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第120話 ファンはさびしそうにさっていった

 カヴァッラの冒険者ギルドで報告を済ませ、帝都ヴァルバリアへ向かう依頼が無いか探したのだが、期待に沿うものは入っていないようであった。

 魔物退治の依頼が多いようだが、あいにくと方向が違う。


「うーん。丁度良い依頼が無いね」

「無いものは仕方ない、かな」

「魔物退治、魔物退治、逆方向への配達、郊外調査、……ヴァルバリア方面の依頼は無さそう」


 自称ジュースを飲んだくれているソト師匠と違って、ユディとクロスはちゃんと探すのを手伝っていた。

 イスマとアイスもジュース組だが、大人しくしてくれる方がありがたい。


「先に宿の手配をしてこようか。もう少し待てば別の依頼が来るかもしれないし。……ここにいてもジュース代がかさむだけだし」


 それに、周囲の冒険者達がひそひそとこちらを見て噂をしているようだ。

 何かやらかしたのだろうか、ソト師匠とかアイスとかが。


「あのパーティかわいい子揃いだな」

「あっちのどんちゃん騒ぎしてる小さいのを除けば大当たりだぜ」


「あの子達、新人ちゃんかしら」

「やだー、ワタシ欲しくなっちゃう」

「誘って仲間にしましょうよ」


 ……。

 ああ、そういう……。


「……よし、全員共犯だ。僕のせいじゃない」


 ポジティブな発想に切り替えた。

 若い女の子達と若い男の子だけで旅をしているパーティが珍しいのだろう、地元の冒険者ではないし。

 ナチュラルにソト師匠が除外されている気がしたが、名誉とぶどうジュース代の為に黙殺していきたい。


「あそこらへんのカデュウ派っぽい人達が仲間にしてほしそうな目で見つめているけど」

「見なければ存在しないのと同じ事だよ、クロス」




 妙な扱いをされる前にカデュウは宿探しへと脱出した。


「どこか、お安くてお食事の美味しい素敵な宿を探そう」


 何度も言うがお食事は大事です。


「いやっふー! 良い気分だなー、でも私もこの辺りには来た事ないから知らんぞー」

「ソト師匠も知らないんですか」

「ギルドに戻って聞いてみれば? カデュウ派の人達が喜んで教えてくれるかも」

「なんか怖いから嫌です」


「……あそこがいいかも」


 と、イスマが指さしたその場所は、とても古めかしい小さな宿であった。

 お値段も庶民的な気配が伝わってくる。

 やや大通りからは隠れた形になっており、客は少なそうだが。

 少し変わったところで建物は頑丈そうな切れ目のない石材らしき素材が使われている。

 この宿だけではなく他の場所でも稀にこうしたものを見かけたのだが……。


「まぁ……。特にあてもないし、お昼過ぎちゃってるから……、ここで決めようか」


 宿の中も結構な年季の入った様子だが、意外な程に行き届いた内装だ。

 しかし、この建築素材はどこかで……。


「あ、もしかして、魔王城と同じような素材?」

「いや、少し違うな。魔王城の建材からは魔力的な力を感じるが、こっちはあくまで普通の建材のようだ。とても頑丈そうだが……」


「おや、お客さんかい? 壁に注目するなんて変わった人達じゃね。宿が古すぎて驚いてるのかいな」


 受付の方からお婆さんが声をかけ近づいてきた。


「あ、失礼しました。お部屋は空いていますか?」

「あいにくと1部屋空いとるよ、お前さん達でめでたく満室さ。運の良い子達じゃての」




「古い壁だろう? この宿はミルディアスの建物を使っているのさ」


「この建物、ミルディアス帝国時代のものなんですか……」

「数百年前にご先祖様が買い取って以来の立派な老舗じゃて。どうせならもっと新しく大通りの建物にして欲しかったがね。……どっちにしろこのババアの時代にゃボロになってるだろうがねえ。ひゃっひゃっひゃ」


「宿の歴史は建物程古くはないんですか」

「何でこんな所買ったのかはわからんが、とても頑丈なのは確かじゃの。コンクレトゥスっちゅう素材で作られてるらしいのう、水道橋と同じなんじゃと」

「頑丈なのは良いですね。多分、今となってはとても価値のある建築ですよ」


 少なくとも、昔の建築物を所有出来るという希少価値はありそうだ。

 そんなマニアがいるのかどうかはともかく。


「そんなもんかねえ。ほれ、2階の部屋を使いな。ボロいし宿代は安いが、食事だけは立派なもんじゃから、外で食べてくるのはおすすめしないよ? この辺じゃ飯屋よりもうちが一番さ。飯だけ食べにくる不届き者もいるほどじゃわ。ひゃっひゃっひゃ」


 おお、それは良い情報だ。食事大事、超大事。


 借りた部屋に荷物を置き、皆それぞれにくつろいでいる。

 この宿には前回のような独特の設備はないようだ。

 

 少し休んだらギルドにて新規依頼の確認をしに行かなくてはならないのだが……。


「僕、あまり行きたくないんだけど……。なんか怖いし」

「ソトさんはいい具合に出来上がってお休みしてるし、他の人はアレだし。交易や村の開拓に繋がる事もあるかもしれないから、カデュウ以外に適任者はいないよ?」

「ぐぬぬ……」


「どうも、アレな他の奴です。めんどくさい事は任せます」

「……アレなやつです。ジュースとかのみます」

「アレな奴です。言いつけを守るからやたらに人は斬りませんよ」


 とてもチームワークの取れた素晴らしい仲間達であった。

 前線の人数以外、色々な面で足りないパーティなのではなかろうか……。


「どうしようクロス。一人で行きたくないけど、みんなで行くとそれはそれで問題を起こしてくれそう、具体的に言うと最後の子が」

「学習できる子ですよ? きっちり姫を守ります! なるべく斬りません!」

「姫じゃないですし!? そして、なるべくとか怪しい単語で保証しないで!?」


「……ふ。そろそろでばんか」

「そんな問題起す気満々の出番の子はいりません! イスマはジュース飲んでていいから」


「たまには私がやっとく? 気に入らない奴はぶちのめせばいいって父さんも言ってたし」

「何やる気なんですかね。ユディのお父さんぶちのめすどころか、ぶちころがしてますよね」


「カデュウ、私も何かやらかした方がいい?」

「君達、ノリノリでやらかそうとしないで下さい。大人しくスタップアンドステイ!」


 結局、自身で行くしかないと悟ったのであった。

 お前も大変だな、などとシュバイニーに慰められながら……。

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