第150話 ある意味似てる二人
特別授業の時間となり、生徒達が揃って逆さの塔の深い箇所へと下っていく。
普段は浅い階層にしか行かないのだが、今回はここでなければ危険だという事らしい。
何があるのだろうと少し期待しながら、広い空間の場所に入ると、中央部に学院長、そして二人の見知らぬ人物が立っている。
生徒全員が集められたらしく、普段見かけるよりも多くの生徒がいる事が確認できた。
「集まったか。ではこれより特別授業を行う」
学院長の宣言と共に、二人の男が前に出た。
どちらも魔術師というよりは軍人という格好の若い男性だ。
「よく来たな、後輩諸君。俺はホーティー・アレスター。よろしくな」
「ふっ、俺はコール・ノーウィッチ。“コールドハート”と言えば知らぬ者などこの国にはおらんだろう」
少し芝居がかった気さくなお兄さん風の人と、自信満々で尊大な人、という印象だ。
ところで恰好をつけたがる人というのは何故いつも『ふっ』って言うのだろうか。
「彼はこの学院の卒業生、君達の先輩であり、ゴール・ドーン魔道将軍でもある。今日は彼らが戦いあう光景を良く見るのだ。細部までしっかりとな」
授業の内容は、見取り稽古ということらしい。
ハイレベルな魔術戦が始まった。
ホーティーが複数の魔術陣を浮かばせ、そこから火炎を放てばコールがそれを氷の魔術で打ち消す。
両者ともに冷熱系統を得意としているのだろう、派手な応酬劇が繰り広げられ、生徒達も驚きつつ楽しんでいる。
やがてホーティーがコールの周囲全てを無数の魔術陣で覆い――決着がついたかに見えた。
「あれは……」
燃え続けるコールの姿にどよめきが生まれた時、ホーティーの周囲にお返しとばかりの氷柱が一つ、二つ、三つ、と放たれた。
燃えているはずのコールは気が付けばホーティーの横に立ち、ホーティーもまた氷柱を地面から勢いよく放った炎柱で消し去った。
「そこまで。二人とも、ご苦労だった」
キリのいいところで学院長が静止し、その高度な魔術の戦いが終了する。
生徒達は一斉に拍手を送り、二人の魔道将軍も腕上げてそれに答えた。
しかし、学院長が前に出た事で、一気に静まり返る。
「さて、諸君。この魔術戦について、君達がどのように分析したのかを文章にて提出してもらおう、無駄話はせず、ただちに記入するように」
学院長の声と共に、誰も触れる事なく隣の部屋への扉が開かれた。
「カーデさん、またお会いできるなんて嬉しいです!」
魔術戦の分析を書いて特別授業は解散となった。
深い階層より上がって、元の場所へと帰ろうというときに、テオドゥスが人懐こい顔を浮かべて、セフィルと共に歩み寄ってくる。
しかし、そこへ割り込むようにペタルが口を挟んだ。
「あら、テオドゥス様ではございませんか。あいにくカーデさんは私が先約でして」
「いや特に約束はしてないですけど」
「……してないね」
「すぴーすぴー」
イスマと寝っぱなしの鳥も約束はしていないと言っていた。
寝すぎな気がするが、静かな分には結構なので問題ない。
「……誰かと思えばマンディス嬢、貴女がカーデさんに何の用ですか」
「私の親友ですもの。一緒にいることになんの不思議がありましょう」
「いや親友って一緒にいると決まっているものではないような」
「僕達はカーデさんと楽しくお話をするのです、邪魔しないで欲しいですね」
「え、あの、いや、その」
皇子に振り回され、セフィルが物凄くうろたえている。
可哀相に……。
「私の親友、って言いましたけれども? マセちゃってるおこちゃま様は消えてくれません? 権力振りかざせばなんでも思い通りになると思っていらっしゃる?」
「僕は楽しくしたいだけですよ? いけませんねー、人生お一人様のご年配さんは。距離感を理解出来ないから、カーデさんがドン引きになるんですよ」
先程までの楽し気な表情から一転して、ペタルもテオドゥスも、物凄く殺伐とした空気で睨みあっている。
ペタルは皇子相手に遠慮なく暴言を吐いているし、テオドゥスも人懐こい表情から一変して挑発的な顔を見せていた。
正直、どちらも距離感おかしくてドン引きだよ。
なんで出会ってすぐに争いが生まれてるの……。
「じゃあ、セフィルさん。いきましょうか。お二人は御用事があるようなので」
「あ、はい。……さん、なんてつけないでセフィルって呼んでください!」
「ええ。そうしますね、セフィル」
「あ、待っておいていかないでくださいませ! 用事なんてありませんですわ!」
「僕も一緒に行きますよ! 時間の無駄は出来ませんから!」
お互いに険悪な表情で一瞬睨みあって、すぐにこちらへと走ってきる。
その流れをみて、イスマがぼそりと呟いた。
「……いいから、さっさとかえろうよ」
「すぴーすぴー」
寝ているだけなのに妙に和ませてくれる鳥であった。