第172話 傭兵団のお食事会
夕食の用意を頼まれたカデュウは傭兵団の女性団員エリスやネーテ、マーニらに助力を求めた。
ドワーフのおばちゃんエリスと、医術や薬学の知識があるネーテは普段料理を作っているだけに手際が良い。
各種探知魔術が得意なマーニが温度管理を行い、適切なタイミングで次の工程に持ち運ぶ。
開拓村では良く一緒に調理していたので、勝手知ったる間柄である。
「エリスさん、切った野菜を煮込んじゃってください」
「あいよ! いつものやつだろ、味付けもあたしに任せときな」
「ネーテさん、生薬の調合はこんなものでいいですか?」
「うん、いつも丁寧だねー。私苦手なんだよ。あ、それ鍋に投入ね、4匙ぐらいで」
「調味料の分量はこんなとこ。時間ピッタリ、温度バッチリ。はいできた」
「マーニさんが完璧な管理をしてくれるから味が安定していて助かりますよ」
全体指揮とメニュー考案をカデュウが行い、それぞれの得意分野を活かして仕事を割り振って、複数のメニューを作り上げた。
塩漬け肉と野菜たっぷりのミネストローネはショウガをはじめとした生薬入り。
マーニャ地方の料理ブラート・カルトッフェンの変化形として、白ワインで蒸したジャガイモにベーコンとサラミに香草を混ぜて炒めた物を。
かまどでは小麦が活性するタイミングまでパンを焼いた。
最後にイルミディムで愛用されるフェタチーズを卵液に混ぜ、とろふわに仕上げたオムレツ。
このオムレツは作り方を熟知しているカデュウが担当している。
「うめええ! 今日もすげえな。……なんでいつもこれが作れねェんだお前ら?」
「普段あたしの作ってるのも美味しいだろうが! 贅沢言うんじゃないよ!」
豪快な女将をイメージさせる、ドワーフの女性エリスがゾンダを怒鳴りつけている。
その言葉の通り傭兵団の調理担当を務める、強いオカンといった存在だ。
「カデュウちゃんじゃないと正確な作り方わからないから。私は言われた通りやってるだけ」
「ハーブも香辛料も生薬みたいなものだからわかるけど、美味しくするのは専門外ですよー? あと私、調合苦手なので。解体の方が得意です」
マーニはしっぽが生えている以外は人に近いハーフデボスティアで、傭兵団では索敵を担当する。
成熟した体つきのお姉さんといった姿の女性だ。
常時、探知系の魔術を展開していて物事の変化に敏感らしい。
ネーテは傭兵団の治療担当、グローディア出身で医術の家系の一族らしい。
優しそうな外見の女性だが、人の解体がしたくて傭兵になったやばい人である。
狩りや釣りも趣味だというが多分解体する為だろう。
「団長、お客さんが来るよ。あと10秒後」
突然、マーニが来訪を伝える。
何事だろうと考える暇もなく、その人物がいきなり近くに現れた。
上から降ってきたように見えたが、その衝撃にも微動だにせず直立している。
「おう、来たか。今日はご馳走だぞ、ジェド」
「招待されたから来たまで。見知らぬ者が増えているが、新たな団員か?」
ジェドと呼ばれたフードを被った屈強な男性は、カデュウ達を淡々と見つめた。
……なんとも不思議な眼をした人だ。
「お前らと似たような技を使う奴がいたって、前に言ったろ。このカデュウがそうだ」
「え?」
「この女性が……? いや、挨拶をしていなかったな。アル・ジェド・バヤンという者だ。フド傭兵団の団長を務めている」
フド傭兵団といえば、暗殺教団と繋がりがあり裏仕事が得意な傭兵団、という噂を耳にする。
「はじめまして、カデュウ・ヴァレディと申します。しがない交易商人とか冒険者とか村長とか、色々やっております」
「ほう? ……君の師は、『殺せ』っていうのが口癖の人では?」
いきなりの質問に少し戸惑いながらもカデュウは素直に答えた。
「はい。よくご存じですね」
「こちらの大陸で我々の技を教えられる者などほとんどいないからな。合点がいった。ならば君は、私の妹弟子というわけか」
「いえ妹では、……って、おや? もしやアル・ジェドさんも先生の弟子なのですか」
意外な話の流れに、カデュウは驚いた。
確かに先生がフド傭兵団や暗殺教団ニザリーヤの関係者という噂はあったが、実際にその通りでしかも同門の兄弟子が傭兵団の団長とは。
「その通り、奇遇だな。いや、教団の逃亡者だったら困るところだったが、あの方の弟子ならば問題ない」
逃亡者は何されちゃうんですかねぇ……。
なんともぞっとする話だ。
「あ、そういえばゾンダ団長。話は食事の時にって言ってましたけど、もしかして……」
「おう、そうだったな。愛と涙と感動のストーリーを聞かせてやるか。ジェド、料理取って来いよ。カデュウが作ったんだぜ、うめェぞ?」
「もういただいている。うむ、美味だ」
「暴と涙の面白ストーリーだね、私達も聞いていい?」
手を挙げたユディの他に、クロス、ソトなども興味深そうに立っていた。
アイスやイスマは食事に夢中のようだ。わかりやすい子達である。
「おう。まず、ジェドのとこのフド傭兵団な。こいつら敵側だ」
「ええええ!?」
いきなり明かされる衝撃の事実にカデュウは思わず声をあげた。




