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第151話 この食堂にパスタはない

「カーデさん。セフィルが呼び捨てなら、僕も親しく呼び捨てにしてくださいよ。この学院では身分差はないって方針ですしね」


 皇子様から身分をわきまえないとんでもない要求が来た。

 それに慣れると外でやってしまったときやばいのですけど。


「皇子を呼び捨てはハードル高いですね。……ああ、そんな悲しそうな顔をしないでください、わかりました。テオドゥス、……こんな感じでよろしいのでしょうか」

「はいッ!」


 兄ユルギヌスと髪色が異なるテオドゥスは心底嬉しそうに微笑みをこぼす。

 同じ皇子とは思えない性格の差だ。


「あらー、じゃあ私も呼び捨てにしてさしあげますわね。でもあなたは年上を敬ってくださいまし、マセたクサレ外道のテオドゥス」

「これはどうも。いつ寿命なんですか手伝ってあげましょうか、薄汚いドブネズミのマンディスお婆様」


 どうも、この地位の高いお二人はとても相性が悪いようだ。

 お互いを物凄く嫌っているようなそぶりをまったく隠していない。


「こらこら、そんな表情で汚い言葉を使わないの」

「はい、もちろんですわ!」

「ええ、楽しくお話しましょうね!」


 互いを見る時の心底嫌そうな目と、カデュウを見る時の凄く親しみを込めた目、そこにはあまりにも激しい差が存在した。


 会話が途切れたところで、セフィルが恐らくは本題である話を切り出した。


「あの……。カーデさんは、先程の戦いで、最後のあたりをどのように分析しましたか?」

「そうですね……、かなり高度な術式の応酬でしたが、コール氏の防ぎ方が興味深かったですね。セフィルもやはりそこに注目を?」

「ええ、あれはカーデさんがユルギヌス様との試合で見せた魔術に近いのではないですか?」

「その通りです。厳密には術は異なりますが、私と同じ幻術の類を使っていましたね」


 カデュウの使った単純な術ではなく、防御的な効果も複合していた。

 ホーティーの術の中に追尾型のものが含まれているようであったので、魔力的に本人だと認識させる事で囮として用いたのだろう。

 一見、派手で単純な魔術の攻防に見えるが裏では高度な技術戦を行っていたのだ。


「ああ、やはりですか。僕も兄様との一戦は見させて頂きましたが、似た印象を受けました」


 あの時、テオドゥスもその場にいたらしい。


「“コールドハート”……コール将軍は防諜任務に就いてマルク帝国と裏舞台にて戦い続けた方です。敵側の術を分析して自分の形で習得したと聞きましたわ」


 ペタルが詳しい解説を挟む。

 マルク帝国、つまりその闇に潜むという例の暗殺教団と裏で戦い続けた人という事か。


「ペタルさんはすでに幻術だと知っていたのですか」

「ええ、残念ながらカーデさんの美しい術を見る前からですね。鮮烈な衝撃というよりはかつて見た驚きという形になってしまいました」


 美しい術なんて使った覚えはないのだが。

 ただ自分の姿をうつし出すという、ごくシンプルで初歩的な術でしかない。


「おや……。それはもったいない事を。あの可憐な美しいお姿ではじめてを味わえなかったなんて」

「いえ、あの……。ただの普通の術だと思うのですが……」


「テオドゥス様、テオドゥス様。カーデさんがちょっと引いてますよ……」

「あ、失礼しました。自分の世界に浸ってしまうとはお恥ずかしい所を」


 恥ずかしいのはこっちだよ、と言いたい。

 友好的なのはわかるのだが、この皇子たまに言動がおかしい。


「……はらへったー」

「すぴーすぴー」


 ずっと寝てる鳥を抱えたイスマが声と視線でカデュウに訴える。


「では、私達は昼食に参りますね」

「……じゃ」


「僕達もご一緒に……」


 と言いかけた言葉を、いつの間にかそばに立っていた学院生の護衛が遮った。


「テオドゥス様。そろそろ公務のお時間です」

「……残念です」


 なにやら泣きそうな顔をしてて、可哀相になってしまうが公務をこなすのも皇子の務めなのだろう。

 せめて別れの言葉はかけてあげようと思ったカデュウは、皇子に優しく微笑んだ。


「またお会いしましょう、テオドゥス」

「……! ええ、必ず!」


 なんとか明るい顔になってくれたので気に病まずに美味しい食事が出来そうである。


「……食べ物の事しかかんがえてない顔してる」

「むにゃ……、ふわーあ。そろそろエサの時間かー」


 はらぺこな子達に言われたくはない。


「あ、あの。テオドゥス様が色々とご迷惑をおかけしました……」

「あなたは別に構わなくてよ。なんならカーデさんとご一緒されます?」


 何故かペタルは誘ってもいないのに当たり前のように一緒に来るらしい。


「セフィルもよかったら一緒にどうですか?」

「はい、よろこんで!」


 魔導学院には食堂が用意されており、魔力的な栄養を重視してメニューが作られている。

 素材の味を生かした上品さのある味付けで、文化的な事もあるのだろうか、香味野菜が良く使われている。

 料理人も魔術師らしく、所々で魔術を使って特殊調理をしたり時短したりしているらしい。


 学院の方針によって貴族であっても特別扱いはされず、庶民と同じメニューを同じ席で食べる事になるのだが、意外におおむね好評らしい。

 貴族も気軽に庶民体験出来るという機会であるし、身分に関わらず気兼ねなく友人が作れるのは学院にいる間だけなのだ。

 意識の高い者は自身の役に立つコネを作ろうとするし、気にしない者達は身分によらず仲の良い者同士で食べるだけである。

 よほどの差別主義者は外食に出かけるし、学院でその差別主義を発揮する事は学院のルールによって禁じられているのだ。


「そんな事より料理の味が最重要ですよね。あとは楽しく食べればいいと思うのですけど」

「ある意味、冒険者らしいですね、カーデさん。勉強になります!」

「……ただ食い意地はってるだけ」


 おかしだのじゅーすだの連呼しているイスマに言われたくはないのである。

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