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第155話 開拓団の旅、冒険者達の語らい

 職人達を連れて転移陣の場所、ニキの郊外へと向かう旅が始まった。

 出発はじめの頃なので、皆が新鮮な気持ちで楽しそうに会話をしている。

 疲労と共に辛さが先に出てくるはずだし、旅慣れない民間人なので休憩は多めにとる予定であった。

 馬車は1台しかないので、体力のない女子供や老人に乗ってもらう事にした。

 雨に備えてテントを用意したり、食料その他の様々な物資を馬車に積んだらほとんど乗るスペースがなくなっており、窮屈であろうが我慢してもらうしかない。

 旅慣れたカデュウ達は当然、徒歩である。


「ねえカデュウ、その剣って銘はないの?」


 隣を歩くクロスが腕を絡めて何も持っていないカデュウの腕を指さした。

 腕、というよりこの妙な服に謎収納された妙な剣の事だろう。


「ツゼルグさんも知らないみたいだったね。剣を見ても製作者がわかる程度しか書いてないようだし」


 クロスと話しながら、手に不思議な剣を呼び寄せる。

 すぐに流体のようなものが背丈の小さいカデュウに相応しい小剣を形作り、手のひらに収まった。

 そこへ好奇心旺盛なホビックのタックが横から顔を覗かせる。


「ほわー、凄いねそれ。誰が作ったものなんだい?」

「リデム・アンゲル・ネグラール、だそうですよ、タック先輩」


 カデュウの答えを聞き、タックは考えるそぶりで頭に指を当てた。


「リデム……。古代ミルディアス帝国最初期の……。んー、僕は鑑定出来るわけじゃないけどさ。それって、古代の皇族の物なんじゃないかな?」


「なるほど、タック殿は勘が良い。リデム・アンゲル・ネグラールと言えば皇帝家専属の付与魔術師(エンチャンター)一族。皇族に関わらない物の方が珍しいでしょうからな。しかし最初期といえば、まだまだ世が荒れていた時期でもあり、大陸統一の戦いや初代たる“始原帝”ユーザの死後、継承戦争が起きた時代です。統一される以前には皇帝ではないし、皇帝家に仕えてからも戦争となれば皇族以外への武具も作っていたはずです」


 興味があったのか、ヌルディもカデュウの手元の小剣を覗き込んだ。

 端正な横顔が近くにある事になるが、絵面はともかく別に女性ではないので何とも思わない。

 ……わずかに香料の匂いがする。あまり嗅いだ事のないものだ。


「あれれー、褒められてるのかと思ったら否定されちゃったよ?」

「はは。勘が良いというのは、これからの話ですよ。そうした時期にも関わらず、この剣は確かに皇族の物です。この付与魔術師(エンチャンター)の名の部分、その下に小さく紋章があるでしょう? これは皇帝家の紋章でして、皇族以外には許されないものでした」


