第168話 はたらけ魔王さま
お腹を空かせた孤児、アルデとゼミカの為に料理を作る事になった。
もちろんパスタだ。
開拓地のきのこ類を生かして、トリュフときのこのパスタを作り、さっそく食べさせた。
ついで魔王の分も用意して、城内の同じ部屋で食事会である。
「美味しいです! カデュウさんは美味しい人です!」
「こんなものはじめて食べるね。美味しい人だよ」
美味しい人ってなんか食べられそうに聞こえる不穏当な発言だが、アルデとゼミカがパスタを食べて喜んでいる姿は微笑ましいものであった。
警戒心は強いが、かわいい子供達である。
「うむ、カデュウめが作る料理は美味かろう。何しろ余が封印された後、996年の間でもっとも満足した料理であるからな」
「封印された後って、単に僕らが来るまでまともな食べ物がなかっただけでは……」
今回は事情を知らない冒険者に説明するのも面倒なので魔王は少しの間隠れてもらう事にしたので、この部屋にいるのは孤児2人と魔王のみであった。
魔王城ぐらいまでなら遺跡の発見程度の話で済むのだが、封印されているとはいえ魔王がいまだ生きて動いているとなると、冒険者的にどういう事になるのかはわからない。
全ての情報をわざわざ見せつけに行く必要はないので、リスクは避ける事にしておいた。
「まおーのおじさん。カデュウさんは偉い人なの? コックなの?」
「まおーさま、って呼んだ方がいいよアルデ。このおじさんが一番偉い人っぽいよ」
なんか呼び方にあまり敬意がこめられてはいない気がするが一応、魔王呼びに落ち着いたらしい。
それでも嫌われず会話になっているのだから、魔族の子として何か感じた所もあったのだろう。
「カデュウは魔村長であるな。村を束ねる偉い奴だ」
「まそんちょ……? 魔村長って何だろ、ゼミカ」
「村長っぽいからしょぼそうね、アルデ」
それはまったく同感である。
「ふむ……。まぁわかりやすく言えば、魔王の副官とか魔王代行とかそんな感じの凄い奴だ。余の次に偉いのは間違いないぞ」
「全然偉くはないですけどね、っていうか魔村長が副官とか代行って役職的におかしいです……」
素直に魔王の副官と呼ばれてもそれはそれで、大物っぽいので困るのだけども。
結局、実態はただの村長だし。
「おー。なんだか偉そうな響きになったよ、ゼミカ」
「No.2ね、アルデ。さすが美味しい人です」
子供だからなのか、2人の妙な関心の仕方にくすりと笑みがこぼれた。
「それじゃ、僕はまた出かけてきます。アルデとゼミカをお願いしますね、魔王さん」
「孤児院長とかいう奴がおるであろう?」
「基本的にはそうですけど、それ以外のところで面倒を見てあげてください。人間が嫌いだと言っているので、魔王さんの方が接しやすいかなと」
「そうか。まあよかろう、どうせ暇であるからな」
魔王に孤児を託すというのもどうなのかとは思うが、離れている間、まだ馴染んでいない孤児2人のフォローが出来そうな人材が他に思いつかない。
ハーフとはいえ魔族の取り扱いは魔王以上に詳しい者などいないだろうし。
「あと、新しい人達も増えました。もし、何か揉め事が起きたりしたら魔王さんの部屋に呼び出してください。それで多分収まります。魔王裁判です」
「酷い奴だなお前……。強制的に黙らせるのか」
人が増えてくればそろそろルールを決めていかなければならない時期だ。
しかし法律のようなものを作っていくのも大変だし、そもそも作れる人材もいない。
法でガチガチに縛ってグレーゾーンを探られるよりも、善意と良識で行動してもらいたいし。
かといって怒られる相手からすれば、カデュウらでは年若く納得出来ないだろうし外出も多い。
普段から居残る住人の中では元将軍アレクぐらいしか風格ある人物はいないが、村の守備隊長を務めている上に、本人も裁判となると慣れない仕事であろう。
「つまらない争いよりも明るく楽しく、ですよ。魔王さんぐらいになれば嘘を見抜く事も出来るのでしょう?」
「余が力を使えるあの部屋であれば、それぐらいはたやすい事だが。余が任せた事なのに、余も使う気か?」
「ええ。全て任せると言われたので。あくまで最終的なセーフティですよ、可能な限り揉め事が起きないように注意は払います」
ならば大昔とはいえ皇帝をやっていた魔王がもっとも適任だとカデュウは考えた。
魔王裁判がどんな裁きになるのか誰もわからないが、何しろ相手は魔王だ。
やらかしたら死ぬぐらいは覚悟してもらえるのではないだろうか。
それでも、なるべく揉め事が起きないような人材を集めてはいるので、『魔王裁判』が行われる事も少ないと思いたい。
「ふむ。確かに全て任せるとは言ったな。ろくに動けぬ余を街の仕組みに組み込むとは思わなかったが。……よかろう、ただし判決はなるべく当世の常識をくみ取るようにはするが、最終的には余の気分次第になるぞ。どうせ細かい法などないのだからな」
「よろしくお願いします。2人の世話と共に」
「こき使いおって。それで、何か他に成果はあったか?」
そう言われ、カデュウは少し考え込んでから、重要な事を思い出した。
「ああ、そういえば必要だと言われていた共鳴の水晶が手に入りました」
「ほう。それでは遠聴の間に組み込んで来い。ソトの奴がおれば私がいかなくとも問題なかろう」
この場での用事は澄んだので、カデュウは言われた通り、ソトのいるところへと向かうのであった。