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第158話 剣聖たる老翁

 左方となる最前線の馬車の付近。

 こちらでもゴブリンもどき達をアイスとシュバイニーが防いでいたが、ここへきてまさかの敵、巨人が姿を現した。


「おいおい、あんなもんまで出てくるのかよ」

「いくら斬っても怒られなそうですけど、防ぐのはちょっと難しそうです」


「おい。ありゃあ、アンタの出番じゃねえのか? 伝説の毒竜さんよ」

「んん……」


 馬車の御者台でイスマと共に毛布にくるまって転がっているルゼが、横になったままやや遠方に立つ、巨大な人影を見つめ……。

 すぐに目を瞑った。


「むにゃ……、我が出るまでもあるまぃ……ふぁ~ぁ……。人間にしてはなかなかの奴がいたはずだ。我は力を温存し、我が主の力はシュババ……ババ……なんだっけ。とにかくお前の方に費やした方がよかろう……。ねむねむ」


 眠そうな声で、ルゼは毛布に潜り込んだ。


「ババの時点であってねえ、シュバイニーだ! 大体、お前寝たいだけだろ!」

「呼びにくい奴めー。我のように呼びやすい名にするがよい」

「オメーも舌噛みそうな名前だったろうが! ……ま、確かに現実的にゃ、俺が戦えなくなるわけにもいかんしな」


 怒鳴り声と共に、ゴブリンもどきを斬りつける。

 この場はアイスとシュバイニーだけで広い範囲をカバーしなければならず、戦力が半減すれば戦線を支えるのが難しくなるのだ。

 イスマから供給される力は、現状ではまともに活動させられるのは1体が良い所。

 特にルゼの場合は必要な力がより膨大なものとなるし、あまり無理は出来ないのも事実であった。


「……なまえ、ババアにする?」

「誰がババアだ、原形すらねえ! まったく、イスマのセンスときたら……」




 大きな足音と共に、巨人が近づいてくる。

 ゴブリンもどきを踏みつぶしながら。徐々に。徐々に。


「叙事詩によれば、神話時代の人類の敵。|巨人族《ギガンテス》、でしたか」

「神話と対面するとは恐れ入る。とはいえ私では倒せんぞ、手はあるか?」


 話しながらもゴブリンもどき達をディノ・ゴブが屠っていく。


「リヒトバウアー殿、申し訳ありませんが私達はこの通り手一杯。お手伝い頂けませんか」


 無駄のない静かな動きで敵を処理しながら、ヌルディが支援を要請する。


「儂の剣はあんなデカブツ用ではないんだがなぁ……。お前の方が専門家じゃあないんかい」

「いやはや、何の事やら」


 苦笑しつつ、ヌルディは魔力が籠められた剣を顔の前に垂直に立て、祈りの力を行使した。


「――【不変たる普遍(ユニバーサリス)】」


 ヌルディが聖なる力を解き放ち、巨人への道を押し開いた。

 邪悪なる魔物は打ち払われ、その場にとどまる聖なる結界によって身動きも許されない。

 そして、準備は整ったとばかりにヌルディが口元を吊り上げ、リヒトバウアーに大仰な礼を見せる。


「年寄りをこき使いおって。……まあよかろ、これも経験よの。巨人っつうのはまだ、斬った事ぁないからの」


 リヒトバウアーはゆっくりと大剣を下段にて構えた。

 静かに、しかし、凝縮された気がリヒトバウアーから練られていく。

 巨人もまた、徐々に、しかし大きな歩幅で歩み寄り、上段から拳を叩きつけ――。

 

 ――老人には似合わぬ大きさの剣が、ぶれた。


 その瞬間、いつの間の事であろう。

 剣閃の軌跡すら消し飛ばし、見る事すら能わぬリヒトバウアーのその太刀筋は、すでに鞘へと収まっていた。


「お見事」


 前進して殴りつけたはずの巨人の身体が、叩きつけるはずの拳ごと後方へと崩れ落ちる。

 その身体を、次々に、バラバラに、地に落としながら。


 リヒトバウアー流剣術、リンドブルムハウ。

 かつて竜と戦った時に、リヒトバウアーがその場で編み出し竜を斬り伏せたという対巨大生物用の秘技。


「せっかくのお出まし、チマチマといたぶっては申し訳なかろう。とはいえチンタラとデカい分、人間を斬るより簡単だがね。竜より柔らかいし、修練にならんわ」

「さすがは“剣聖”リヒトバウアー殿。これだけの技をいともたやすく扱いながら、いまだ強くなられるおつもりとは」

「儂など、まだまだ未熟者の伸び盛りよ」


 100を超える年月を経た老人が、未熟者。

 そのような事を聞かされ、ヌルディは苦笑せざるを得なかった。


「これはこれは、御冗談を。未熟どころか、とうに腐っておられるお年でしょうに」

「まったく、本当に老人を労わらない男よな。腐ってるような爺に面倒な事をさせるでないわ」


 慇懃無礼なヌルディに、リヒトバウアーは溜息を吐き肩をすくめた。


 バラバラになった巨人の肉片にゴブリンもどき達が潰されていく。

 必死に逃げ回り、残った者達はディノ・ゴブが率先して潰しまわる。


 ゴブリンもどきの数も減り、後は掃討戦へ――。

 しかし、その目論見はすぐに変更を余儀なくされた。


「ん? この気配……。まずいのう……。出ないはずの海側、真後ろに出たぞ」


 ――新たなる、そして強い邪気。

 この襲撃の大元たるモノ。――そうであっても不思議はないと推測させる程の。


「我らは位置的に間に合うかどうか……。リヒトバウアー殿、ここは任せました。私が行きましょう」

「ああ。早う行ってやれ。儂らで何とかしておく」

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