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第129話 魔導学院初日

「はい、了解。2名も学院に入学してくれるのね、嬉しいわぁ~。今日はこのまま、案内と授業に行って貰うけど大丈夫よね?」


 カデュウらを学院に入学させることに成功した眼鏡の女性は、ニコニコと人の良さそうな笑顔で歓迎した。

 懸念していたイスマの件は、一切何事もなくあっさりと承認され、そんな雑な審査でいいのかと逆に心配になるほどだ。

 魔術の才能を見る事すらせず、この2名で入学お願いしますと伝えたら、すぐに了承されてしまった。


 もしかしたら、即座にイスマの腕に抱えられている鳥みたいなドラゴンとの繋がりを看破したのかもしれないが……。

 それにしたってカデュウの方はただの自己申告のみで一切確認もされていない。


「そうそう、申し遅れちゃいました、私の名前言ってなかったわね。ポエナ・ファジーっていうの。……魔導学院“逆さの塔(リバル・ベルベ)”にようこそ!」


 眼鏡の女性、ポエナはウインクとサムズアップで歓迎の意を示す。

 軽快な調子だが、親しみやすそうではあった。


「んじゃ、頑張れよー。私らはのんびりハーブティー屋してるわー。営業許可ありがとうなー、ポエナさん」

「滞在が増えそうだから、街の情報も集めておきましょう。村に来てくれる職人も探さないといけないしね」


 国から露店の営業許可を貰い、ソト達は街中で店を開きつつ、今後の為の活動をする予定であった。

 許可が無くとも営業している店も少なくないようなのだが、ついでだからとポエナに露店営業について聞いてみたらあっさり許可が出たのだ。

 特別有利になる事はないが、以前の門番のような腐った公権力側から言いがかりをつけられる事が無くなるのはありがたい。


「いえいえ。ごゆっくり~。それじゃ、行きましょ。カデュウくんに、イスマちゃんだったわね」

「まずは案内でしたっけ?」

「案内と、他の教師への挨拶もね。学院証は出来てから渡すけど、それまでは顔で認識してもらう事になるから、一応の面通しよ」


 異質であり、荘厳でもある建物を下っていく。

 逆さの塔は、中心部に巨大なぽっかりと空いた穴の周りに螺旋状の通路が敷かれ、その外側に部屋が作られている構造となっていた。

 部屋の一つ一つが大きく、天井も高くなっていて、学び舎というよりは王侯貴族の城のようだ。

 ミルディアス様式の建築であり、見慣れた魔王城と似ている部分もあるのだが、随所に魔術的な模様や陣が敷かれているのが魔導学院ならではなのだろう。


「……なんか、雑な制度なんですね」

「なんだかんだ言っても学び舎だからね~。魔術の才がなければ勝手に授業に潜り込んでも意味はないし、才能があるなら生徒になれるわけでね? いい加減なのよ、これが。暴漢であっても、教師達は一流の魔術師だから自衛出来るしね?」


「でも、最高の素材も集めているのなら、盗賊がきたりするんじゃないですか?」

「素材保管庫はいくつかあって、最上の物は学院長管理下で魔術による厳重な守りが敷かれてるし、それ以外のも教師限定とか、生徒も入れるとか、制約のランクこそあれど魔術できっちり守られてるわ。重要な場所も同じようになってるから、よほどの者でなければ侵入すら不可能なのよ、ここ」


「魔術を使える人って希少ですしね、そんな事が出来るなら盗賊なんてしてないか」

「よほどの変わり者以外は、ね」


 吟遊詩人の詩の中に出てくるような、物語上の神出鬼没の盗賊にはカデュウも心当たりはなかった。

 もしかしたらいるのかもしれないが、……少なくとも学院の警備は思ったよりも万全だという事らしい。


「はい、到着。ここが学院長の部屋ね。学院長~、入りますよ~」


 螺旋の通路を歩き何度か階段を下り、格式高い重厚な扉の前で先頭を行くポエナが止まる。

 フランクな口調のまま、ポエナがその扉を開いた。

 そしてさっさと入室してしまう。


「失礼して、入らせて頂きます……」

「……はいるぞオラァン」


 入る前に挨拶をした方がいいのかなど、学院の作法がわからないまま、カデュウもそれらしい言葉を述べてポエナに続く。

 ……控えめな声量でやけにワイルドな事を口走った問題児がいた気がするが、きっと気のせいだ。


「お仕事中すいませんねー、って私も皆もお仕事中なんですけど。それはともかく、新入生のカデュウとイスマイリです、今日から入学でご挨拶でやってきました」

「……ふむ。新入生か。私が学院長のオールドマン・ベルディアーノだ。魔術の勉学に励むように」


 その名に相応しいロマンスグレーの髪色をした、壮年から老齢に差し掛かろうという熟年の男性がカデュウらを見据えて力強い眼を向けた。

 そのまま何を言うでもなく、ただ見つめられる。


「以上」


 しかしすぐに学院長オールドマンは、用は済んだとばかりに机の書類仕事を再開させた。

 テキパキとしていて無駄がない人のようだ。


「さ、次いきましょ。ここはおしまーい」


 再び気軽な調子で、ポエナが退室を促し背中を押す。

 同じように他の教師達に面通しを行い、予定通りカデュウ達はその日のうちに授業に参加する事になった。

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