第18話 雨の日のゼップガルド
修道院から戻る最中の2日目、大量に雨が降ってきた。
びしょ濡れになったり体が冷えたり、休憩もままならなかったりで散々な目にあったが、なんとかゼップガルドの街へと戻る事が出来た。
すぐに宿の部屋を借り、体を温めなおしてからくつろいでいる。
「想像よりずっと雨が厄介だね……」
「……水も過ぎれば毒になる」
ベッドで仰向けになりながら、カデュウとイスマが嘆いていた。
「テントがないからなぁ。今回は2日程度だからどうとでもなったが」
「うーん、購入も考えた方が良さそうですね」
「ないよりはあった方がいいな、荷物持ちは重くなるだろうけど」
ソトがちらりと向いた先にはシュバイニーが椅子にも座らず立っていた。
「別に構わんぞ。それぐらいしか役に立てんからな」
「シュバイニーさん、頼もしいです。私も他の子も、重たいのはちょっときついですし」
そう、アイスの言うようにこのパーティは力持ちが1人しかいないのだ。
瞬間的な力はカデュウでも出せるが、持久力となると難しい。
無理をして、前衛役がいざというとき腕や身体が疲れていては本末転倒だ
「僕もあまり多くは持てないしね。……あはは。でも、イスマとシュバイニーも大事だけど、前衛をこなしてくれるアイスも大事だよ」
「待て。待って。私を抜かないで。いらない子みたいだから抜かないで」
ナチュラルに答えるカデュウの言葉に、即座に反応を示すソト。
うーん、過去のトラウマのせいで過敏である。
「もちろんソト師匠も大事ですよ。解説役とかムードメーカーとかそんな感じで」
「ねえ、あんまりいらなそうだよねソレ。ねえねえ」
カデュウなりに褒めたつもりであったが、言葉選びを間違えたようだ。
野外でない為、珍しくマフラーをつけていないソトが、近寄って目で訴えてきた。
「そんな事はないですよ。ソト師匠のような気が合う仲間は大事です」
「そんなストレートに言われるとそれはそれで恥ずかしいな」
どうしろというのか。
テレ顔で頭をさすってるソトの事はともかく、冒険用品をどうするか考えなくては。
「よし、馬車を買いましょう」
「ほほう。予算を使い込んでしまうかね。私の魔霊石も忘れないでな」
天幕のついた大きめの馬車があれば、移動は楽になるし雨が降っても大丈夫。荷物も運べて交易も出来る。
馬の世話とか乗り心地とかの細かい点に目をつむれば完璧だ。
ずっと歩いて雨に濡れてしょんぼりするよりは、よほど建設的だろう。
本当は船が良かったのだけれど、現状判明している唯一の転移場所が思いっきり内陸地なのだ。
それに船員の雇用なども考えるとなかなか厳しい。
船を盗んで逃げない程度に信頼のおける管理者がいなくてはいけないし。
「馬の世話とかって誰か出来るんです?」
目をつむっていた点が帰ってきた。
アイスが言わずともすぐに考えなくてはいけない箇所ではあるが。
カデュウは馬の世話をした経験はない。
「……できらー」
これはまた意外な所から手が上がった。
イスマがまさか馬の世話が出来るなどと、カデュウは思っていなかった。
できらーっていう言い方が気になるが。この子、本当に大丈夫?
「俺も出来るぞ」
こちらはイメージ通りだ。
シュバイニーも出来るのならば馬の世話もなんとかなるだろう。
となると次なる問題は馬車をどこで買うかだ。
予算が手に入るのはあと2日後だけど。
せっかく買うのならば、お高いものであるし、良い職人が作った乗り心地や耐久性が優れているものが理想的だ。
これは情報収集が必要だろう。
長い付き合いになる馬も、同じく質を求める必要がある。
「2人も可能なら問題ないね。……うーん。馬や馬車を買う方向で進めるとしても、まずは調べないとだね。この辺りは冒険者ギルドよりは、交易ギルドの方が詳しそうだけど」
今宿泊している宿は、前回の時と同じものだ。
ベルスの宿。この辺りの安い宿の中で比較的食事がマシ、という無難さがソトからのおすすめ理由であった。
前回は朝食を食べていなかったので、今度こそチェックしなくてはならない。
宿自体は新しくもなく古いという程でもない。
それはゼップガルド自体がそんなに古くない国だからかもしれない。
比較的お安い宿だけあって、お安そうな外観であり内装である。
しかし部屋は綺麗に掃除してあり、ベッドの寝心地は評価できるものだった。
ごろごろもふもふしたくなるぐらいに。
「とりあえず、報告もあるから先に冒険者ギルドに行こうか」
「うむ、私達はリンゴジュースを飲んで待っているからよろしくな」
「……なんで僕が報告する事になってるんでしょう。ソト師匠の方が中級冒険者なんですから、報告したり仕事を受けたりするものじゃないんですか?」
「後輩の勉強の為とかそんな感じの奴だ。書類書くの面倒臭いし。まあ意見ぐらいでよければ、いつでも答えるが」
「新人冒険者に丸投げするのも、どうかと思いますよ」
がっくりした表情で街中を歩くカデュウだが、こうなるだろうとは思っていたのだ。
こんなパーティだから仕方ないのである。