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第121話 非日常はいつもあなたのすぐそばに

 酔っぱらって寝てるソト師匠を一人ぼっちにしておくと起きた時に泣きそうなので、アイスとシュバイニーに待機してもらい、冒険者ギルドへ向かっていた。

 横にイスマが並び、後方にはクロスとユディが付いてきているのだが。


「可愛すぎると褒めちぎられまくって、羞恥にまみれ心の中で涙目になっているカデュウの顔を眺めたいから」


 とかいう歪んで濁った用件でついてきたクロスはどうかと思う。

 道中で買うお菓子の為についてきているイスマや、暇だからというユディが健全に見えてくる。

 そんな事を考えながら街の景色を眺めながら道を歩いていたら、突然ユディが前に出た。

「嬢ちゃん達じゃぁねえか。なんとまぁ、こんなところで会うとはのぉ」


 聞き覚えのある声。

 エルブンシュタットで遭遇した、あの男。


「……ビクトルさん、でしたね」


 ――“血の盟約会”の“血白者”。

 大陸中の裏社会を牛耳る組織の暴力担当だ。

 思考と共に身体が緊急態勢に入る。

 いつでも、可能な限りの対応が出来るように。


「やめーや。かわいらしい嬢ちゃん達をいじめるような酷いおじさんなんて噂が立っちまうじゃろうが? 出会っただけで街中でやり合う程、理由がある仲じゃあ、ねえと思うがの?」


 やる気無さげな表情で、指をチッチッと揺らすビクトル。

 その背後から現れたのは、黒いジュストコールの男だった。

 鋭い目付きは、まるで一つ一つの挙動を、査定されているようで――。


「ビクトル。このお嬢さん達は?」

「エルフのとこで知り合った例の子達ですわぁ」

「ああ、なるほど。報告では聞いていた。……まだ始末はつけていなかったな。丁度ティータイムといった所、お嬢さん方、よろしければお茶をごちそう致しましょう」


 静かな鋭い目付き、そしてその纏う空気。

 見る者が見れば一目で裏の人間だと察してしまうその男はカデュウの目を見て、帽子を脱いだ。


「約定保証組合の統括者、エド・ロイドワードという」

「という事は……。まさか、“血の盟約会”の……?」

「“盟主”、と呼ぶ者もいる。呼び方はご自由に」


 驚愕する、動揺する。当然だ。

 こんな何気ない日常で、まさか裏社会の支配者に出会い、お茶に誘われるとは。

 人生とは何があるかわからないものであった。




 くつろぎのスペースにおいて、カデュウ達は警戒心が解けないままにくつろぐという難行を強いられていた。

 付近にあったカフェへと連れられたのだが、以前にルクセンシュタッツや自由都市ファナキアにもある店であった。

 リーズナブルで美味しい店なのだが、手広く色々な場所で営業しているようだ。

 この店舗はその地の文化にあわせたのであろう、内装やメニューが大分違っている。

 グローディアコーヒーという苦いのもしっかり書いてあった。


「時間を割いてもらって済まなかったね。とはいえ、君達も裏社会との揉め事など速やかに片付いた方がすっきりするだろう」

「それは、その通りですね」


 エドが個室の部屋を頼んだのであろう、思いの外に静かな所であった。

 後ろめたい話をするわけではないのだが、周囲に情報が洩れる心配はなさそうだ。


「ところで、エドの旦那。保護者がおらんようじゃが、この子らで話になるんですかい?」


「かの“人形名匠(ゴーレムマイスター)”殿は、過去の経歴では判断は他者に丸投げする傾向にあるようだ。彼女はビクトルが交戦したエルバス・リンデベールも所属するクリーチャー傭兵団の部隊長であり、そこにいるユディラ・ゼッテ嬢もそばに居る事から、恐らく傭兵団そのものが関わっていると推測できる。かの傭兵団はミロステルンで王殺しを働き、以後活動が確認出来ない事からもまず間違いはないだろう」


「彼らがエルフの森に居た事は過去に例のない行動だ。つまり傭兵団が雇われたという可能性が高い。では雇ったものは誰か、これには2つのケースが考えられる。そこにいるクロセクリス・フォン・ルクセンシュタッツ王女殿下、もしくは、“人形名匠(ゴーレムマイスター)”が判断を委ねている冒険者、そして開拓地を作ろうとしている者、つまりカデュウ・ヴァレディ」


 開拓地の事までバレている……。

 集めた住人達が引っ越す時に漏れた僅かな情報あたりか?

 あるいは仲間達との雑談を誰かが聞いていた?

 ……しかし、決め手はエルブンシュタットでの事件だろう。

 あの時解放した奴隷の中には人間も混ざっており、国に帰った際に助けられた状況などを誰かに話したのかもしれない。

 もしくは、奴隷を解放しエルフの統治者を交代させた者達が、外の世界に一切姿を現さない、という状況証拠なのかもしれない。


「予算に関しては開拓地との拠点契約を結んだと考えればありうる話だ。また、“枢機卿”にバンダル王家の剣を譲り、多額の報酬を受け取った分も考慮する必要があるだろう」


 “枢機卿”という事はあの時、修道院で渡した剣の事?

 そんな事まで知られているとは……。


「また、クロセクリス王女には時間的にそのような猶予は考えにくいし、王女と契約していたのならフェイタル帝国との戦いでクリーチャー傭兵団が参戦していないのは不自然だ。となれば残された候補者は、君だけだ。どうかな?」


「……何でもお見通しなんですね。それが盗賊ギルドを統べる闇の組織の情報網ですか」


「得意不得意はあるがね。例えば、交易品の相場ならば商人に及ぶべくもない。エルフの森で君達が何故開拓をしているのかは把握していないし、開拓地でどのような暮らしをしているのか、となれば知りようもない」


 そこで部屋に店員が入室し、注文していた紅茶と菓子が提供される。

 ビクトルがまとめて頼んだのでカデュウらも同一の物となっていた。

 飛竜諸島産の紅茶だ、上品な香りが部屋に満ちていく。

 そこでエドは小さく笑みを見せ、紅茶を飲んだ。

 交渉に際し柔らかい印象にしようというのだろうか、あるいは単に紅茶が好きなのだろうか……。


「すまないね、悪い癖だ。余計な話が長くなった」

「余計な話……ではなく、その情報網を知らしめて威圧しておく意味もあるのでは?」


「さすがは交易商人の子だ。ル・マリア出身だったね。戸籍上と性別が違うようだが」

「いや、それはその……、性別は一緒なんですが、じゃなくて」

「とはいえ、そのような些事は私の関知する所ではない。本題に入ろう」


 完全にイニシアチブを握られた状態で本題に入られた。

 物凄いやり手だ、調べた情報を語るだけなのに全てが脅しにも思えてくる。

 大陸最大の闇の組織に徹底的に調べ上げられているのだから。

 いつでも、その気になれば何でもできる、と暗に言われているかのようであった。

 しかし、実際には脅されていないのがまた悪辣だ。


「では、要求を伝えよう。――君達の開拓地に人身売買機関の支部を設置させて欲しい」


 単刀直入に語られたその内容は、めちゃくちゃブラックなものであった。

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