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第133話 学院でびゅーは華々しく

「では、開始だ」


 短く試合開始の合図を学院長が告げる。

 それと同時にカデュウは短縮詠唱の術を発動させた。


「――【現身の影(キィ・スキア)】」


 自身に重ねる形でカデュウそっくりの幻影を作り出す。

 その幻影に隠れる形で、カデュウ本人はひっそりと気配を消した。


「――あれは」

「何の術だ?」

「聞いた事のないものだな」


 術を唱えたものの、他者からは何の変化もないようにしかうつらない。

 ……聞いた事のない術だとは思わなかったが。


 魔力反応は出ているので、術者として力量が高いはずのユルギヌスには見抜かれているだろう。

 姿を消したものが次に狙うのは相手への直接攻撃。

 回避なり、カウンターを狙うなり、防ぐなり。つまり防御行動を行うはずだ。

 それを想定した上で、ユルギヌスへの牽制の一撃を加え姿を見せる。


「《燃えよ、焼けよ、ただ成すがままに。苛烈なりし炎となりて、我が意を示せ!》」


 ユルギヌスが詠唱をおこなう。

 その内容から炎の術であり、どうやら狙いはカウンターと判断する。


「おお、ユルギヌス様お得意のあの術だ」

「あれで相手の力を見極めるおつもりだろう」


 周囲がざわめくが、それを気にする余裕はなさそうだ。


「――【放たれる炎(フランマ・ブレス)!】」


 ユルギヌスの術が完成し、カデュウへと炎が放たれる。

 ドラゴンのブレスのようにユルギヌスの杖から噴射されたその魔術は一直線に視界のカデュウを赤に染め上げた。

 ――すなわち、幻影で作られたカデュウを。


「えっ?」

「ん?」


 すでに動き出したカデュウは止める事が出来なかった。

 お互いまったく想定外のまま、隠れていたカデュウが姿を現しユルギヌスの後頭部に木剣を叩き込む形となった。


 ――つまり、景気の良い音が皇子の頭から響き渡る事になったのだ。


 実習室に静けさが広がり、やがてざわめきへと変わって、注目がカデュウと倒れたユルギヌスへと集まるのはとても自然な事だった。


「いま、燃えてたよな? なんでユルギヌス様が倒れてるんだ?」

「新入生が炎に包まれて危ない、と思ったらユルギヌス様の横に現れた、としか」

「……間違いない」


 ……何故こんな事になってしまったのか、茫然と考えるカデュウだが、一つだけはっきりとわかることはあった。


 やらかしてしまったのだ、と。


「まさか、今まで不敗だったユルギヌス様が負けた……?」

「しかも一瞬だったわ」

「てか、あれ、魔術なのか……?」

「横から殴ったようにしか……」


 ものすごーくざわざわされている。

 ……もしかして、割と大勢が幻影に気付いていなかった?

 ……おかしいなあ。

 先生は、対魔術師戦闘では、この程度気付かれて当然と思えって……。


 恐る恐る、学院長の方を見れば、とても険しい表情でカデュウを見つめていた。

 やばい。不敬罪とか何かで罰せられるのだろうか。


「……君は、まさか。ニザリーヤか?」

「え? ニザ……?」


 どこかで聞いたような単語に、戸惑う。

 そんなカデュウの表情を見て、学院長は険しさをやわらげた。


「いや。勝者は新入生、カデュウだ。ユルギヌスは医療室へと運べ」


「よくやったぞ! 我が主も喜んでいる!」

「……ぶい」


 いつの間にか起きていたルゼが、ハイテンションではしゃいでいる。

 喋る鳥が騒ぎ出したおかげで、注目がそちらに集まった。


「まったく、怪我をさせるなと言っただろう」


 学院長に肩を叩かれ、カデュウはびくりとした。

 やはり、皇子だから気をつけろ、という意味だったらしい。


「後で学院長室に来なさい。話がある」


 どう考えても褒められる内容ではなさそうだ、今から憂鬱になるカデュウであった。


「学院長、私は同じ召喚士(サモナー)として、もう一人の新入生と競ってみたいのですが」


 なんとイスマに勝負を申し込む生徒が現れた。

 これはまずい、非常にまずい。

 手加減できるのかとても怪しい。ルゼが。


「……ふむ。まあ、よかろう。怪我のないようにな」


 少し考え、結局許可を出した学院長。

 あれ? 怪我のないように、ってこの生徒に言ってる?

 学院長もルゼの強さを察しているということだろうか?

 ……いや、把握しきっていたら許可は出さないか。


「ほほう、我が主に挑戦するとは身の程知らずよな。だが、その意気や良し!」

「……んー、カデュウに教わったとおりにする?」

「え? どんな事教えたっけ?」

「……あんさつ?」

「そんな事教えてません! お願いだから怪我させないようにね」


 教育に悪い事を教えたのは誰だろう。ぷんぷん。


「私はアリッサ。よろしくね、勝ったらなでなでしていい?」

「……イスマだよ。おやつくれたらなんでもいいよ」


 ショートカットの青い髪をしたアリッサという少女はガッツポーズをする。

 それ、戦わなくてもおやつあげれば済む話なのでは?


「それでは、開始せよ」


 しかし、不毛な戦いは始まってしまった。

 本当に怪我はさせないでね、と祈るしかない。


「……じゃ、ルゼ。後はよろしく」

「任せておくのだ。とー!」


 丸っこい鳥のような姿が、みるみる人の姿へと変わっていく。

 イスマよりは少し大きいぐらいの、少女の姿へと。


「……あなた、変わった生物を使うのね。まあいいわ、確かに可愛いけど私のウサちゃん程じゃないわ!」


 ……何の勝負をしているのだろう。

 そのウサギは鋭い歯を持ち、大型魔獣も倒すという危険生物であった。

 吟遊詩人の叙事詩でも騎士達が何人もやられたという物語が残されている。

 確か、名をパラティレプス。騎士ウサギの名を持つ幻獣。

 ……でもそのウサギ、怯えてない? 凄く震えてますけど。


「なにぃ! ウサギの方が我より可愛いだと! ……そこそこ、かわいいな。手加減してやるか」


 手加減といいつつ思いっきり首をへし折るような速度で手刀をぶちこんだ。

 あっさりとルゼの勝利で終わった。そりゃまあドラゴンだしね……。

 ウサギ……生きてる?

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