第173話 愛と涙と感動のストーリー(自称)
「俺達は戦争中だっつうこの辺りに来て、どっちでもいいやってとりあえず両方に声かけたわけだが」
「いきなり非常識だな。普通、どっちかに売り込んでダメだったら反対側じゃないのか」
ゾンダによる愛と涙と感動のストーリーを話し始めて早々に、ソト師匠からのつっこみが入った。
「だって待ってるの面倒臭えから。早く戦争したかったわけよ」
「条件はどっちも一緒だったのか?」
「先に来た方をさっさと選んだが、結局似たようなものだな。傭兵ギルドの水準程度だから別にいいけどよ」
「傭兵ギルドを通してたら、両方に売り込みに行くなんてありえないけどな……」
下手すると値段を吊り上げる行為にもなるのだ。
国に傭兵を斡旋する立場の傭兵ギルドが認められるわけがない。
しかし傭兵は元々が無法者に近い暴力集団である。
傭兵ギルドと折り合いの悪い傭兵団というのも一定数いるので、冒険者ギルドほど統制が取れているわけでもない。
「そういうわけでグローディア王国に雇われてこの辺りで布陣し右翼に配置された。ああ、味方に他の傭兵団もいたが、目立つとこはキティーアーク傭兵団ぐらいだ」
「……アークリーズさんのところの!」
「なんだ? 知り合いか? あいつらは左翼側にいるから会いに行くならちょっと山超えなきゃならんぞ」
冒険者になってはじめての頃にお世話になった傭兵団だが、向こうにしたらたまたま出会った駆け出し程度の認識だろう。
それに戦争中なのに用もなく会いに行くというのも迷惑かなと考える。
「素人が戦場付近をうろつくものじゃないから、やめておきます」
「ま、そーだな。俺も暇つぶしに行こうかな、と思ったけど一応座ってねえとメルがうるさいんだよな。……で、まぁ、俺らは命令通り攻撃して、敵を片っ端から蹴散らして大活躍だったわけよ。歯ごたえねえ連中だった」
戦争してる傭兵団の団長が持ち場を離れちゃだめでしょうね、そりゃあ……。
「そしたら、グローディアの将軍とかいうのに呼び出されてよ。褒美でも出るのかと思ったら、右翼をクリーチャー傭兵団だけで守れ、とさ。しかも防戦のみに努めろと来たもんだ」
「……え? なんでそんな事に?」
「メルが調べたところ、俺らは活躍しすぎたらしいぜ? あくまで主軸は正規軍同士だから、傭兵に手柄を取られたんじゃメンツが立たんのだと。しかも別に城を落とす気はないんだとさ。城を包囲して適当に攻めてアホかっつうの。子供の遊びでもしてんのかあいつら」
「変な方向に想像を絶する雇い主ね……」
「あの時、村でアレク将軍が言っていたのはこの事でしたか……」
戦場マヌケ話を聞かされてクロスとカデュウが呆れ顔で感想をこぼした。
アレクがイルミディムの争いは真剣さが足りないと言っていた意味はこういう事だったか。
「ほんと、ろくな奴がいねえ。とはいえ、理由はあまりにもアホ臭いが、防衛しろっつうのは理不尽な命令じゃあねェ。立派な傭兵のお仕事であって、将軍が無能だからってぶち殺す程じゃないわけよ。そもそもこの国の王様の方針がそんなんらしいからな、将軍のせいとも言い切れん」
「で、相手の方は俺らにビビり過ぎたのか、フド傭兵団を雇い入れて俺らの方面を守らせた。お互いの命令が防衛になっちまって、俺もジェドも暇になったと。元々ここを守ってた味方共は他に配置されたんで、俺らだけでこの広いとこで平和に飲み食いしてるのよォ」
「我らは相手を聞かされ、全力で罠を張り巡らせていたら、なんと攻めてこないと来たものだ。かといって、こちらから攻めても無駄な被害が出るだけだしな。任務は持ち場を守る事であって勝つ事ではない。命令通り、放っておくことにした」
「せっかくノヴァドの爺さんが歓迎の準備してたのにな。……せっかくだからちょっと攻めてこない? 俺、暇なんだよォ」
「何の利もないのに暇つぶしに付き合って犠牲を出していられるか」
「……こんな感じでお互い暇になったから、こうして食事に誘ったりしてんだ。命令は順守できてるし、被害も出ない。完璧な仕事ぶりってわけよ」
なんともはちゃめちゃな傭兵団らしい結論であった。
ほとんど、談合で契約金だけせしめている状態だが、変な命令を出す正規軍の方に問題があるので仕方がない。
「どうだ、悲しい話だろォ」
「一体、どこに愛と涙と感動があったんだ……」
「涙は父さんの気持ちだとして、愛と感動はわからないかな」
ソト師匠のつっこみに、ユディも合いの手を入れる。
「感動は多分、敵味方で楽に飲み食い出来てるところじゃない?」
「愛とは……」
「そりゃあ、戦わずに済んだ愛と平和の物語ってわけよ。ガッハッハ!」
クロスとカデュウも話をいじっていたら、ゾンダが強引なまとめをしつつ笑い飛ばす。
愛ってなんだろう……。
なんたらかんたらのストーリー語りは終わり、ゾンダはカデュウ達の顔を見渡した。
「それで、いつまでここでバカンスを楽しむんだ?」
「あと数日ぐらいだな、メルが話し合いに行ってるからその結果によるが」
パンをかじりながらソト師匠が指をくるくるさせている。
意味が分からない行為だが、多分無意識なのだろう。
「俺達は、ゾンダのとこがいなくなればお役御免だ。お互い契約終了で談合すると見ているがな」
「お前ンとこの情報網なら確かだろうな。カデュウ、お前らは?」
「僕達はラケティまで行って鍛冶職人を探し、それから帰る予定です」
「そりゃあいい。修繕ぐらいならエリスやオーラヴも頑張ってくれてるが、やっぱ鍛冶は本職が必要だろ。まぁ今日はゆっくり泊ってけ、なんならそこらへんの軍需物資もってっていいぞ」
完全に陣や物資の私物化をしている傭兵団の皆さんのご厚意に甘え、実家のような安心感で一晩寝泊まりするのであった。