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第160話 ソトは煽り翻弄する

 ゴーレムがゆっくりと歩き出す。

 少しずつ、まるで転ばぬようにしながら、慎重に。

 その壊れたかのような歩みに、ヴァンパイアは侮蔑の眼差しを向けた。


「のろのろとまぁ……、造りが荒いのではないか、小娘。素材もその辺りでかき集めた急ごしらえか、こんなもので私の相手をする気とは、舐めておるのか?」


 ゆっくりと向かうゴーレムを、堂々と待つヴァンパイア。

 距離の半分を詰めたところで、もう待てぬとばかりに、跳躍し――。

 素手の一撃だけで、ゴーレムの上半分を消し飛ばした。


「もろいなぁ~。もろすぎるだろぉ? んん? 大した力量もないのに私の前に立ち塞がるとは愚かよなあ。一度だけチャンスをやろう、ひざまずいて命乞いをしろ。されば犬として使ってやるぞ」


 余裕たっぷりにヴァンパイアが勝ち誇った笑みを見せる。

 すると、ソトは即座にその場にひれ伏し、命乞いを始めた。


「ははー。ごめんなさいごめんなさい。命ばかりはお助けをー! わたくしめは犬でございます!」

「……ぷ。ぷははははは! プライドがないのか貴様! はははは! いいぞ、気分次第で生かしてやっても構わん」


 地面にひれ伏したソトを、侮蔑を込めた眼差しでヴァンパイアが見つめる。


「はい、靴でも足でもお舐めいたします! ですので、どうか……! どうか……!」

「卑屈なのは良い事、身の程を知っている証拠だ」


 ヴァンパイアは満足気に口元を歪めた。

 少しずつ、ヴァンパイアがソトに向かって歩き出す。


「ほれ、オモテを上げろ。でかい口叩いてそのザマか」

「はい、オモテを上げさせていただきましょうか。でかい口叩いてこのザマでございますとも」


 ソトの言葉と共に、大地がめくれ上がり、ヴァンパイアを包み込む形で残ったゴーレムの残骸が集められ修復されていく。


「これは……?」

「オモテを上げろっつったのはお前だぞ。名前も名乗らぬ根暗のババア様」

「まだ……ゴーレムが動いている、だと? いや、……再生?」


「古い時代に無様に負けた無能にゃわからんだろうが、あいにくと今の時代には天才魔術師の私がいるんだよ。一度壊した程度で終わるような旧世代の欠陥品と一緒にすんな?」


 魔力のないソトが工夫を重ね考えた、自己修復型のゴーレム。

 その術式は、壊れるたびに魔霊石が失われるのを嫌ったソトが、何度も繰り返し蘇るように、その場にある素材で修復出来るようにしているのであった。

 通常、ゴーレムは統一された素材のみで構成され、その素材によって名がつけられるが、ソトが創り出した術式ではその根本を覆し、発想の転換を行っている。


 術式の構築及び、素材の混合による難易度向上は才能で、魔力の不足は発想で。

 無いのならば創り出す。

 古き時代の術を学ぶ事ばかり考える魔術師達の中にあって、ソトのそれはまさに異端の天才であった。


「プライドぉ? そんな役に立たないもの、あるわけないだろ? そいつは無能のより所なんだよ。誇りある奴は他者の為に、賢い奴は損得と効率で動くのさ」

「貴様……! 小人如きが舐めてくれたなッ……!」


 ゴーレムの内部に取り込まれつつあるヴァンパイアが、その手に魔力を集める。

 自身の魔力は用いずに、外部の魔力を集め、それを放った。

 術式が破壊され、機能が停止したゴーレムは、ぼろぼろと崩れ落ちていく。


「げぇ……? ゴーレムの魔力が吸収され、崩されたのか!?」


「あいにく私はヴァンパイアロード。名を聞かせるまでもないと思ったがいいだろう。私の名はエルモーサ。イルミリアの時代より生き続ける由緒正しき支配者なるぞ。魔力を吸い取るなど、造作もなきこと」


 高位の魔族であるヴァンパイアロードは他者を操る力に加え、魔力を奪う力も備わっている。

 もっとも直接の吸血でもない限り、多くの量を一度に奪えるわけではないのだが、ソトの術式の場合、魔力不足を繊細なる精密さで補っている分、それが致命的となるのであった。

