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第132話 実習開始っ!

「時間だ。それでは、いつも通り実践的な活用を行ってもらう。まだ術の行使が安定せぬ者もいるが、見学し学びたまえ」


 カデュウらの審査を行った後、少しすると学院長が大きめに声を出して通達する。

 実践的な活用、と言われても『いつも通り』がわからない。

 それ以上の言及はないが、生徒達は各々動き出していた。


「あの、学院長。どのような事を行うのでしょうか?」

「魔術の実践だ。知っての通り適性は人それぞれ異なるのだが、この実習室にはある程度、同じ方向性の生徒が集められている」


 ああ、それで教室にいた顔ぶれと異なっていたのか。

 確かに道具が必要な術だと、用意するべき備品も異なるだろう。


「……それでは、ここの生徒は何をするのでしょうか?」

「――試合だ。この実習室は戦いに向く術者が集められている」


 ……薄々とはわかっていた、無骨な部屋の作りからして。

 カデュウ自身も戦いを想定した術を教えられているので、正しい配置ではある。

 戦いたいかどうかはまったく別だが。


「君達は私が審査を行う為に呼んでもらったが、伝えられていなかったかね? 適性を見たところ、次からもここで実習を行う事になるので場所を覚えておくように」


 全然伝えられてなどいなかったが、そういえばアレイナが案内したのは言いつけられていたからなのかもしれない。


「はい、わかりました。教えて頂きありがとうございます」


「魔術師も戦いの為に魔術を学ぼうとする者が少なくない。国が求めているのもそうした人材が主体であるし、将来を考えても学んで損のない事ではあるだろう。君達は冒険者のようだが、冒険者ギルドには多くの魔術師が所属しており、この学院の卒業生とも出会うかもしれないな」

「出会う機会もありそうですし、学んだ事は冒険者としても商人としても役立ちそうです」


 なるほど、魔導学院卒業生との共通の話題が出来るという事であり、うまくすれば優秀な人材とのコネクションにも繋がるわけだ。

 あまり興味がなかった学院生活だが、意外なところで役立つのかもしれない。

 魔術師兼家具職人とかそういう類の人いないのかな。


 すでに行われている試合を観察してみると、派手な炎の魔術が景気よくぶつけられていた。

 これは中々の術者、と思ったらさっきの赤毛の男だ。

 相手をしていた気弱そうな少年もある程度防いでいたあたり、技量は低くなさそうなのだが、赤毛の男はそれだけ優秀なのだろう。


「セフィル、大丈夫か?」

「……あたた。……うん、火傷もないです。術のコントロールが凄かった~」


 敗北した気弱そうな少年も、怪我はしていないようなので相手の力量を見極めて加減も出来ている事になる。


 あ、目が合った。

 にやあ、と赤毛の男がいやらしい笑みを浮かべる。


「学院長、新入生となる彼女の実力を確かめたくあります。先程の術を見る限り、すでに資格はあると思うのだが、よろしいか?」

「本来は見学のみとするつもりであったが……。よかろう、怪我はさせないようにな」


 学院長がカデュウの肩を軽く叩き、合図をおくる。

 ちょっと見栄えの良い術を使ったばかりに戦うはめになってしまった。

 ……やはり本を読むための明かりを披露したほうが良かったのかもしれない。


「カーデだったか。まだ名乗っていなかったな、俺の名はユルギヌス・ミルディアス。知らぬというなら知りおけ」

「カーデじゃなくて……って、ミルディアス? まさか、皇帝家の……?」


 怪我をさせないようにってそういう意味か!

 魔術の国の皇子ともなれば、魔術師としての力量も高そうだ。

 しかしここで無様に惨敗すればこの先、ユルギヌスに限らず他の生徒からも色々ちょっかいをかけられそうだし。

 勝ってしまえばそれはそれで面倒そうだ。

 そこそこ戦い、適度なところで負けるのが無難か……?


「ふん。学院生の授業の一環だ、身分の差など気にせずぶつかってこい」

「ところで、あの、どういうルールになるんですか、学院長?」


 試合らしきものは見学したが、基本的なルールの説明はされていない。

 魔術以外で攻撃してはいけないのか、あるいは補助的に使う事も許されるのか。

 戦いに使う魔術といえど直接的な攻撃魔術のみではないので、多分大丈夫だとは思うのだが。


「魔術を用いた攻撃で相手を倒せば勝ちとなる。細かい事は私の方で判断する、以上だ」


 なかなか雑な説明であったが、魔術を用いた攻撃、というのは要するに魔術が絡んだ攻撃ならば何でも良い、という意味だろう。

 攻撃魔術など使えないカデュウだが、それならば戦いようもある。


「さあ、稽古をつけてやる。まずは高き壁を実感するといい」


 ユルギヌスを見れば杖を手に持って、発動具としていた。

 実に魔術師らしい魔術師スタイル。

 さすが魔術大国の皇子だけあって、正統派のようだ。


 先程の炎の魔術を見ても、油断していい相手ではないだろう。

 もっとも、皇子なのも加わって勝った方が面倒そうなので、適度に戦いあったらうまく華を持たせるように敗北しようと考える。


「めんどくさ……。あ、いえ、よろしくお願いします」


 うっかり本音が漏れ、聞こえていない事を祈るカデュウであった。

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