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第171話 傭兵団の陣中へ

 2日目の昼頃にはラサに到着したカデュウ達は、予定よりも到着が早かった為、食料を購入してそのまま出発する事にした。

 ラサの街はニキよりはやや小さいが、距離の近い港街同士という事もあって、さほど違いは見られない。


 今回も売却用の交易品を積んで来たのだが、黒檀などの希少木材がメインであった。

 磁器はまだ新しいものが生産されていないという根本的な理由もあるのだが、持ち込むのならば売却ルートが出来たヴァルバリアが良いだろうし、食材は村の食い扶持が増えたので念の為に置いてきた。

 余りそうならワインビネガーやレモンで漬けておくようにとエウロ婆さんやレティシノに伝えてある。

 希少木材は家具職人などが使う分は置いてきたが、建築用に使うにはもったいないので、金銭代わりと価格調査を兼ねて積んできたのだ。


 アルゴリアまでは途中から山道となり、おおよそ4日程度で到着する予定であった。

 順調に進み、山道に突入した2日目の夕方頃、グローディア王国の関所を通り、領土内へと入った。

 関所付近で休む人々も見かけたが、馬車の有利さに任せてさらに進んでいく。


 すると、ザンツとグローディアの国境の辺りであろうか、木々の間から見知った顔の男性がひょっこりと姿を現した。


「あん? あれ、御者してんの、シュバイニーさん? ってことはカデュウちゃん達の馬車?」

「おや、フルトだ」

「フルトさんじゃないですか。傭兵団のおつかいですか?」


 そこにいたのはクリーチャー傭兵団のフルト、気の良い兄さんのような風貌通りに親しみやすい性格をしており、開拓村でもよく話しかけてきてくれる人だ。


「おつかいですとも。なんと薪拾いさ、立派な仕事だろ」

「地味フルトに相応しい下っ端仕事だな」

「うるせぇソト。ま、せっかくだからちょっと寄ってけよ。そろそろ野営だろ? 団の場所もすぐ近くだぜ」


 気軽に傭兵団の野営地に誘うフルトだが、ここにいるという事は戦争中なのではないだろうか?


「ああ、それはいいですね。顔も見せに行かないと、とは思うのですが。戦争中では?」

「あー問題ない。来い来い、平和なもんだから」

「戦争中なのに平和とは……」


「いや、別に俺ら基準だから平和ってわけじゃないぞ。マジで暇してんだ」


 部外者が戦争中の陣地に入っていいのだろうか、と思いつつフルトに案内されついていく。

 しかし、そこらで野営するよりははるかに安全なのは間違いないので、好意はありがたい。

 戦争中となると脱走兵とかモラルの低い軍隊とかに襲われる可能性もあるのだから。


「ほいよっと、近かったろ。あそこの陣地がクリーチャー傭兵団に任された場所さ」


 フルトが指を差す先に、イメージ通りの軍隊的な陣地が立っていた。

 テントが複数建てられており、団員の人数に比べると陣が大きいようにも感じる。

 中に入っても人数はやはり多くない、見かけるのはいつもの傭兵団のメンバーだけだ。


「ん? おかしいな?」


 ソト師匠が何かに首をかしげている。


「ここには傭兵団の人達しかいないんですか?」

「ああ。元々は俺らのとこじゃないからな。……ここだ。団長~、客ですよ~」


 よくわからない事を言うフルトの案内によって、団長のテントまでやってきた。

 敵から奪った、とかそういう事なのだろうか。


「おう、誰だか知らんが入れ入れ。その感じはカデュウ達だろう」


 誰だか知らんというわりには姿を見る前からぴたりと当ててくる。

 どこで判断しているのかわからないが実に超人的であった。


「すげっすね。何でわかったんすか?」

「なんとな~くだな。お~やっぱりか。よく来てくれたなぁ~歓迎するぜぇ」


 あぐらをかいて座っていた、クリーチャー傭兵団の団長ゾンダが親しげに腕をかかげる。

 その圧倒される体格は、強靭というよりは狂暴な肉体というべきものであった。


「やふー、父さん」

「どうも、ゾンダ団長。たまたま近くを歩いていたらフルトさんに会いまして」


 ぐいっと前に出て腕に絡んだユディと揃って挨拶する。

 豪快な笑みをみせ、ゾンダが手の平で自身の膝を叩いた。


「フルトの癖に役立ってるじゃねえか。そういや薪は拾ってきたか?」

「ばっちりっすよ。丁度、カデュウちゃん達も来たんで、パーフェクトっすね」

「え? 何がですか?」


「そりゃあもちろん、食事をよろしくな! ってことだ。お前のが一番美味いからなァ」

「そういう……。まあいいですけど」


 出会って即調理を頼まれる辺り、魔村長を料理人と間違えているのではなかろうか。

 とはいえ、作る事には何も異論はない。


「団長、ここって正規軍の奴らの陣地じゃないのか? 奪ったのか?」

「おいおい、失礼な事を言うんじゃないよ、キミぃ。聞くも涙語るも涙の感動のストーリーがあったんだぜぇ、これがよォ」

「ぜってー感動だけはないが、聞いてやろう。何があったんだ?」


 呆れた表情をしながら、ソト師匠が感動のストーリーとやらを促す。

 多分、敵か味方か知らないけど他の人達が涙してるストーリーだと思う。


「それがだなぁ……。いや、食事の時にするか」

「ガクッ。そこでもったいぶるのかーい!」

「そういうわけじゃねえが、説明するのにその方がわかりやすいんだわ」


 大げさにがっくりした姿を見せるノリの良いソトに、ゾンダは手を横に振りつつにやりと笑った。

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