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第123話 欠陥魔術師さんは有名人

「食事に夢中で依頼の事なんか忘れてました、てへ」


 よく飲みよく食べ、ぐっすり眠ってばっちり目を覚ましたカデュウは、現実を思い出した。

 調子にのって、皆で分け合いつつ全品制覇とかをやりだしたのがいけなかったかもしれない。


「そこに金持ちのおごりがあったのだから仕方ない。不可抗力だ、仕方ない。出発時にギルドに行って、何もなければそのまま出立だな」

「うん、仕方ないね。ソトの言う通り」

「そうね、ユディ。仕方ない。久々の甘いものは美味しかったもの」


「俺、あんなに食ったの久々だぜ。普段、別に食べなくてもいいからって、あんまり食わせてくれないからよ……」


 開拓サバイバーな食糧事情もあってどうしても食事の必要がないシュバイニーは後回しになりがちだが、やはり食事はしたいものらしい。


「お米があると聞いたのになんか変な感じでした。リゾットでしたっけ、美味しいけどちょっと残念です……」

「……余はまんぞくである」




 昨日の夕食の話をしながら宿の朝食を食べ終え、カデュウ達は冒険者ギルドへと向かった。

 前回よりも冒険者の数は増えているのか受付が混雑している様子が見て取れる。


「期待薄だな、こりゃ」

「こうしてみると、冒険者って意外と多いんですね」


 酒場側ではなく依頼関連のギルド受付側に人数が集まっているのは、カデュウにとってはじめて見る光景だ。

 冒険者ギルド本部のある自由都市ファナキアでもこれほどではなかった。

 どこもギルドの酒場は繁盛しているのだが、誰でも飲食可能なので必ずしも冒険者だけが座っているわけではない。


「こういう時は、ぱぱっとチェックしないと依頼がなくなっちゃうからなー、っと。あ、そこの職員さん、紹介出来る依頼を教えてくれ」


 ソト師匠がその辺りのギルド職員の女性に声をかけ、冒険者許可証を差し出す。


「冒険者よ、自由なれ。ようこそ、中級冒険者(メディオ)の方ですね。ふむふむ、ソト・エルケノさん、と。……え? 過去にギルドを半壊させた経歴があり。要注意?」

「ほあぁ!? わざとではなくてですね……、そこはスルーしていただけると……」


「おい。あのチビ、ギルドを半壊させたって……」

「あれは噂の“欠陥魔術師”じゃないか……?」


 周囲から注目があつまりざわつきが始まった。

 ソト師匠の悪名はこんなところにも届いていたらしい。

 いや……他所から来た冒険者なのかもしれないが。

 おかげでパーティー自体に注目が集まり、別の意味での注目もされだした。


「し、失礼しました。そのような武名を轟かせていらっしゃる方ならば、やはり魔物退治でしょうか?」


 珍しくソト師匠が代表者になったらコレである。

 次からまた手続きを丸投げされる未来が目に浮かぶようだ。

 というか、それ武名っていうのだろうか……。


「いや、もうちょっとこう、護衛とか配達とかそういうやつでいいんですけども。ヴァルバリア行きの依頼で何かないですかね?」


「ああ、そういった依頼は今の所ないですね。近場の魔物退治などでしたら……」

「うーん。出会えなければ探したりするのに何日かかるかわからないしなあ。じゃあ、今回はやめておきます」

「……そうですか、残念です。いずれ機会がありましたら、ご協力をお願いしますね」


 職員のお姉さんは礼をして去っていた。

 やはり忙しいようで、すぐに他の冒険者に対応をしている。


「依頼はなかったようですね、ささ、早く行きましょう」

「……なんでそんな急がせるんだ?」

「なんでって、そりゃあ……居心地が……、とても」


 ちらりと、他の冒険者の方を覗き見ると……。


「あの子かわいい~、こっち向いて~」

「一緒に冒険行きましょうよ」

「お、おれ、あの無表情の小さい子が……」

「俺は当然紫色の髪の子だな」


 この状態だ。ひそひそと声は抑えているようだが、丸聞こえであった。

 こんなに若い冒険者のパーティは珍しいのかもしれない。あちこちのギルドで騒がれている気がする。

 紫の髪の子は注目されたくないのでそっとしておいてください、本当に。

 そして、毎回、イスマ派が一定数いるのはどうなんでしょうか。


「もうちょっと、ゆっくりしていってもいいんじゃないの? ねえ?」


 にまにました表情でクロスがカデュウを見る。

 なんだろうこの自慢と愉悦が混ざったような、色々濁ってる笑みは。


「あぁ、たのし。恥ずかし気なカデュウが最高にかわいい」


 これさえなければ良い子なんだけどなぁ……。

 ほら、周囲の人にあの子なんか変じゃね? とか言われてるよ。


「さ、早く行きましょう。ここは危険です。特にクロスが」

「そ、そうだな……」


 そそくさと冒険者ギルドを後にして、カデュウ達はヴァルバリアへと出発した。

 馬車にして約3日程度の旅程となるので、付近の街からも少々離れた位置にある首都だと言える。

 代わりに休憩所となる村が2つ程あるようだ。

 収入は多そうなのでそのまま街になってもおかしくはないが、恐らくは歴史的経緯と、そして環境上に何らかの問題があるのかもしれない。

 例えば、魔物が多発するとか――。


「まさかー、大国の首都へ続く街道なんて安全に決まってるだろー。外れたら頭にジュース載せてやるさ!」

「あ、師匠、お約束ありがとうございます。早速ですが魔物です」


 凶悪そうな表情の人の顔をつけた鳥ような生物、ハーピー。

 あるいはハルピュイアとも呼ばれる魔物。


「今のはノーカン! ノーカンだから! ちょっと言ってみただけだから! やだなー魔物いるに決まってるじゃん」

「ソトといると退屈しませんね! では、今日は斬ってしまって構わないのでしょう?」

「構わないから斬っちゃっていいよ」


 遠慮のいらない魔物相手にアイスが喜んでいた。

 

 まぁ、さほど強くはないので、それなりの腕がある冒険者にとっては、群れていなければ特にどうという事もない相手なのだが。

 主に羽根が有用な素材として使われるようだ。

 他に肉も食べれるのだが特別美味しいわけではなく、こちらはさほど重視されていない。


 この程度なら、すぐに片付けて問題なくヴァルバリアへ到着する、――はずだった。

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