 ヌルディはすぐに頭を離し、タックの方へ顔を向けた。


「ヌルディ、お前はよう知っとるのぅ。ここまで長生きしてきたが、儂にゃさっぱりじゃわい」

「リヒトバウアー殿が歴史に興味がないだけでしょう。私は吟遊詩人でもありますから」


「剣にゃあ興味あるぞ。どれ、儂にちょいと使わせてくれんか」

「それがその……、どうも他人に渡す事が出来ないようでして」

「なんと、呪いの武器か?」


 まあ、そういう感想になりますよね。

 一口に呪いといっても色々な種類の呪いがあるし、他人に渡せない程度ならお茶目な悪戯のようなものと言えなくもない。

 にもかかわらず外せなくなる呪いが、この手の物の代名詞となっているのは物語の影響なのだろう。

 どこが発端なのかはわからないが、様々な物語で呪いの武具の代名詞として登場している。


「呪い、というよりは使用者への安全策でしょうな」

「どういう事です?」


 ヌルディの話にクロスが相槌をうつ。


「戦いで武器を叩き落されたり、奪われたりするのは日常茶飯事です。それを防ぐ為に離れない武器を作ったのかもしれませんね」

「でも手から離せないと投げられないよ?」


 気軽に投擲を行うユディが疑問を挟むが、ヌルディは苦笑で返した。


「皇族様はぽいぽい武器を投げないからじゃないかな。傭兵のユディとは違ってね」

「なるほど、納得」


「いやいや、傭兵だってぽいぽい投げたりはせんよ。それはそうと、お嬢ちゃん。親父さんは元気かね、ゾンダの娘よ?」

「おや、父さんをご存じで?」


 首を傾げ、リヒトバウアーの顔を覗き込むユディ。


「お嬢ちゃんとも小さい時に会っとるよ。儂も元傭兵でな。奴が出てきた頃にはとうに引退しとって活動期はかぶっとらんがね。あんたはゾンダの奴と違って、割と落ち着きがあるのう」

「おお、大先輩でいらっしゃる。師匠がメルとノヴァ爺だからかな? 父さんも怒ってなければ割と落ち着いてるよ」


 すぐ怒り出すのは果たして落ち着いていると言えるのだろうか……。

 だがまあ、確かに妙な落ち着きのある人ではある。

 圧倒的な強さを背景にした余裕から来るものであろう。


「メルガルトとノヴァドか、あいつらもまだ生きとるようだの。結構結構。傭兵も冒険者も若い奴らはすーぐ死んじまうからのう」


 その話を聞き、セフィルがごくりと喉を鳴らす。


「や、やはり、死にやすいんですね……」

「魔術師の学生さんも、お嬢ちゃんたちも、命は大事にな。誰であっても、死んだらただの肉と骨じゃて。生き物っちゅうのは生きてるからこそ価値があるんじゃぞ」

「先生にも似たような事をよく言われました」


 先生の友人というだけあって剣聖も価値観が似ているのかもしれない。

 生きろという割に、毎回死にそうな修行に叩き込まれていた気がするけど。

 大怪我をして痛くて苦しんでいる弟子に、痛がっていても状況は変わらず死ぬだけだと冷静に教え込むのが先生だ。


「恥ずかしくても、卑怯であっても構わないぞ。つまらんプライドなんか捨てるんだ。そう、プライドなど銅貨1枚の価値もないのだ! 自己肯定にしがみつくのは無能なゴミクズだ! くだらないカッコをつけるより実を取れ! 這いつくばって靴を舐めてでも生き残れ!」

「えっ? えっ?」


 なにやら、ソト師匠が突如ありがたいお言葉を叫び出した。

 しかもまた後ろ歩きで調子に乗って語っているけど、癖なのだろうか。

 初めて見る知らない人に熱く語られ、セフィルは困惑している。


「いきなり演説みたいになりましたね、ソト師匠」

「ふふ……。こやつぐらい開き直ってた方が有利かもしれんの」


 持論を展開するソト師匠が高らかに腕をあげていた。


「そうすりゃ、楽しい事もあるってもんだ。自分は何の為に生きたいのか、だな」

「良い事言ってる風ですが、その食べ歩きがマイナスポイントですよ。もうちょっと初対面の相手との距離感も考えましょう。変な後ろ歩きもやめてください、また頭ぶつけますよ」


 口うるさく色々指摘するカデュウに、渋い顔をしてソトがカデュウの腕に絡んだ。


「う、う、うるちゃーい! 心が傷ついたー、謝罪の印に魔霊石を要求する! 師匠だぞー、偉いんだぞー!」


 そんなカデュウとソトのやり取りを見て、セフィルは心底楽しそうに笑っていた。


「あははは! 出来るだけ命を大事にしますね。楽しめなくなるのは怖いですからね。先輩方、アドバイスありがとうございます!」

「お互い新人同士、頑張りましょうね。セフィル」

「素直な良い子だ。カデュウみたいにひねくれちゃだめだぞー。師匠を大事に!」


 素直な良い子が、ソト師匠みたいのを指導者に迎えるという悲劇は避けなくては。

 ひねくれてしまう。


「あの、ところで。カーデさんって、カデュウっていうお名前だったんですか?」


 ……今更になってこんな事も聞かれたが。

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