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第139話 アイス食らいまー

 飲食店が集まる地区へとやってきたカデュウ達は、近場にマギアジェラートという氷菓子の店を見つけ、2人でそこへ入った。

 どうやら魔術師が魔術で氷を作っているらしいのだ。

 日々美味しくなるように氷の作製法をアレンジしているとかで、思いのほか美味である。

 他の国でも氷菓子は作られることもあるが、こうして庶民層が食べられる店というのは珍しい。

 魔術大国ゴール・ドーンならでは、と言えよう。


「アイスが斬るって言いださなくて良かったよ」

「ん? だってあのお婆さん、清らかな気を放っていましたよ。良い人です、たぶん」


 とても珍しい氷菓子をペロペロとなめながら、アイスがにこにこした良い笑顔で答えた。


「アイスを食べるアイス……、なんだかおもしろいね」


「このアイスはアイスクリームのアイスです。私のアイスは愛洲のアイスです、アイス違いなのです。ん~、アイス美味しいです」

「アイスだらけでわけがわからないよ」


 氷菓子のバリエーションがいくつも書いてあるのだが、こだわり店長の研究の賜物なのだろう。


「村にも氷の魔術師が欲しい……」

「アイス、美味しいですからねー」

「あ、冷えてるうちに食べないと」

「蕩けるとびちゃびちゃねとねとです、食べ頃を逃しちゃいましたー……」


 すでに溶けてしまった氷菓子をアイスが残念そうに見つめる。


「あはは、溶けちゃってるね。うん、もう一つ頼んでもいいよ」

「いいんですか! わーい、カデュウ大好きです! じゃあ、これとこれとこれを!」

「一つだよ、一つ!? そんなに一度に頼むとまた溶けちゃうよ!」



 氷菓子を食べご機嫌な足取りで職人地区へと足を運んだカデュウ達

 行政側に職人地区などという呼称は無いのだが、素材調達の都合なのか商人との取引がしやすい位置なのか、あるいは単に土地が安かったのか、理由はともかく職人が集まるようになった事で職人地区、と呼ばれている。

 位置としては港側に近く、中心の商人や飲食店が集まる地区の間となる。

 正式にはプトコス地区という名称なのだが、住人達にとっても職人地区という方が通りが良いようだ。


「アイス達はどんな職人さんを勧誘してきたの?」


 中心から離れるにつれて、庶民層から貧民層へと変わっていくこの地区は、それに合わせるように治安も清潔さも悪くなっていく。


「アイス職人! じゃなかった、海の職人さん達ですよ。魚捕り職人さんとか」

「それ、職人じゃなくて漁師だよ!? まぁ、プロの漁師さんはいなかったからそれはそれで助かるけど……」

「魚網を作るから職人だって言ってましたよ」

「……ああ、なるほど。多分職人募集中とか言って、職人以外はダメなのかと思われて、結果そんな話になったんじゃないかなーとは想像するけど。まあいいよ、うん」


 その光景を頭に浮かべ、カデュウは苦笑する。


「他にも、魚加工職人さん、造船職人さん、塩職人さん……」

「魚加工……は、塩漬けにしたり干物にしたりする人だろうけど。塩の職人……、岩塩の採掘じゃなくて塩田で作る人の方かな?」

「そんな感じらしいです、たぶん」


 アイスは無邪気な笑みをみせるが、これはわかっていなそうな顔である。


「今までは購入して間に合わせていたけど、これ以上増えてくると生産できた方が助かるね。良く見つけてくれたよ、アイス」

「えへー、褒められました。故郷でもお塩作ってるおじさんがいたのですよ」

「塩も色々と品質があって、美味しい料理の為には良い塩が大切なんだ。塩の性質によって必要とされる量も変わってくるし、例えば塩漬けと言っても適切な塩分量が……」


 気分良く塩や料理の話をはじめたカデュウの腕にアイスが絡みついた。

 楽しく語っているカデュウはそのまま気にせず語り続け、アイスは楽しそうに笑みを向ける。


「パスタの場合はちょっとしょっぱいぐらいの塩分を……」

「わかったような気がします、たぶん」


 わかっていなそうな返事だが、パスタの塩分量の話をしているのでそのまま続ける。

 ある程度のところでアイスが絡みついた腕を揺さぶる、そこで目的の場所に着いていたことに気づいた。


「あ、もうついてた。早かったね」

「楽しい時間は早いものですね」


 このままだときっと職人さんとの話し合いはうまくいかないのでアイスに離れてもらい、家具職人の工房の扉を叩く。

 少しして出迎えてくれたのは、汚れた服の若い女性だ。


「あ、その、お貴族様でいらっしゃいますか!? あの、えと」

「あ、全然お貴族様ではないです。とある村の村長です」

「村長、さん? なのですか? 失礼しました、とてもお美しい恰好でしたから……」


 汚れた服の女性が誤解したのも無理はない。

 環境に合わせた適切な服装は大事である。

 貴族には貴族の、庶民には庶民向けの恰好というものがあるのだ。


 だが他の服が着れない、……いや正確に言えば着ようと思えば着れるのだが、持ってないのだから仕方がない。

 付与魔術が豪華な都合もあってこの服の方が楽で快適なのも大きく影響している。

 身体は重く感じるし、着心地は悪くなるし、そもそも安全面においても着ないという選択肢がない。

 仲間達からの圧力、もとい安全への配慮もあって他の服は選べないのであった。


 個人的にも身体が重く感じるときついし、暑さ寒さを調整してくれるありがたい服なのだ、この古代産の謎服は。

 ……外見上の問題は妥協するとして。

 まともなデザインに変えてくれる人、募集中!


「こちらに高名な家具職人の方がいらっしゃるとお聞きしまして、こうして訪ねてまいりました」


 怪しい仮面の人の情報なので正しいのかどうかは知らないけど。


「高名、なのですか? 祖父や家族、私も確かに家具職人ですけれど……」

「どうしたね、ヴァネッサ。お客さんかい?」


 奥より現れたのは、痩せながらも眼光の強い老人だった。

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