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第144話 ですわ

 次の授業の為にイスマと合流してから別の教室へと移動したところ、予定変更の知らせが入った。

 学院長が公用の為に外出する事になり、カデュウ達の授業がなくなったのだ。

 他の担当教師はタルシアなので、そちらで生体系統の講義を受けてきた。

 よく治療術と思われがちな系統なのだが、生物の様々な操作を行う汎用性の高い魔術である。


「生体とは自身も含む。操作とは強化も含む。すなわち身体強化。これが最も安定したこの系統の術」


 相変わらず淡々と要点だけを伝える癖のある授業だ。

 この授業には冒険者らしき姿の男性がちらほらと参加している。


「修練あるのみ。自身の事は自身で知れ。生体系統の基本、そして極意。治療も他者操作も身体強化も、全ては知る事。生命とは複雑、そして多彩。修練あるのみ」


 解説の後はタルシアが身体強化の実演をしてみせる。

 強化した腕をぶつけて、木の幹のような太い鉄の像を軽々と叩き折ったのだ。

 そして生徒達が各自、詠唱をせずに術の基礎を実践しながら授業が終わった。




「冒険者の方でも学院生はいましてよ。カーデさんもそうなのでしょう?」

「そういえばそうですね、ペタル様」


 お貴族様らしき気配がするので、とりあえず様を付けておく。

 面倒事の回避が最優先なのだから、階級差にも気を配っていくのだ。


「冒険者の方は、空いている日に出席されるのでそれほど見かけないのでしょうね」

「冒険しているなら、他所に出張する事になりますからね。パーティや生活費滞在費などの事も考えれば確かに出席はしにくいかもしれません」


「カーデさんは大丈夫ですの?」

「私はどちらかというと商人の方が近いのです。この街で職人探しもしておりましたし、滞在していた方がはかどるのです」


「あら、商人でいらしたの? ……職人? 何故?」

「簡単に言いますと、私は開拓をして村を作ったのですが、現在様々な職人が不足しておりまして。いえ、職人だけではないのですけれどね」

「開拓……凄いですわ。私と同じような年齢なのに、開拓者でいらっしゃるのね」


 良い感じに友好関係が築けている印象だ。

 打ち解ければ話しやすい人なのかもしれない。


「……ですわー」

「我が主、ですわなのですわ」


 イスマとルゼが妙な発言をしだした。


「何してるの……二人とも」


「……ですわごっこ?」

「特徴的な人間の観察であるぞ」


 ただ語尾で遊んでいるだけではなかろうか。


「そういえばご挨拶がまだでしたわね。イスマさんと……個性的な鳥さん」

「ですわなる人間よ、主が授けてくれたルゼという名で呼ぶのだぞ」


「私もですわではありません! ペタルです! 大体そんなにですわなんていってなくてよ」

「……意外ですわー」

「まだまだ観察が必要ですわ、我が主よ」


 ……まぁ、すぐに打ち解けているようでなによりだ。

 交友という意味ではこの二人は会話的にも物理的にもかなり心配な部類。

 こうして知り合いが増えるのは良い事である。

 あとルゼって名前考えたのはそこのイスマではないのだけど。


 そんな和やかな会話をしていたら、だんだんと靴音が近づいてきた。

 複数が同じ方向からこちらへと来ている。


「ここにいたか。探したぞ」


 うわ。赤毛皇子だ。

 まぁ、街中で会ったときにお話は学院で、と流したのでいずれやってくるとは思っていたが、意外に遅いご登場だ。

 他の足音は学院に通っている若い護衛だろうか。この間とは一部以外顔ぶれが違う。


「ふん、朝はギリギリに来るからすぐに授業であったし、その後は教室が違うから話しかける暇もなかったぞ」


 なるほど、タイミングが合わないからここまで顔を見せなかったのか。


「あら、ユルギヌス様もカーデさんに御用事なの?」

「ペタル・マンディスか。お前がカデュウ……カーデと一緒にいるとは意外だな、孤高主義者ではなかったのか?」


 何故言い直した皇子。

 変な気を使ってカーデにしなくてもいいんですよ、別に本名で大丈夫だから。

 別にどちらも性別に関わるような名ではないし、気を回す必要はないのだけれども。


「そんな主義になった覚えはございませんわ! ただ、お友達に相応しきお誘いがなかっただけです……でしてよ」


 今ですわっていいかけて修正した気がする。

 しかし孤高主義というか、誘われるのを待っててぼっちになっただけに聞こえるのだが。


「お二人とも、お知り合いなのですか?」

「知り合いも何も、マンディスの家は我が国の中枢にある公爵家よ。兄上の婚約相手の最上位候補でもある。話した事はさほどないが知っていて当然だ」

「お父様がパラトス様とくっつけようと頑張っておられるようですわね。いい迷惑ですわ」


「ですわが来ましたぞ、我が主」

「……ですわいただきましたー」


 ……あの子達、まだ観察していたの。

 皇族と公爵家の会話にそんなネタで割り込むとは、さすが空気など読む気もない子達である。


「……なんだ、こやつらは」


 ちんまりしてるイスマとその腕に抱えられる丸っこい鳥に、ユルギヌスがいぶかし気な目を向ける。


「……イスマだよ」

「ルゼと呼ぶがよいぞ、瞬殺されし人間よ」

「ちげーし!? 油断しただけだし!? 瞬殺とかされてねーし!?」


 ……痛い所を突かれたのかユルギヌス皇子が物凄く激高しておられる。

 ごめんね、勝たせるつもりだったんだ。ほんとごめんね。

 今度はちゃんと良い試合にして絶妙に負けるからね。


「あのー、それで何の用なのでしょう?」


 やっぱり俺の物になれとかその手のキモい話なのだろうか。

 そんな風に警戒しながらさっさと終わらせたくて先をうながしたところ、ユルギヌスの話は予想とは異なるまともなものであった。


「はぁ、はぁ。……おっと、そうだった。時間もないし手短に行くぞ。カーデ、俺に仕えよ」



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