り向くカデュウが落ち着く暇もないうちに老婆は言葉を続けた。


「あたしかい? あたしゃあ、ガリーズっていうババアさ。華奢で可憐に見えるかもしれないが、秩序の神ゼナーに仕えし者だから安心おし。……おや、あんた前に会ったね? ババアの記憶力でも印象に残っとるめんこい子だよ。何にお困りだい? あたしで良けりゃ力になれるよ」


 大きな、とても体格の良い老婆、ガリーズがカデュウの顔を覗き込む。

 突然の事でやや混乱したが、以前にゴール・ドーンで出会った聖職者の老婆だ。

 まったく華奢にも可憐にも見えないというか、話が繋がっていないような気もするというか、つっこみどころが多すぎる。


「ええと、道中でこの人を見つけて救助したのですが、この人の住んでいる場所と僕達が向かう先が逆方向でして、どうしたものかなと」

「そんな事かい、それならあたしが連れて行ってやるよ。丁度、ラケティの街へ向かう最中さ。それに、怪我人の癒しはあたしのような神に祈って食ってる奴らの仕事だからねぇ」


 ふむ、と少し考え、カデュウはあっさり決断した。


「とても助かります」

「すまないが宜しく頼む、シスターさん。俺の親友なんだ」


 パトスも続けてガリーズという老婆の目を見つめながら頼み込む。

 普通に考えれば、体重もありそうな動けない男性を、徒歩で旅している老婆に預けて街に運んでもらうなど非常識な話だが、この老婆の場合はその体格からして問題なさそうであった。

 以前街中で暴れていた危険人物ではあるが、接した印象からカデュウには信用できる人物のように思えた。


「ああ、任せておきな」


 ガリーズは快く、そして怖い顔に笑みを浮かべた。

 子供なら泣き叫んでいたかもしれない。


「細かい話をすると、あいにくとシスターではなく祓魔師(エクソシスト)であり審問官(インクイジター)さ。普通の人々にとっては大した違いはないけどね」


 そう言い残して、軽々と男爵を抱えガリーズは去っていった。


「よし、それじゃあそこの馬車はいただいちゃおう、捨てて置くのももったいないしね!」

「お馬さんもかわいそうですしね!」


 こうして馬と馬車を拾って、全員が馬車に乗る事が出来たのであった。

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