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第127話 まともな魔術師のいないパーティです

「まず大前提として、入学するのは魔術が使える人でないといけない」


 魔導学院は魔術の才が認められる事が入学の条件となっているのだが、魔術の才があっても魔術を使ったり学んだりした事はない、という初心者でももちろん入学は出来る。

 しかし、なるべく一緒にいる形にするのならば、魔術をすでに使用出来る者の方が良いだろう。


 学院の授業は系統事に細かくは分けられておらず、同じ教室で総合的に学んでいく形式となっている。

 だが、魔術がまだ使えない者ならば基礎中の基礎を教える為の授業があるのだという。

 学院内の仕組みはわからないのだが、ほとんど別の授業となるのならば連絡が取りにくい。

 ユディやアイスが仮に魔術の才があったとしても、別行動が基本となっては意味がないのだ。


 一人のみが入学すると、それもまた連絡が取りづらい。

 なるべく二人以上で行動した方が良いとカデュウは判断した。


「つまり、僕、ソト師匠、クロスに絞られるけど、ソト師匠は魔力、年齢、種族あたりが引っかかりそうかな」

「まて。何歳だと思ってるんだ私を。麗しの美女に見えるかもしれないが、これでも10代なんだぞ」

「え? そうなんですか? いや外見はロリにしか見えませんけどね。いつも偉そうだからなんとなく年齢高めなのかなって」

「師匠だから偉いんだぞー。まぁギリで19歳ぐらいだったはずだ」


 ホビックは年齢の違いが分かりにくい種族ではある。

 顔立ちは幼めだし、みんな小さいし。


「どの道、種族と魔力の問題がありますからねえ。良い顔はされなそうだし、不用意に目立つのも良くないですよね。ほとんど授業に出ない予定なのに」


「カデュウのそばには私がいないとね、って言いたいところだけど……。カデュウよりも魔術は得意じゃないし、滅びた国の王女っていうのはちょっと目立ちすぎるかも」

「王家とか王女とか姫とか、世間が大好きそうなキーワードだしなー」

「その間みんなと別行動する事になるだろうから、クロスにはそちらのまとめ役をお願いしたいかな」


 別の場所に冒険に行く必要はないのだが、同じ街で過ごすとしてもハーブティー屋ぐらいはやるべきなのだ。

 一応期限のあるものだから、悪くならないうちにね。

 やはり一人で入学しなければいけないかな、とちょっと寂しがっていたらイスマが無表情のまま胸を張った。


「……えっへん。術ならまかせるのだ」


 なにやら、ちっさい子が胸をはってアピールしだした。


「イスマのは魔術ですらないんじゃ……。でも死霊術(ネクロマディア)という事にすればいけるのかな? でも学院って死霊術(ネクロマディア)に忌避感はないのかな……。召喚士(サモナー)だと召喚物がシュバイニーさんなのが懸念が出るね」

「そらまあ、俺はどうみても人間だしなぁ……」


 うーん。入学出来る可能性はあるけど確実ではない、というあたりか。

 イスマなら知名度はないし、言動がフリーダムなだけでさほど目立ちは……、容姿以外ではしないはずだ。


 ただ、学院が認める魔術となるのかはそれを決める者の判断に委ねるしかない。

 “鍵言術(ノグエト・ゼム)”の一つであるイスマのその力は、知らぬ者には魔術と変わらないようにしか見えないので、この場合に問題となるのは生きる人間にしか思えないシュバイニーを召喚物と言い張って、果たして理解してもらえるかだ。

 そこを説明しようとすると魔術ではない事がバレてしまうのでやはり入学は出来なくなる。


 それに、“鍵言術(ノグエト・ゼム)”、あるいは“世界の鍵クエ・リ・ツフォルザード”については決して他人に話してはいけないと、カデュウは教わっていた。

 そんなどうでもいい所で禁を破る事は出来ないので、学院に拒否された時点で諦めて一人寂しく通った方が安全だ。


「……他の選択肢はなさそうだし、僕とイスマでいいか聞いてみるしかないね。ダメなら僕だけで行くしかないけど」


 色々考えを巡らせた結果、他に手は無さそうとカデュウは判断した。




「よかったら、この子も連れて行ってくれないかしら?」

「この子って……え? ルチアさん!?」


 背後からの声、一瞬反応が遅れる。

 “幻想”と呼ばれる者、ルチアが思いもよらぬ場所に思いもよらぬ方向から現れた。

 その横にはかわいらしい少女が並んでいる、少し前に見た顔。


「――と。たしか、毒竜のベルベ・ボルゼ、さん?」

「堅苦しい言い方しなくて良いぞ~。魔王様の御寵愛を受けしもの同士なのだ」


 え、そんなもの受けたっけ? と一瞬戸惑ったが、とりあえずスルーしておく事にした。

 熟成血液ジュース飲まされて魔村長とかいう謎役職に任命された記憶しかないのだが。


「あ、そうですか……。じゃあ、……ベルベ?」

「何でも良いぞー、私がわかればそれで良かろう」

「私はベルちゃんって呼んでるわね」


 そして、顔を見合わせた皆は、唐突に名づけ大会をはじめた。

 妙なノリが好きなパーティである。

 とはいえ、さすがに本人の前で馬並の酷い名前は羅列しなかったようだ。


「……ベルベルベ」

「ベルりん、ですね!」

「ベルガンティン、なんて格好良いんじゃない?」

「なんか船っぽい呼び方だな」

「船の方はブリガンティンですね」


 そこでカデュウは気付いた。もっと大事な事があったのだと。


「いや、そんな事よりもどうしてルチアさんがここに?」

「貴方達の村の後、この辺りに来ていたからじゃない? 何故、貴方達を見つけたのかというと、気配だけど。何の目的でここに来たのかという話ならば、ベルちゃんを少し預かって欲しかったから、ね」


 先程の名づけ大会を微笑ましく見守っていたルチアは、やはり微笑んだままベルベ・ボルゼの頭に手を置いた。

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