 また、ソトの知らぬ事ではあるが、エルモーサは特に魔力操作に長けたヴァンパイアロードというのも不幸であった。


「おお、なんて偉大なるお方! ゴーレムが破壊されては何もできません。あたくしめは犬でございます! どうかお助けを!」

「……変わり身早すぎだろ、お前。まだ命乞いをしろとも言ってないのだが」

「お許しを! お許しをー! ……なんてな」


 術式が破壊されたゴーレムが動くはずがない。

 にもかかわらず、再度の修復が行われているのは、その術式自体が修復されるように組まれているからであった。

 さすがに完全とまではいかないのだが、何度も復活するだけでも十分な効果だ。

 防衛特化として構築した、あらゆる方面に考えうる限りの対策を詰め込んだ、この状況において万全にして最善の選択として選んだもの。

 リジェネレイト・ゴーレムとソトは呼んでいる。


「やはり、罠か。貴様!」


「頭悪いね~、罠だと思ってたら有無を言わさず殺さなきゃ? 慢心だらけだから手玉に取られちゃうんだぞ?」


 相手を馬鹿にした表情とポーズで、ソトが煽っていく。

 その手には新たな魔霊石が、光輝いていた。


「《人の生み出した盾よ、幾年月を重ね、汝はただあるがままに》」


「――【標準なき規格の人形(ゴーレム・マゲン)】!」


 新たな、そして同じようで少し異なる術式が重ねられる。

 修復したとはいえ完全には戻っていないゴーレム術式を、新たな術式をもってさらなる補強を施した。


「術式の重ね掛け、だと? ほつれた術式に重ね修復しようというのか?」

「そーねー。しゅーふく。そんな感じなんじゃない? 私は賢いから手の内はばらさないけどな」


「……舐めおってぇ! こんなことで私が倒せるとでも思っておるのか!」


 ゴーレムから魔力を吸収し、それをゴーレムの内部で放出する。

 一撃、二撃。

 先程は簡単に破壊できた術式であったが、重ねられた事によって、片方が壊れてもすぐにもう片方が修復するという強固な構造へと変わっていた。


「はあ? 何言ってらっしゃるの? ほんとおバカさんだねーチミは」

「な、に?」

「倒す気だったら、とっくに攻撃してるだろ。私がやってるのは、まあ、あれだ。おちょくってるだけだ」


 その行為の意味がエルモーサにはわからなかった。

 根底に自分が上位の存在という前提があるのだが、人にとって自分達は恐れられ必死に全力で立ち向かって来なければならない相手のはずであった。

 それが攻撃をしないだの、おちょくっているだけだの、かけらも予想していない言葉だ。

 何の為にそんな事をしているのか理解が出来ず、動きを止めてしまった。


「さーて、うちのゴーレムくんを相手にどこまで粘れるかなー? いやあ、粘ってるのはこっちか」

「……なんだこの泥は、……む、む?」


 エルモーサは徐々に身動きがとりづらくなっていることに気付く。


「いーい感じに混ざってきただろ? そいつは素材を選ばないで、その場にあるものから補充して再構成出来るゴーレムくんなの。ついでに面白い機能を足してみた。私も最近聞いたんだけどさぁ、石灰石を焼いたものに水とか砂とかその辺のヤツ、ぐーるぐる混ぜると素敵な建材に変わるらしいんだわ。……なんて言ったかな。そーそー、コンクレトゥス。ほんとは固まるまでに長い養生期間が必要らしいけどねー、そのゴーレムくんはさっきの術式補強によってそこら辺なんとかしてくれちゃうんだ。まー、私ってば天才だから?」


「こんなもの……! 一度に全部魔力を吸収してやれば……!」


「そーねー。そうすりゃそいつは動かなくなるさ。完全防衛特化で修復できちゃう凄いやつなんだが、相性が悪過ぎた。いやー、降参降参。アンタは凄いよ、そいつ1体で十分間に合うつもりだったからさー」


 エルモーサが全力で魔力を吸い取り、ゴーレムの術式は2つ同時に消滅する。

 しかし、すでに内部にエルモーサを取り込んだゴーレムのボディは固まっていた。


「手足が……固まって動け……」

「そーねー。ゴーレムくん術式をやっつけてもボディはそのまま残るからねえ。古代ミルディアスの建築技術と頑張って勝負して頂戴な」


 強靭な肉体のヴァンパイアだが、人と同じく初動の自由が無ければ十全にその筋力は発揮できない。

 いずれ、負荷に耐えかねて固まったゴーレムの抜け殻が壊されるのであろうが――。


「ま、いいんじゃない? 私の役目は民間人を守って、時間を稼ぐ事。それが最善だからねー。戦いは数だよ、ババア? やっつけようと思ったら他のゴーレム出してるって。気付かなかったの? ぷぷぷー」


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