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第142話 お姉様問題と治療術講義

 魔導学院2日目、ヴァルバリアに滞在して3日目。

 授業に向かう前にポエナのところで学院証を受け取っていた。


「はい、これね。魔術的情報が詰まった布。マントにするなりマフラーにするなり好きにしちゃってちょうだい。身に着けてさえいればそれでいいから。生徒は大体マントにしてるみたいだよ?」


 学院証というからもっと小さなものだと思っていたのだが、薄い布生地とは意外だった。

 そういえば確かに学生は皆、この布を身に着けていた。


「やった。ついに念願の、なんか上から羽織るものが手に入ったよ!」

「……ぐーるぐる、ぴたー」


 謎の擬音を発しながら、イスマがしっかりマントとして装着している。

 カデュウも気分良くマントを上から纏い、学院生らしい恰好となった。


「はい、それじゃ授業に行っといで。ああ、そうそう。私は錬金術の他に医学の担当でもあるから、具合が悪くなったり怪我したらおいでよ」

「わかりました、その時はよろしくお願いします」

「……おかし担当は誰」


 フリーダムな子の発言は無視して、そのまま教室に連れて行った。


「御機嫌よう、お姉様」

「御機嫌よう……、え?」


 教室に入った途端に女生徒に挨拶をされ、冒険者ギルドのような学院独自の定番挨拶なのかと同じように返そうとしたところ、妙な単語が混ざっていることに気づいた。


「お姉様がいらしたわ」

「御機嫌よう、お姉様。お変わりありませんか」

「お、俺。あの小さい子の方が好み、なんだな」


 何故、この子達は新参者をお姉様扱いしているのだろう。

 年齢的には似たようなものだと思うのだけれど。

 あと毎度イスマ派が一定数混ざるのだが、いつも同じような言葉なのは気のせいだろうか。


「やー、カーデお姉様。御機嫌よー、略してごっきー。いやはや、大人気だね」

「御機嫌よ、……ごっきー? アレイナさん、これは一体?」


 謎の略し方をするアレイナが気さくにカデュウに近づいた。

 初日に隣の席で教えてくれた親切な生徒


「カーデさんが華々しくデビューした結果だよ。ユルギヌス皇子をぶっ飛ばしたでしょ? あの赤毛はあれでも長い事不敗だったけど、そんな強者を一方的に倒したカーデちゃんが注目されるのは当然だよね」

「あれはたまたまですし……。一方的、というとちょっと異論がありますけど。お姉様というのは……?」


 実際、純粋な魔術戦ではカデュウでは勝ち目がなかっただろう。

 なにしろ魔術による攻撃手段がないので勝負にならない。

 しかし割と皇子様に敬意がないな、この子。あの赤毛はキモいから仕方ないけど。


「ああ。ここって大陸最高峰の学院で、お貴族様が一杯入学しているわけですよ。つまり、良いとこのお嬢様も一杯ってわけ。だから皇子を一蹴したカーデちゃんが凛々しいお姫様に見えるんじゃない? 恰好もお姫様っぽいし」


 ……またこの服か!

 うっかりやらかしてしまった事がこんな事態を引き起こすなんて。

 だがカデュウ自身は魔術師としては地味だし、すぐに埋没するだろうと希望をもって頑張る事にした。


「カーデさん凄いよね、魔術と体術をあのレベルで使いこなせるなんて。どこで習ったの?」

「あ、えと。……幼い頃に変わった先生から教えてもらいました」

「ほうほう……」

「アレイナさんばかりずるいわ、わたくし達もお話させてくださいませ」


 などと、生徒達が寄ってきた時に、教師が入室した。

 今回はポエナの担当のようだ。


「ほれほれ、そこら辺。はよう席につきたまえ。ポエナ大先生のありがたすぎる授業がはっじまるよー」


 ノリのいい軽快な口調でポエナが授業を進めていく。


「じゃ、今日は治療についてやっていくよん。使えない者であっても、術による治療がどういうものなのかはきっちり覚えておくれ。魔術師が知らないと恥ずかしいからね~」


「術を使っての治療はまず大本の術自体の違いを知る必要がある。導聖術(シクス・グラマト)精霊術(アグリ・ケルズ)、これらと魔術には決定的な違いがあったりするんだ」


「それはお願いをするって事。願い、そして叶えてもらう。大雑把に言えばそんな仕組みだ。この辺りは初歩だからわかるよねー」

「わかりまーす」


 どこからともなく返事が飛んできた。

 ポエナはそれを聞き、うんうんと頷く。


「で、なにが魔術と異なるのかというと、魔術で治療をしようとする場合はその治療箇所がどこなのか、どういう治療をしてどうすれば元通りにできるのか、それらの行程をすべて、知っていなければ完璧な治療は行えない。魔術というのは指示した事しか出来ないからだ。融通が利かないって事さあね」


「これが魔術では傷は治せても病は治せない、と言われる理由。病はそれこそ無数にある、それら全てをその病人に合わせた正しい治療法で行える者は、とてもとても少ないだろう。私もそんな事はできませーん。だってそんなの覚えてたら魔術の修行してる暇もないからね」


 冗談めかしている口調に、教室のあちこちから笑い声で返される。

 ポエナは人気のある教師のようで、生徒達も楽しげだ。


「一方、魔術以外は違う。何故ならば、『お願いする術』だから。例えば神に祈る事で叶えられる術は術者が細かい症状など把握している必要がない。それは神が行うものだから。例えば精霊にお願いしてやってもらう術、これも精霊が頑張ることであって術者が知らなくてもいいわけだ。もちろん術者も詳しい方がより安全だよん、精霊なんかだとちょっと怪しいとこもあるしねぃ」


「話を戻すと、魔術は術者自体が細かく制御しなければならないものって事だよ。他の術は自動的ってまではいかないけど、融通が利くんだ」


「つまり、魔術による治療は、他の術よりも圧倒的に不利! ていう基本を覚えておくれ。熱があるなら冷やせばいいじゃなーいなんて雑にやると死んじゃうかもしれないから!」


「やるなら傷の治療ぐらいまでだねー、それも大怪我の場合はやめておいた方がいい。表面だけ治療して中はそのまま、なんて事も考えられる」


「と、いうわけで。治療が使えない魔術師の諸君は、おバカな奴がいたら止めてあげるのがお仕事だ。治療の魔術を極めようという変人は、超絶勉強してくれたまえ! ぶっちゃけこの学院ではそんな授業はないけどね! ちなみに私は導聖術(シクス・グラマト)で治療してるから、まったく参考にならないゾ! 以上、では次の時間は調合だ。素直に薬の調合でもしとけよっていうポエナ大先生からのありがたーい授業を受けるように!」


 ぶっちゃけすぎているけど、わかりやすいと言えばわかりやすい授業が終了した。

 治療術の講義としては役に立たないけれど、要するに学院としては奨励してないから他の事しろって意味なのだろう。


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