第147話 フェイタル帝国のその後
「皆さんとお会いしたあの時期、マーニャ地方南部には大きな変化が起きたのはご存じでしょう。フェイタル帝国によって南部同盟が滅ぼされ、あのあたりの支配者が移り変わったわけですが……」
「あれから何か月だったかな! 数か月! 雑! 大体そのぐらいたちましたが、その間に大きな戦いが起こりました。フェイタル帝国が、ロメディア半島を制したキィラウア王国に攻め込んだのです」
ロメディア半島は大陸南西部に位置する地方で、少し前までは様々な国が争いあう群雄割拠の地であった。
その中で弱小と言われたキィラウア王国が最終的に地方の覇者となった事は風の噂で聞いている。
若き英雄将軍レヴィン、宰相エーボンハンド、再興王と呼ばれるエンフィラル王など、優秀な人材達の才能によって周囲の国々を屈服させたらしい。
詳しい話は聞いていないので、実際には差異があるかもしれないけれど。
「その戦いは大規模な兵数が動員されたにも関わらず、意外な程に早期に、そして何事もない形で痛み分けとなりました。確か1~2戦しただけって聞きましたね」
「フェイタル帝国が撤退した理由について様々な噂が流れていますが、はっきりした答えは出ていないようですね。ともかく停戦協定が結ばれ、フェイタル帝国軍が帰路についている間、そこでまさかの大事件が起きました」
「皇帝フェイタル・ブロウ・ブランダムが、死去したのです」
予想もしていなかった話を聞かされ、カデュウもクロスも驚愕の表情を見せる。
「それは……、まさかの事態ですね」
「え? 本当なの? 一度しか見た事はないけど、殺しても死ななそうだったのに……」
大陸最強の武人と目される内の一人、フェイタル・ブロウ・ブランダム。
魔王の再来と言われた仮面王アガムナインをその武で打倒した男、それが死んだというのは信じがたい話であった。
直接その目で見ているクロスにはさらに驚きであったろう。
「死因も様々な噂が飛び交っておりますが、こちらに関しては独自の情報網によって信憑性の高い話を掴んでおります。こういう衝撃的な事件では調べる人の数が段違いですからねー」
かなりの数の人間がその真実を探ったであろう事は想像に難くない。
一地方の覇者が突然謎の死を遂げた、となれば間違いなく歴史的な大事件だ。
多くの人間が情報を集めれば、それだけ情報の精度が高まる、という事でもある。
「皇帝フェイタルは殺されたようです。帝国八軍将の一人、ルクシェル・アドリアンソーンの手によって」
「しかし、ルクシェルはフェイタルの一人娘である皇女と婚約している若き忠臣です。わざわざ殺さなくても最も帝位に近い存在ですし、周囲からも皇帝フェイタルからも非常に高い評価を受けていたそうです」
「何故そのような凶行に至ったのか、そこはまったく不明です。――が、皇帝が殺されたという事になれば、その後が荒れるのは言うまでもありません。現在のところ皇女と婚約があり最も後継者に近いとされていたルクシェル側についた者達、幼い頃より皇帝に仕え続けた復讐に燃える天才軍師ヴァレンチーノを支援する者達、グランハーブスに備え静観する古参の八軍将達、という感じで3つに分かれているようです! 後継者争いですね!」
楽しそうにいきいきと語るトーラ。
当事者でなければ、先が気になる面白い話と言えなくもない。
「大体こんな感じが、ちょっと前までの情勢ですよ。北方ではグランハーブスとオクセンバルトが争っていたりしますが、他はおおむね変化なしです!」
「なるほどー……。数か月ぐらいで、意外と大きな変化があったんですね」
「この国のような大陸の端だと、中々他の地方の話は入ってこないですからねー。知らないのも無理はない事です。冒険者さんにはさほど影響のない話ですしね!」
こうして大きな出来事が起きると、歴史の流れを感じざるを得ない。
今まで当たり前であったものがその瞬間からなくなるのだから、不思議というか無常というか……。
フェイタル帝国に思い入れなどないのだが、クロスの故国は同じように歴史が動き、滅び去ったのだ。
ふいに、ずっと昔にルクセンシュタッツの城で過ごした日々を思い出す。
「世の中、色々と変わっていくものだね」
カデュウの思いが籠った言葉を察するように、クロスが静かに頷く。
「それが人の歴史、人が織りなす物語というものですね! ……というわけで今ならなんと使い手を選びすぎる剣が売れ残って邪魔なのでお買い得! あらお買い得!」
「全然関係ないですよねそれ。ただの在庫処分ですよね?」
「てへっ♪」