表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/270

第157話 ヴァルバリア街道の戦い

 ゴブリンもどきの数は多く、いかに熟練の冒険者達でも民間人の護衛をする都合上、受けに回らざるを得ない状況となっている。

 有り余る無数のゴブリンもどき達は左右にもなだれ込み、カデュウ達が守る場所もまた、戦場と化していた。


「この前とまた違う魔物ね。ゴブリン、のようだけど」


 暗闇であまり姿が見えない中、クロスが長剣を静かに、しかし優雅に振るう。

 静かでありながら局所で美しく見栄えのするその剣の動きは、見る者の予測を誤らせ、剛柔いかようにも変化出来る不可思議な技だ。


 水の如き柔軟さを基礎とするランチノイド流剣術の中でも、クロスは長剣を用いた型を得意とする。

 その型は正統派に見せた動きの中に隙を突く為の数々の罠が仕込まれている、機能美と様式美を兼ね備えたもの。

 ろくな知性も技もみせないゴブリンもどきには過ぎた技巧だが、倒せるのだからまったく問題はない。

 軽々と一度に複数のゴブリンもどきを斬り飛ばし、くるりと再び所定の位置に戻る。


「ハーピーとかの来るときに遭遇した魔物はいないみたいだね。……やっぱり北の森で何かあったんじゃないかな。色々な種類の魔物が突然姿を見せるようになったのはおかしいよ」


 るつぼ鋼の剣の切れ味を頼りに、カデュウも近寄ってくるゴブリンもどき達を斬り捨てていた。

 左手には愛用のショートソードを握り、そちらでも補助的に攻防使い分けている。

 新たなマジックアイテムの小剣を主軸にしないのは、まだ感触が掴めていないのと、暗闇の中なので【仄かなる蝋燭(カンデラ)】を使い、ショートソードを光源にしているからだ。


 チャンスとみればショートソードを投擲し、左手の剣を呼び出し切りつける。

 ショートソードを回収したら再びしまい、実戦の中で扱い方やタイミングを試したりもしていた。

 あまり無理をせず、仲間のサポートに徹して堅実に動く。


「ほい、よっと。僕の時はリザードマンだったね。あいつら硬くてさ、ナイフが刺さらなくてトンズラしてきたけど、こいつらは柔らかくていいねー」


 軽口を叩きつつ、タックがカデュウ達の後方でナイフを構え待機していた。

 投擲を得意とするタックだが、暗闇の中で誤射を避ける為、味方付近には投げられないのだ。

 代わりに誤射にならない位置の敵を慎重に処理していた。


「やほー、おまたせ」


 後方から現れたユディが、そのまま敵の群れに突撃する。

 夜目の利くユディは暗所での戦いを得意としており、遊撃として自由に動くには適した人材であった。

 宙を舞い、斬りつけ、投げつけ、叩きつけ、ゴブリンもどきを足場にして宙から宙へ。

 様々な武器を切り替え、時には縄のついた投げ斧を、時には短剣を付けた鎖を用いて軌道を変えていく。

 その変幻自在の立体攻撃に、ゴブリンもどき達は成すすべなくただ狩られるだけであった。


「アイス達のとこや爺さん達のとこに手伝いはいらないよね。このままハンティング、かな」


 ユディが地に降り立つと同時に、2匹を切り裂く。

 そのユディに向かったゴブリンもどきをカデュウが横から刺し殺した。

 カデュウの背後はクロスが守り、味方のいないところにはタックの投げナイフが降り注ぐ。


「ナイス連携。みんな暗いのに良い動き」

「敵は弱いとはいえ数が多い。職人さんが寝てる方に漏らさないようにね」

「ええ、もちろん。暗くてわかりにくいけど、タックさんやユディがしっかりやってくれるはずでしょ?」

「うわ、さりげなくプレッシャーをかけていくスタイルですかー! ってまぁ、しっかりやっちゃいますけどね! 敵を見つけるのは得意だじぇ!」


 横へ放ったタックのナイフが通り抜けようとしていたゴブリンに刺さった。

 生き残った者達にはユディの鎖が投げられ鞭のように打ち据えられる。

 そのまま先端の刃が突き刺さり、それを軸にして別の敵にユディが宙から手斧の一撃を加えた。


「ソト達の方には漏れてないよ。正面程の数ではないから」


「問題は、これで終わるのかどうかだね。他の魔物が参戦してくる事も……」


 ――カデュウがそう言いかけた時。

 地響きが鳴った。

 戦いの中でも聞こえる、大きな音。

 大きな生き物の足音。


 これは、寝ている職人達も起きてしまうかもしれない。

 そんな、妙な気遣いをしてしまう程に呆れる事態だ。


 思いもよらぬ文字通りの大物。

 巨大なる人。巨人。


「ええ……。これは、……ちょっと想定外だよ」

「私達だけじゃ、職人達に死者が出ていたでしょうね……」

「でっか! こんなのどこに隠れてたの!?」


 驚きで呆気にとられたタックが攻撃の手を止めていたが、ゴブリンもどき達もまた動きを止めていた。

 あの巨人と仲間ではない?

 だが……、どちらであろうともこのゴブリンもどきは倒さなければならない敵だ。


「巨人が出たのは北側だけど、ここを離れるわけにはいかない。仲間を信じて僕達は出来る事を!」

「はっはっはー。僕が行っても出来る事は何もないじぇ! ゴブっち狩りだーヒャッハー!」


 まあ、投げナイフではねえ……。

 実に正確な自己分析であった。


「あんなのが出てきた以上、どこから別の敵が現れるかもわからない状況だしね」

「うーん、こっちが落ち着いたら、ソト達のとこに戻ろうかな。海からでっかい魚が出るかもしれないし」


 確かにクロスやユディの言う通り、海側だから敵が来ないと決まっているわけではない。

 でっかい魚は出てきてもその場から動けなそうではあるが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