第154話 集いし縁
「今回、護衛を引き受けてくれた冒険者の皆さんです」
50人を超える人数をカデュウ達だけで万全に護衛するのは難しい。
そこで冒険者ギルドで協力者を探してみたところ、偶然にも手伝ってくれる知人がそこにいた。
「ヌルディと申します。私達がお守りしますので、どうかご安心して旅をなさってください」
“吟遊聖騎士”の名で知られる、“二つ星冒険者”。
以前にゼップガルドの街で少し話をしただけの関係であったが、声をかけてみたら快く引き受けてくれたのだ。
「ど、どうも。セフィルと申します。はじめてのお仕事ですが、よ、よろしくお願いします!」
どこからか話を聞きつけて志願してきた魔導学院の生徒セフィル。
新人冒険者として今回初仕事らしい。
問題を起こす性格ではないし、人手が増えるのは歓迎であった。
「いやっほー! 僕はタック・ウェインさ。道中のおしゃべりでは右に出るものはいないじぇ!」
カデュウの最初の冒険パーティの先輩、タック。
イルミディム地方へと旅立ったのは知っていたが、幸運にもまた再会できた。
吟遊詩人でもあるので、民間人の旅の不安を和らげてくれるだろう。
「ディノ・ゴブという。任せろ」
フルフェイス式のサレットと鎧で全身を覆っている、巨躯の戦士。
ゴブリンなので人への配慮として顔や体を隠している紳士でもある。
冒険者ギルドではなく、先程入口で出会ったのだが、ゴブリンだから入れてもらえなかったらしく途方に暮れていたのだ。
そしてもう一人。
――あれは、冒険者ギルドへ行ったときの事だった。
予想外に職人達の数が増えすぎて、冒険者ギルドで護衛の依頼を出しに来たカデュウは、思った以上にギルドに冒険者が集まっている事に驚いた。
「凄い。なんでこんなにたくさんの冒険者が……」
「お偉いさんの要請であちこちから応援にかけつけとるからだよ、お嬢ちゃん」
カデュウのつぶやきを拾ったのは、近くのテーブルに座る老人。
その恰好からみてギルド職員ではなく冒険者のようだ。
一見するとくたびれた風にも見える老人、だがその眼光は若々しい。
まるで聖者のような長い白髪と手入れのされた白い髭、しかしその表情は不敵な笑みを携えている。
「あな――」
「儂か。儂はヨハンっちゅうしがない爺よ。……なんで言いたい事がわかったかって? わかりやすい表情をしとるからよ、年の功ってやつ」
発言を先読みされ、カデュウは驚きに口をパクパクさせてしまった。
「……凄いですね。……ヨハン? もしやヨハン・リヒトバウアー様でしょうか?」
「はて、お嬢ちゃんのような子に知り合いはおったかのう、確かにそのヨハンじゃが」
「お初にお目にかかります、名高き“剣聖”リヒトバウアー様とは知らず失礼致しました。私はカデュウ・ヴァレディと申します。先生からは、“剣聖”殿に会ったら自分の代わりによろしく言ってほしい、と」
“剣聖”ヨハン・リヒトバウアー。
マーニャ地方の騎士階級では主流となっている、リヒトバウアー流剣術の創始者にして、数名しかいないという“三つ星冒険者”である。
「先生? なんの事じゃい……。ん、“剣聖”殿とな? ああ、ああ~、なるほど。話には聞いておったよ。カデュウとクロセクリス、とかいう弟子が出来たとな」
「はい。出来の悪い不肖の弟子でお恥ずかしい限りです」
先生とは親しい仲らしく、少しだけだが修行の合間にその武勇伝を話してくれた事がある。
元傭兵団の団長で、老齢になって引退後に冒険者となり剣術を教えているらしい。
「それで、ギルドに来たのは依頼を受ける為でも報告でもなかろう? 冒険者を雇いたいといったところかの?」
「……! はい、お見通しでいらっしゃいましたか」
「勘だ。長年の経験で、見れば大体わかる。人手がいるって事ァ、護衛あたりか? お嬢ちゃん、……いや、もしや少年か? 骨格を見ても判別が難しいが……」
「……はい! その通りです! ちゃんとわかってくれるなんて、嬉しいです!」
正しい性別を見抜かれ、カデュウは一気にテンションを上げて喜ぶ。
「だが、何故そのような格好を? いや、人の趣味に口を出すはやめておこう」
「違います違います、趣味とかそういうんじゃありませんから本当にまったく」
慌ててしどろもどろに弁解してしまったが、まったく相手にされていなかった。
「そのような事はどうでもええわい。で、護衛は何人必要なんじゃ?」
大事な性別なのにどうでもいいとか言われてしまった。酷い。
「50人以上の民間人を1週間ぐらいの旅の間、護衛する、という感じです。僕達の方で戦力として数えられるのは通常時として5人……? ぐらいでしょうか」
クロス、アイス、ユディ、カデュウの4人。
シュバイニーやルゼはよくわからないのでイスマと合わせ1セットとして数えた。
気軽に使えないソト師匠はノーカウント。
「それならば、あと4~5人おれば十分か。……ギルドに呼ばれて来たはいいが、『北には行くな』などと指示が出ていて出番もないようだし、儂も手伝ってやろう。同じ理由で今は丁度冒険者も多い、知り合いがおれば声をかけるとええ」
「お手伝い頂けるのですか? ありがとうございます! さっそく知り合いを探して……。あ、タック先輩!」
――こうして集まったのがこのメンバーであった。
「よお、待たせたの。ヨハンっちゅうしがない爺よ。面倒事はヌルディの奴に任せて儂は酒でも飲むとするか」
「はは。お任せください、リヒトバウアー殿。他の者達も頼りがいのありそうです、交代制と参りましょう」
ただの護衛には過剰すぎる戦力だが、頼もしい事この上ない。
ありがとう、なんだか知らないけど冒険者を集めてくれたギルドの偉い人達!