第16話 冒険者の旅といえば野営です
レッツィンガル修道院を出てから1日目の夜。
やや斜面の地であったが、その中で平らな位置を探して野営を設置していた。
思えばこのパーティでの野営も、大分野営らしくなったものだ。
街で物資を買った事で以前よりは快適に過ごす事が出来ている。
ゼップガルドでは保存食として燻製したソーセージやベーコンを仕入れている。
こちらへの転移先であったアインガング村からの道のりでは、貧しい村からの提供品という事もあって、パンと野菜にナッツ類であった。
保存食と一口に言っても仕入れ場所によって変わるのだ。
それにしてもパスタが食べたい。しばらく食べていない。
「それじゃあ、ハーブティーでも淹れましょうか。カールス村で頂きましたしね」
「お茶いいですねー、お願いしますよカデュウ」
「おう。俺にも頼む」
飲み物の話にアイスとシュバイニーが飛びつく。
ソトも何も言わないが、こっちをみたり頷いたり。暗に要求している表情であった。
イスマも大抵何も言わないが渡すと飲むので、結局全員分という事だ。
火にかけた鉄鍋からラベンダーやセージなどハーブの良い香りが漂ってきた。
重い荷物を文句も言わず持ち歩いてくれるシュバイニーに感謝である。
全員に分ける時に、鍋だとやりづらいのが難点だ。
ケトルも今度探してみよう、とカデュウは考える。
「ぷはー。野外で飲むお茶はうまいなー!」
ソトはご満悦の顔で、ビールを飲んでいるかのようにカップを掲げていた。
「5000枚かー、夢が広がるなあ! 何個、魔霊石が買えるかなー!」
「だめですよ、ソト師匠。街を作るための予算なんですからね。……船欲しいなぁ」
「えー、いいだろー。ちょっとぐらい大丈夫だって」
楽しいお金の使い道を話ながら歩いている。
アイスは特に興味はないのか、ソトとカデュウの会話を笑って見守っていた。
まあ、手間賃として多少は皆で分配してもいいだろう。
どの道、冒険に必要な品も買わないといけない。
ソトの為の魔霊石も、ある程度なら必要経費として買うのも手だ。
「予算の足掛かりは出来たとして……。後は人材だなあ。どうやって見つけるか」
「来そうな人、適当に誘ってみたらどうです?」
あんな何もなさすぎるところに誰が好んでくるのか、という最大の問題を除けば、アイスの意見は間違ってはいない。
誘わなければまず相手の選択肢が生まれないのだから。
「うん、それはその通りだね。難しく考えすぎないで、とりあえず誘ってみるかぁ」
土地代がかからず国家のしがらみもない場所で開拓できる、という点は長所になるはずだ。
開拓精神溢れる一般人がどれだけいるかはさておき。
「まずはやっぱり食料だよね。それから建築。……あとは、魔王城だったぐらいだし周囲に魔物もいると思う。ドラゴンみたいの居たし。念の為に防衛力は必要だね」
「……その辺は基本だけど、水も確保すべき」
「あー、そっか。……あの辺りに飲料水になる場所があればいいけど、あったとしても水を引いた方が便利だね」
食料と共に、水が必要となるのは言うまでもない。
だがこの水が中々厄介なのだ。
カデュウの意見を補完したイスマの意見は的確であった。
森があるのだからなんらかの水源はあるとは思うが、場所が遠ければ汲みに行くのが大変だし、飲料に向いていない可能性もある。
問題がある水しかなければ何か別の対処が必要だ。
一見綺麗な水であっても体を壊すような場合もあると先生が言っていた。
「一度調査してみるべきです」
「そうだなあ。実際に見てみないと、どういう特性があるかわからんだろう」
まずは現地の調査を、というアイスもシュバイニーの意見ももっともであった。
最初の時は夜でわからなかったが、今度は冒険に行くような心構えで、食料などを確保しあの城の周辺を探索しようとカデュウは考えた。
「魔霊石があれば何でもできるぞ! うひひ!」
……まだ夢の国から戻っていないお人がいらっしゃったが、気にしない事にした。
ゼップガルドまでまだ2日程、しかし気が合う仲間達となら苦ではない時間だ。
こうした会話の時間を楽しめるかどうかが仲間として大事なポイントなんだだろうな、とカデュウは感じていた。
その日の深夜。
何かの異変を感じ取ったのか、あるいは偶然なのか。
カデュウは目を覚ました。
仲間達はまだ寝ている、睡眠の必要がないシュバイニー以外は。
「起きたか、カデュウ。……少し離れた位置で、戦いが起きてるぜ」
「起さなかったという事は、危険は無さそうなんですね」
「恐らくな。俺が離れて確認に行くわけにもいかねえから、見てもねえけどよ」
「わかりました、僕が念の為に確認に行ってきます」
「おう、見つからんようにな」
闇に潜み、気配を絶つ。
カデュウは、異変が起きている方へと動き出した。