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第162話 おいしいところを持っていく

 倒したと見るや、カデュウは即座に死体を解体し、素材を取り分けた。

 とどめの確認という意味もあるが、ヴァンパイアは素材としても貴重で有用だからだ。

 もう新たな敵は現れていない、どうやら長い戦いは終わったらしい。


「いやー、びっくりしましたね。大量のゴブリンが出るは、巨人が出るは、ヴァンパイアロードが出るは、不運過ぎるでしょ、ほんと。……あ、ソト師匠、無事でしたか?」


「おー、なんとかなー。ってお前、ヴァンパイアロードを何で斬れたんだ? おニューの剣か?」


「ええ、そうです、おニューです。殺れそうだなーと感じたので、袖から刃をさくっとやってみました」


 カデュウは袖から刃を出し、手に持たないで固定する。


「いや、そんなアサシン的な使い方の話じゃなくてだな。その剣、ヴァンパイアが斬れるのか、という話なんだが。ふーむ。まぁマジックアイテムだから、色々斬れても不思議はないか」


「アサシンじゃないですし? 袖から突然刃を出せたら意表をつけるかなーって戦士らしく考えただけですし」


「1ミリも戦士らしくないわ。完全完璧にパーフェクトアサシンだわ」

「君達、ユディちゃんの心配もするべき」

「そうだねユディ。ありがとう、お疲れ様。無事で良かった」


 擦り傷や汚れの多いユディを、カデュウは優しく抱きしめた。


「ん。頑張った」

「なんか私と扱い違……」


 満足気なユディとは対照的に、ソトの表情は不満顔へと変わっていく。


「ソトさん、カデュウさん! よかった、ご無事でしたか」


「おお、セフィルか。民間人の避難と守り、よくやってくれたな」

「は、はい!」


 この場を離れていたセフィルが戻ってきた。

 ソト師匠が指示をして、民間人を守らせたらしい。

 はじめての冒険で、民間人をちゃんと統率して守る事も大変だったと思う。


「ありがとう、セフィル。大切なお仕事ご苦労様です、とても助かりました。地味かもしれないけど、誰かが守ってくれる姿を見せる事は皆の安心に繋がる事です」

「僕も、戦って役に立ちたい気持ちもありましたが……。自分がやるべき事をしようって。半人前は足を引っ張ってはいけないし、……人を守るのも冒険者の仕事だと」


 セフィルの控えめな性格なのが幸いしたのだろう。

 誰かの役に立つという事が先に立ち、初心者にしては優先すべき事を心得ている。


「ええ、その通りです。その心構えを忘れないで下さいね。私も新人で偉そうな事言えないですけど」

「そういうのは私のような凄い冒険者が言う事だぞ。カデュウの癖に生意気なー」


 ありがたそうな事を師匠面して言いたかったのか、ソト師匠がいじめっ子みたいな言い草でぽすぽす叩いてくる。

 セフィルの事をそれなりに気に入ってくれたようで何よりだ。

 そこへ、少し職人達の方へ顔を出していたヌルディが戻ってきた。


「皆さん、本当によく戦ってくれました。美しい輝きです、今日の事を私が叙事詩として広めましょう」

「なんだかそれも恥ずかしいですね」


 自分が物語化されるなど恥ずかしい気がするが、最後にぷすっとしただけだから目立つのは他の人だろう。

 なんなら全部ユディがやった事にしても構わないというか、その方が盛り上がりそうだ。


「私の華々しく華麗で賢すぎる戦いっぷりをしっかり頼むぞ!」

「残念ながらソトさんの戦いぶりは見ておりませんね」

「一人で頑張ったのに~、怖くてぶるぶるだったけど超頑張ったのに~」


 孤軍奮闘したらしきソト師匠はがっくりとうなだれた。

 そしてこちらに涙目で抱き着いてくる。

 誰も見ていなかったけど、本当に頑張ったのだろう。頭を撫でておいた。

 落ち着いたら指先を丸めて金の要求ならぬ石の要求もしだしたが。


「おや、そろそろ夜が明けますか。この辺りは危険です、早々に離れると致しましょう」

「休みたいですけど……、また襲われるかもしれないし、仕方ないですよね」

「もう寝転がりたいんだが……。私、超頑張ったよ? マジで」


「ほれほれ、さっさと働けー。傭兵団にはよくある事だよ、ソト」

「はぁーい……。だりぃーなー……」


 その後、ゴブリンの死体は無視して巨人やヴァンパイアの一部素材を回収し、馬車に詰め込んだ。

 これらは報酬の一部として冒険者で分け合う事になっている。

 巨人のものは大きすぎてほとんど持ち帰れなかったが。


 全員を起こして職人達になるべく早くこの場を離れると説明すると、怖い思いをしたからだろう、皆が同意した。

 朝食までに少し歩いて血と肉であふれかえる大地を通り過ぎる。

 危険から離れるという意味でもあったが、あのような場所ではとても食べる気にならない。

 通りすがりに出会った交易商人が死体の山に驚いていたが無理もない。

 少し間違えれば自分達がその大群の犠牲になっていたのだから、ぞっとしたと思う。


 後方で別の冒険者らしき姿がうっすらと見えたが、こちらは遠くてよくわからない。


「……何かに、見られてる? ……わからない」


 気配を感じた気がしたが、戦いの後で敏感になっているのかもしれない。


 経験上、この先もまだ危険は十分にありえる。

 冒険者達は休憩時に交代で寝て、夜の守りに備えるのであった。


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