第167話 リデムアモルの魔装
漁師達は海賊3人衆と共に好きにやってもらう事にした。
造船職人が漁船を作るまでは海岸で釣りをするしかないのだから、出来る事は部屋、貯蔵庫、海岸辺りの案内だけである。
海の事は本職に任せておこう。
孤児達はまず村に溶け込む事が課題となりそうだ。
羽根とか生えてる上に、人間嫌いとか言ってたし。
「カデュウさん、拉致ですか。どこへ連れていくのですか。お腹空きました」
「ゼミカ、きっと倒錯した幼女レズレズが待ってる。でもお腹空いた」
「そんなの待ってません! 幼女はそんな言葉覚えちゃだめです! ご飯はこの後で作ってあげるね」
羽の生えてる方がゼミカ、牙が生えて金色の瞳をしているのがアルデだ。
かなり嫌われているかのような言動だが、これでも馬車で一緒だったおかげか少しは話が出来る方なのだ。
かなり人見知りが激しく、ヌルディだと聖騎士だからか明るい勝ち組オーラでも出ているのか一切口を利かなかったり、アイスは撫でまわそうとするから怖がっていたり、イスマとはそもそも会話がなかったり、実に難しい子達であった。
……うちの子達がそもそも問題ありな気がするけど。
「人間は嫌いだけど、ここは新しくて楽しいね。人間は嫌いだけど」
「そうだね、アルデ。孤児院から出るのは久々だよ」
明るい表情の2人に、カデュウも嬉しくなる。
そうして連れて行ったのが、せっせと掃除をしている魔王の所であった。
「カデュウか、よくぞ戻った。手土産はそやつらか?」
魔王が視線で2人を指しながら箒を動かす。
ちなみにこの箒、無駄に古代帝国時代のマジックアイテムらしい。
この箒で封印されてからの暇つぶしに、あちこちを掃除していたという本当にどうでもいい話を以前聞かされたのだ。
魔王の部屋に様々な道具が置いてあるのも掃除の成果だとか。
「手土産じゃないですよ魔王さん。新たな村の仲間です」
「魔王……、魔王?」
「あ、はーい。魔王さんでいらっしゃいますね、はじめまして。……アルデ、頭が可哀そうな人だよ、刺激しないであげて」
超失礼な子達である。
しかし魔王は寛大であった。
「よい。今の余では、そこらの人間程度にしか思えんだろうからな、無理もない。魔族と人間の子らか。女装趣味に飽き足らず幼女趣味にまで退廃したかと思ったが、なるほど余に面倒を任せる気か」
「女装は趣味じゃなくて魔王さんが渡した服のせいです! 幼女趣味でもありません!」
超失礼な魔王である。
カデュウは寛大ではないのでぷんすか怒った。
「女装……、女装?」
「どうみても女の人だね、アルデ。これで女装なら趣味じゃなくてプロですね、凄い」
純粋に不思議そうな目で見られている……。何がそんなに疑問なの……。
子供の純真な視線が痛い。
「褒められてるのか貶されてるのかどっちなのかな……。特殊な事情のある服のせいであって僕はノーマルな男の子だから安心してね」
「ゼミカ、レズレズどころじゃなかったよ。もっと倒錯しまくったやばい何かだったよ」
「しっ。まずは食事を食べてからだよ、アルデ。残飯にされるかもしれないから」
本当に超絶失礼な子達である。
しかしマズい食事など絶対に許さないのでそこは安心してほしい。
そんな会話をしていたところ、魔王が何かを感じたのか、カデュウを見つめる。
「ん? カデュウよ、武装を取り戻したのか」
「……武装ですか? 何の事……、ああ、コレですか? リデム・アンゲル・ネグラールが作ったっていう剣ですね。……取り戻したとは?」
「うむ。……もしや忘れていたか? お前の着ているその服はネグラールの作だと言っただろう。リデム・アンゲル・ネグラールが作り出したもの、と」
そういえば最初に渡された時に、そんな事を聞いたような気もする。
喜んだような気もする。まさかの女物という衝撃によって忘れていたけど。
「……ええ!? この剣と服が同じ付与魔術師の作品ですか? ……全然別物っぽいんですが。ああでも、何故か呪いのように外せないのは一緒か」
「古代帝国でも最初期の物なので余も詳しくはないが、それを着れる者は極めて少ないと聞く。歴代の皇帝家でも着れたものはほぼいないとか。……どうでもいい話なのですっかり忘れておった」
「あれ? 冒険者の遺品か何かではなかったのですか?」
「遺品ではあるが、冒険者かというと微妙な所よな。それを着て魔王城での決戦に参加した者は、余の叔父上とアルスール族始祖の家系ウィンブルミル家の女性、つまり皇帝家とエルフ族の子であった。ハイ・アークの奴めと相打ちになったらしいが」
ハイ・アークというのが誰かは知らないが、話の流れからして魔王の部下なのだろう。
肝心なのは歴代皇帝の所有物だった物が、魔王降臨の際に持ち出されて、それを着た者が魔王城で倒れ服が戻ってきた、というところだ。
「……つまりハーフエルフなのが条件なんでしょうか?」
「わからん。元々は皇帝家の為に作られたものなのだから違うとは思う。だが、実は一部の皇帝がハーフエルフだった、などという真実が隠されていないとは限らんからな」
冗談めかした手振りで魔王が肩をすくめる。
確かに、自分よりもずっと古い時代の人物の実態を知るのは難しい事だ。
書物などで残されているのも、目立つような事をした有名な人物だけであろう。
「この剣が使用者を選ぶのもそういう事なんですか……」
「その服と武装を合わせて、リデムアモルの魔装、とかそんな感じの名称だったと記憶している。正式な名もあった気がしたが忘れた。そのうち暇つぶしの読書をしていれば記述している箇所も見つかるかもしれんが、……細かい事はどうでもよかろう」
珍しく本当に細かいどうでもいい事であった。
「そういえばこの服、マジックアイテムなのにデザイン変えられたんですけど」
「ああ、それは変えている部分は付与魔術とは関係がないからだ。服というのは人によって体格が異なるであろう? ある程度は変更出来るようにしておくのが普通であり、付与魔術においても同じだ。さすがに根本的なサイズの変更までは難しかろうが」
「つまり……、男装にしてもらえれば完璧な姿に?」
希望の芽が出てきたのであろうか。
魔装の性能に不満などないので、どうせならまともな格好を!
「だがよほど付与魔術に精通した名人でなければいじる事も出来まいて。今の世にそのような名人が残っているとは驚きであるぞ」
「……あの伝説の仕立職人という変態ジジイだけなのですか」
……絶望的であった。希望の芽なんてなかったよ。
あの老人、お前にはこれが似合うの一点張りで人の話に聞く耳もたなかったんだけど……。
いや、希望を捨ててはいけない。他のまともな名人がいると信じるんだ……!
「カデュウさん。お腹が空きました。変態話はその辺りにしてくれないと」
「お腹が空きました。自称魔王のおじさんとは後で遊びましょう」
本物魔王なのに酷い言われようであった。