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第126話 魔導学院へようこそ!?

 交易品を売りに来たら、何故か入学の勧誘を受けた。

 何を言われているか、カデュウには理解が及ばなかったのも無理はない。


「……えーと。商品を売る事と、学院に入学する事に、何か関係があるんですか?」

「いいえ、まったく?」


 カデュウの問いかけに対し、何を当然なと言わんばかりの表情で、眼鏡の女性はきっぱり返した。


「あなたの年齢は多分、13か14辺りでしょう?」

「14歳ですね」

「若くして魔術が使える、という事は魔導学院に入る資格があるという事。ここは才人の為の学び舎、国籍も職業も家柄も関係ないんだねえ、これが」


 魔導学院の門は若さと魔術の才があるならば、誰にでも開かれているようだ。

 国家運営なのに他国人でも良いとは、変わった方針と言える。

 多少なりとも魔術の才を持つ者自体が少ないからであろうか。

 仮に才能がある子供であっても、気付かれないままというケースも少なくないので、魔術師自体の数を増やしたいという目的なのかもしれない。

 また、ここで恩を売ればゴール・ドーンで働こうと考える人も出てくるのだろうし。


「資格があるのはわかりました。でも、僕達はやる事があるからここに定住する事は出来ません。入学は無理だと思います」

「それは大丈夫。別に入学したからって住む必要もなければ、毎日顔を出す必要もないんだ。極端な事を言えば、大事な時にだけ可能な限り来てくれる程度で十分なんじゃないかな」


「……?? それ、学院に入る意味も入らせる意味も、よくわからないんですが」

「あちこちの街を旅して商売をしながらでも、たまに来て授業受ける、ぐらいに便利に使ってくれて構わない。良い物があればここに持ち込まなきゃいけない決まりだしねえ。面倒だけど偉大なる皇帝陛下がお決めになった事でさ」


 近年、偉大なる皇帝陛下とやらが御乱心なさって、質の良い物全てを魔導学院に集める仕組みにしてしまった、と護衛をした仮面の店主イオニアスも語っていた。

 確かに、好むと好まざるとに関わらず、開拓地の品物を売りに来ようとするならばそうせざるを得ないのかもしれない。


「たまに商売のついでに顔出して、授業受けてくだけで金貨100枚も増えるんだ。おいしい話だと思うよ、商人ってのはこういうのが好きなんじゃないのかい? ああ、もちろん授業料なんてものはいらないよ」


「何故そこまでして入学させたいのですか? 貴方達にとっての利がわかりません」

「そいつは別に話す必要もない事なんだが……、まぁ隠すような事でもない。単に偉大なる皇帝陛下の勅令により、魔導学院の生徒を増やし教育を推し進めよという政策が最近出来てね、生徒の数が増えてるって実績がいるんだ。それだけの事」

「水増し程度の話で、100枚の金貨を払うと? 不自然過ぎますよ」


 理由は最低限の筋は通るが、1人増やす程度で大金を払うというのはどう考えてもおかしい。

 こういう交渉において商人として考えるならば……。


「……恐らく、貴方はこの皮革の価値を知っていますね?」


 古の大森林に生息する魔王鹿は、あまり外側には出て行かないとエルフ達からは聞いているが、それでも稀に外に出て、そこで狩られても不思議はない。

 そして、ゴール・ドーンの領内で狩られたのならば希少素材として、ここへ運び込まれるのは道理だ。


「ふうん。……なるほどね。それはあり得ない話ではないね。仮にそうだとして、何を要求する?」

「金貨300枚でお願いします」


 魔力を帯びた皮革で希少価値があるならば、魔化系統の魔術に有用という可能性は高いし、マジックアイテムも作りやすいはず。

 恐らく金貨200枚以上の価値は見出していると想定した。

 市場価値はわからないが、この魔導学院の評価は商人の相場とは別物のはずだ。

 3倍という暴利を吹っかけて、落としどころを探すという選択。

 その過程で入学の話もうやむやに……。


「いいよー。じゃ、それで商談成立ね。あ、入学おめでとう! 明日から学院来てね、よろしく~」

「……ええっ!? あ、あれ?」


 しかし、それはあっさりと承諾されてしまい、交渉の余地すらなく入学までセットでついてきた。

 ……どんだけ予算あるんだ魔導学院は!

 これだから国家経営の金銭感覚は……。

 などとぶつぶつ心の中で呟いても仕方ないのだが。


「ああ、入学するのは他の子でもいいし複数でも構わないよ、魔術が使えるならね?」

「めちゃくちゃ雑な方針ですね……」

「私はどうでもいいからねえ、国に言われた通りにするだけさ。お仕事だからね」


 大きな利益は出たのだが、微妙な縛りも受ける事になってしまった。

 ある程度の行事にさえ参加すれば自由のようだから、制限はかなり少ないしどの道交易する上でここに来る機会は多いで、悪い条件でもないが。


「明日からは学院の寮に部屋を用意するけど、お仲間の部屋までは無理だし、基本的には入れないから、そこは注意しといて。もちろん、良い宿の紹介ならこちらで手回ししとくさ」

「……はい。宿の方、お願いします。特に美味しくて安い所でお願いします」


 せめて譲れないところは伝えておかねば。

 美食、大事!


「何、商売のついでにたまに顔出せばそれでいいんだ。こんな良い素材を持ち込んで魔術も使える有望株を、学院が逃す手はないよね?」


 商人として勝って、政治に負けた、という気分であった。

 ……つくづく、世の中は様々な思惑で出来ていて、様々な価値観があるのだと実感せざるを得ない。

 なんもかんも政治が悪いのだ。


「カデュウ、学院に入る事になっちゃったみたいだけど」

「口を挟む余裕もない程、即決で決まったな……」

「わ、私魔術が使えないから姫の護衛が出来ませんよ!?」


「うーん。とりあえずどうするか、落ち着いて考えないとね。学院に入学は決定しちゃったし、何人入るのかとか、その間他の人はどうするのかとか、方針を決めよっか」


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