第170話 旅の再開
開拓村にたまっていた仕事のうち重要性の高いものを片づけて、買ってきた道具や食材などを受け渡し、カデュウらは再び出発の準備を整えた。
もう少しゆっくりしたい所ではあるが、雇った冒険者達を連れてきているので長居も出来ないし、次なる目的地で鍛冶職人を探さなくてはならないのだ。
もう民間人の護衛という依頼は済んでいるので冒険者を転移陣で送れるのは簡単だが、仮面の人イオニアスの情報を当てにするならば残りの日にちを考えて、早めに目的地ラケティの街へと向かう事にした。
冒険者達にそれぞれ報酬として金貨15枚ずつを渡し、冒険者ギルドへの手数料の支払いをリヒトバウアーに頼んで金貨10枚渡す。
今回はギルドを間に通さなかったので本来ならば手数料は発生しないのだが、それではギルドに依頼をこなしたという認知がされず冒険者の実績にも繋がらない。
わざわざ手数料を支払うのは、他の者はともかくセフィルは小さな実績が必要な段階であるし、カデュウ達も『冒険者に依頼を出した冒険者が同じ依頼を果たした』、という形になりギルド的には実績扱いとしてくれるからだ。
これは自分の資金を使って冒険者ギルドの仲間に仕事を回すわけなので、ギルド内ではとても喜ばれ奨励される行為であった。
こういう小さなものが実績として数えられるのは中級冒険者までなのだが、そこまで昇格するとようやく一人前と認められ、稼げる依頼も受けやすくなる。
ギルド側も依頼をこなせそうな者達を選んで紹介しているので、新人冒険者だらけだったり、実力不足だと判断されるパーティにはギルド側が難しい依頼を回さないからだ。
しかし、早めに向かうと言ってもすでに夕暮れ時であり、今の時間から出発して街の近くで野宿を行うのは賢明とは言えない。
冒険者達も宿代のかかる街よりも開拓村で一泊する方を望んでいたので、結局翌日早朝の出発となった。
盟約会所属の建材を運んできた馬車1台と共に、2回に分けて転移陣で移動しニキの街へと向かう街道で冒険者達と別れの挨拶を行う。
「カデュウさん、また学院で会いましょうね。本当に、ありがとうございました」
「ええ。少し後になると思いますけれど、学院で会いましょう」
はじめての冒険をこなしたセフィルはとても喜んで、カデュウに満足気な笑顔を向けた。
「いやあ、素晴らしき体験でした。伝説の舞台や自然による至高の芸術を拝見できるとは……。冒険者冥利に尽きるというものです。叙事詩に出来ないのが残念ですよ」
とヌルディが興奮気味に語っているところで、ニキの街に向かう道とは反対になる街道から旅装束の男性が声をかけてきた。
「そこにいらっしゃるのはリヒトバウアー氏ではありませんか?」
「む。確かに儂だ。どうした、ゲーツェよ」
よく見れば、以前ゼップガルドにて出会ったギルド職員だ。
確か冒険者ギルド巡回職員のゲーツェと名乗っていたが……。
「丁度良かった。ギルドから特命の依頼です。お引き受け頂けますか」
「まったく、忙しい事だ。――ではな、儂は先に行くぞ。ゲーツェ、詳しい話はニキで聞こうか」
肩をすくめた後、忙しそうにリヒトバウアーがゲーツェを連れ、去っていった。
「おやおや。お掃除ですか、“剣聖”も大変ですね。では、私達も行くとしましょう。セフィルさんは私が無事お届けします。ご安心ください」
「僕なんかの為に申し訳ありません。でも、よろしくお願いします!」
「私は他に向かうとしよう。好かれなくとも良いが、ゴブリンだからと入れないのでは仕事にならん」
それぞれが挨拶をして別れていく。
盟約会所属の馬車もニキの方面へと向かうようだ。
建材を積んでまたやってくるらしい。
皆に手を振って、カデュウ達も南西の国グローディアのラケティの街を目指し出発した。
ラサの街を経由して南に向かい、アルゴリアの街を通った後にラケティの街はある。
直通の山道を通る旅程で行く上にはじめての場所なのでどれぐらいかかるかはわからないが、全旅程で片道2週間と見積もっておいた。
ラサの街までは馬車もある上に平坦な海沿いの街道があるので2日目には到着するだろう。
「そういえば、傭兵団の人達はこっち側に出かけたんだよね」
「うん、そーだよ。絶賛戦争中と噂のグローディア王国かザンツ王国のどっちかについてるんじゃないかな」
事前に聞かされていた方針を語りながら、ユディがリンゴをかじる。
「どちらもゴール・ドーンの属国なんでしょ? なのに戦争してるって変な話だね」
「停戦する時の相談先にはなってるらしいが、ゴール・ドーンは基本的に手下どもに干渉しないんだとさ。戦争の理由も昔グローディアのお家騒動でザンツに領土持ってかれて独立されたのが発端だしな。内輪もめの範疇って事なんだろ」
「なるほど。上の立場からすれば、自分の言う事聞くなら構わないって事ですか」
ソト師匠の話を聞き、国同士の関係も色々面倒臭いなあとカデュウは思うのであった。