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第174話 アルゴリアの遭遇

 戦争中なのに平和なクリーチャー傭兵団の陣地を後にし、カデュウ達は3日後の昼過ぎにアルゴリアの街へとたどり着いた。

 付近で戦争をしているからだろうか、あまり人と出会う事もなく静かな道程であった。


 古代グローディアの面影を残すこの街は、山と海に囲まれた自然の要塞ではあるが、今となっては歴史に置いて行かれた街、という面が強いように感じる。

 乱雑に立ち並ぶ漆喰の家々は所々が色褪せ剥げ落ちており、その古き歴史の証人となっていた。

 

 海岸沿いには小さな港があり、旧式のガレー船がいくつか停泊している。

 海洋交易は住民の数がいる分、そこそこの活発さはあるようだが少し進めば、グローディアの王都デロスパゴスがあるので、港町としてはあまり価値を見出されていないようだ。

 どちらかといえば王都デロスパゴスとラケティの街をつなぐ、休憩地点という立ち位置らしい。


「あんまり木材の需要は無さそうな街かな……。ラケティまで持っていくしかないか」

「人の気配も少ないから、やはり戦場に行ってる影響もあるのでしょうね」


「アホが王様になるとこうなるぞっていう見本だな。最初は見てわかる影響がなかったとしても、こうして徐々に国も街も疲弊していくもんだ」


「まずはいつも通り宿の確保ですね、そしておやつ探索です」

「……おやつー」

「我も楽しみであるぞー、いえーい!」


 アイスやイスマにルゼまでも揃っておやつを要求して、おやつの合唱を始めだした。

 いきなり何するかわかったものではない。

 道行く人が何事なのかと見ているではないか。恥ずかしい。


「おやつは探すから静かにしてね……」


 ここのところ甘味を与えていなかったからだろうか、などと考えつつ、馬車を降りて宿を探し始めた。

 

 宿は比較的多く見つかったが、どこも寂しい様子なのはやはり戦争の影響で陸路の客足が途絶えているのだろう。

 カデュウ達は探した中から宿を選び、ひとまず馬車を預けて街中へと繰り出した。

 さっそくカフェに入り、菓子を注文する。


「パイみたいなのがめちゃ甘かったです!」

「バクラヴァだね。バター入りのパイ生地に中にくるみやアーモンドが入って、甘い生地に蜂蜜やシナモンに砂糖を加えたシロップがかかって凄い甘さだったね。コーヒーと一緒じゃないときつい」

「……故郷のおやつだった。ちょーあまい」

「我が主の故郷のものでしたかー、はじめてのやべー甘味でしたぞー」


 イスマの故郷の菓子だというバクラヴァはこの辺りでは人気の伝統菓子らしい。

 交易か何かでもたらされたのだと思うが、意外な所でつながりがあるものだ。


「私達は他のにしておいてよかった……」

「ユディちゃんの勘は冴え渡っていたのであった。クッキーみたいなやつにしといてよかった」

「くそー、カデュウめー。罠にはめたなー……」


 クロスやユディは回避していたが、ソト師匠におすそ分けしたら恨まれた。

 そんな甘すぎると絶賛の菓子だが、グローディアでは大人気らしい。かなりの甘党国家である。


「うーん、でも甘味をもっと抑えれば万人向けのものになりそう……」

「……ぜひよろよろ」


 故郷の菓子に色々思うところがあるのかイスマが深々と頭を下げてきた。

 今度試しに作ってみようかな。




「ん? あいつは……、もしやあのクソ野郎では?」


 突然、足を止めたソト師匠の視線の先には、どこかで見たような人がぶらぶらと歩いていた。


「……あれは。以前、待ち伏せをして僕らを襲った人ですか。確か名前は、クース・ヌトレ?」


 その話が聞こえていたのか、クースはカデュウ達の方を向き、怪訝な表情を見せる。


「はて? 君達どこかで会ったっけ? 俺、この辺りはあまり来ないんだけど」

「マーニャ地方で会いました。行く手を阻んだ敵として」

「あー、はいはい。あの時の子達か~。一度しか見てないし忘れてたよぉ、めんごめんご」


 軽い調子で、いかにも心が籠ってない様子でクースが謝罪した。


「カデュウ、この人は斬って良い人ですよね? 多分良さそうです」

「いや、街中なのでちょっと……」

「おいおい、傭兵の間じゃ、戦った後は水に流すのが暗黙の了解だぜ?」

「ま、通例じゃ、そーなってるね。明日には味方になるかもしれない業界だし」


 敵味方が状況次第で入れ替わる傭兵業界では、さばさばと割り切って平常時にはただの知人へと変わるのが流儀だ。


「まぁ、君達がその気なら? 俺みたいな雑魚のクズ野郎はこの場で始末しちゃえるだろうけどねぇ。俺としちゃ別に君らに用はないんだよねえ、あんときは仕事だっただけだし?」


 ちらり、と民間人の方に視線を向ける。

 この場で襲い掛かればどうなるか、という意味を含ませているかのようだが、決して脅すような言葉は発しない。

 クースは自らを雑魚と自称しているが、この男も一大傭兵団の頭を張っているぐらいだ、相応の強さがあると見るべきだし、その場合勝てるかどうかがまずわからない。

 そうした状況で無関係の民間人に手を出された場合、被害を失くすのも難しいだろう。

 そうなった場合、寝覚めは悪いし、根本的にクースに対してそこまで敵対意識を持ってはいないのだ。


「今、俺フリーなんだよね。休暇でバカンスでエンジョイ中なわけよ。ああ、そうだ。店でご馳走しようか、俺のおごりだ。せっかく会ったんだから美味い物でも食べて楽しく話そうぜ?」


「いいですね、いきましょう!」


 ご馳走に食いしん坊のアイスが飛びついた。

 ……君、さっき斬っていいか、みたいなこと言ってたよね?

 実際のところ仕事で襲われたとはいえ、他に何かされたというわけでもない。

 おごってくれるなら誘いに乗るのもいいだろう。

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