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第165話 エネディの街

 ヴァルバリアを出立して4日後、エネディの街へと到着した。

 形式上は国境沿いの街ではあるが、隣国カスタール王国は帝国であるゴール・ドーンに従う小さな属国であり、同じ領土内という扱いになるらしい。

 カスタールの街は歓楽街で有名な場所という事もあって民間人の往来も多いはずだが、帝都ヴァルバリアの街道が危険になったからだろう、大きい街にしては人が少なく感じる。


「では、我々は民間人の皆さんを宿へと案内してきましょう」


 引率と護衛を買って出てくれたのはヌルディであった。

 英雄との呼び声も高い冒険者ならば安心して預けられるというものである。

 人数も多いので泊まる宿は複数に渡るのだが、この街に来るのがはじめてなカデュウ達では管理が難しいのだ。

 他にリヒトバウアーもヌルディと共に民間人の護衛を行う。


「よろしくお願いします。では、タック先輩、宿はお任せしますね」


 カデュウ達や他の冒険者達は、タックがおすすめの宿へと案内した。

 しばらくイルミディムで活動しているタックは、この街も何度か来た事があるらしい。


 案内された宿は裏道ながら意外に新しい外観であった。

 周囲の建物と雰囲気が合わず、場所も治安の悪いところにあるので穴場となっているらしい。


「問題なく部屋とれたじぇ。客が僕達しかいないとか、この宿そのうち潰れそうだにゃー」

「あはは。まだ新しくて綺麗なんですから、これから頑張ればいけそうですが」


 割り振られた部屋に入り、荷物を置いて一息つく。

 部屋割りがいつもの仲間達と、今回雇った冒険者達で分かれている。

 カデュウは男の子としてタック達の冒険者側で寝るべきだと主張してみたが、性別詐称扱いで却下された。酷い。

 まぁ男の子だとはっきり知っているのはタックだけなので、説明も面倒だし。

 部屋を増やすと余計なお金がかかるので仕方がないのだ。

 ソト師匠は到着するなりベッドでごろごろしている。


「ちなみに激安な分、料理はイマイチだじぇ」

「許せません。潰れるべきですね」

「あまりにも客が来ないとねー。食材廃棄する事になるし予算も厳しくなり仕入れもしょぼくなるのは仕方ないのさ」


「悪循環ですね……。じゃあ食事は断っておきましょう」

「安心しなさい。そこは旅の達人タック様、『その人数の料理は用意出来ません』とか言われてあるから!」


 旅の達人は関係なく、宿の方に食事を断られてる……。


「後で料理店に行きましょう。でも、その前にちょっと用事を済ませてきますね」

「孤児院組と会うんだっけ。いいよ、僕が街を案内するじぇ」

「ありがとうございます、タック先輩」

「組の奴らとはどこでナシつけるのかにゃ?」

「なんですかその裏社会っぽい言動」


 まぁ裏社会の人達に会いに行くので間違いではないのだが。


「私もついていきますよ! 護衛、大事! です!」

「ああ、うん。アイスも一緒に来るの?」

「です!」


 きりっとした表情で断言するアイス。


「ここしばらく近くにいなかったから一緒にいたいって言ってるわ」

「です!」

「位置が最前列と最後尾だったからね……」


 今度は笑顔で連れてってとアピールしてくる。

 護衛は居た方がいいし、こんなに嬉しそうな笑顔を見せられては仕方がない。


「僕もかわいい女の子が懐かないものかのう……」

「同じ種族ならソト師匠とか?」

「あんな奴といたら常時ケンカしてストレスで死ぬじぇ……」


 常時うるさくされてはこちらもストレスが大変である。


 ゴロツキ達がじろじろと眺めてくる中を通り抜け、表通りの待ち合わせ場所へと向かう。

 指定された場所は富裕層の住まう住宅街のとある邸宅。

 タックも縁のない場所ではあったがベテランの勘なのか、すぐに探し当てる事が出来た。


 門番に通され中庭を通って邸宅内で待機していると、執事姿の壮年男性が現れて客間へと案内される。


「ようこそ。孤児養育院組合の理事長であり、あなた方の村にて孤児院長を務める事になった、ライヌムント・マイゼンゲルガーと申します。孤児院の為に土地を提供していただき感謝致します」


 柔らかい印象ながら傷痕が目立つ、初老の紳士がカデュウ達を出迎えた。


「はじめまして、開拓村アルケーの代表者カデュウ・ヴァレディと申します。……理事長というと、孤児院の一番偉い人が村に来るんですか?」

「新しく難度の高い地こそ経験者が率先して向かい環境を整えねばなりません。孤児達の為に我々は活動しているのですから。椅子で踏ん反りかえるだけのトップなど誰も求めておりません」


「なんだか立派な人ですよ」

「人格者だじぇ……」


 ……誉め言葉だけど、本人の目の前でぼそぼそ噂をするのはやめてください君達。

 しかし確かに、裏社会の人間とは思えない穏やかな表情だ。顔の傷跡を除けば。


「こちらこそ、馬車や食料の手配をしていただけて感謝致します」

「いえ、とんでもない。それよりも連れていく孤児達の紹介をさせていただけますかな」

「はい、もちろん」


「入りなさい。ご挨拶を」


「アルデマーナ・テリオヌス。悪魔の忌み子って愛称で親しまれたハーフデボスティアです。あと人間が嫌いです」

「はじめまして、ゼミカゲルダ・トルメケニアと申します。普通のハーフデボスティアで人間が嫌いです」


 なんだか牙が生えていたり、羽根が生えていたりする幼い少女2人が現れた。

 アルデマーナと名乗った少女の方は目も金色だ。

 しかも人間嫌いとか言い出した。


 ――ハーフデボスティア。つまり魔族(デボスティア)と人間のハーフということだ。

 ……訳アリの孤児ってそういう事か!

 問題児とかじゃなくて、生物的に訳アリとは想定外であった。

 いや十分、問題児発言してたけども。


「なんだかやべー子達だじぇ」

「問題児ですよ、問題児」


 問題児に問題児とかこの子達も言われたくないと思う。


「カデュウ・ヴァレディです。アルデマーナ、ゼミカゲルダ、これからよろしくね」


 にこりと笑顔で手を差し伸べたカデュウだが、手を取られる事も拒絶される事もなかった。

 なんか、くんくん臭いを嗅がれている。どういう事なの……。


「いじめない人だよ、ゼミカ。仲良くできるかな」

「そのようだね、アルデ。耳がとがってるし名のある魔族の家柄かも」


 ……耳がとがってるだけで魔族扱いされたらエルフ全員が魔族になってしまう。

 変な子達だが、これから村で暮らす住人となるのだ。なんとか打ち解けたいところである。


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